第219話 不明な視線
カシワギに答え合わせをして貰ったあと、適当に歩いていると、
「あっ、アリスちゃん」
ってな感じで、イリナに声を掛けられた。
「どうも」
寝るって言ったのに、こんな所に居る事実に、若干の良心の呵責が起き、短く返事をした。
「何やってたの、アリスちゃん」
何も気にしていないのか、彼女は私にそう問いかけた。
(あっ、ありがてぇ)
と思いながら、
「えっと、カシワギさんと話してました」
こう返答をすると、
「どんな話してたの」
気になったのか、ちょっぴり大きな声で言い、私の両手を掴み、顔を近づけた。
「そっ、その、秘密です」
若干、緊張した私が言うと、
「えぇ、どうして」
と言われてしまった。
(どうしても何も、復讐の話なんてするべきじゃないよな。別に話しても面白くないし、聞いても面白くないだろうし)
こう考え、
「秘密にしたいからですよ~」
と冗談めかした声を出した。
「えぇ」
彼女は、可愛らしくそう言い、口を開け声を発した。
「教えてよぉ」
と。
(・・・何か、変な感じがするな。視線だよな。・・目の前のこの子じゃない。誰だ。一体)
変なちょっぴり黒い感情が混じったような、刺さるような視線にそう思い、私は、辺りを見回したが、周りには、特に目立った者は居なく。他と同様に壊れた人が居るだけだった。
「・・どうかしたの、アリスちゃん」
イリナに返事をしていなかったので、心配されたのだろう。
「あっ、いえ、何でもありませんよ」
申し訳ない気持ちで、焦りながらも返すと、
「な~んだ。よかったぁ」
彼女は、そう言いながら、
「あっ」
と小さく呟き、私の後ろに視線をふと動かすと、みるみるうちに顔を蒼白にさせ、
「仕事忘れてたぁ、たはぁ~」
こう言いながら、どっかに走って行った。
(えっ、何。後ろに何かあるの。それとも、私、嫌われちゃったか。流石に、嫌われたら傷付くぞ)
と思いながら、イリナが向いた方を見ると、やれやれと言った様子のマルコが出てきた。
「うっ」
ビビってしまった私は、そう言いながら、ちょっと体を動かし、
(ビビったぁ、えっ、ビビったぁ)
と心中で呟き、
「どうかしましたか」
こう彼に問いかけると、
「いやぁ、何て言うか、見知った顔が居るなぁって思って、近づいただけなんだが・・・」
若干、寂しそうな声で返された。
(あっ、えっ、そうなんだ。てっきり、イリナが仕事でもサボってたのかと思った。発言的に)
と思いながらも、
「追ったらどうです。何か、イリナさん勘違いしてそうですし」
こう助言をするように言うと、
「あっ、うん。そうする」
彼は、そう言いながら、ゆっくりとした歩調で歩いて行った。
・・・・未だに、視線は消えていない。
(何だ、本当に、誰だ)
少しだけ恐怖を抱きながらも、適当な方向に歩いて行った。
・・・何か、視線が付いてきているような気がするが、気のせいだよな。そうだよな。えっ、怖いんだけど。
…………
そんなこんなで、数分間歩き続け、私は、
(面倒くせ。何で、私が。この私が、ビビって逃げ回らないといけないんだ~。こんなの絶対に、間違ってる)
と何故か思った事を心中で叫び、立ち止まった。
(何処だ。私を見つめてる野郎は、何処にいる)
感覚を研ぎ澄まして、刺さるような視線を向けてきている者の居る方角を、何となく目星を付け、そこに向かって、多分、平均より少し短い程度の足を、必死に、全力で動かし、走った。
そして、私を延々見続けていた奴を見つけた。
「・・・貴方でしたか」
見知った顔だったので、驚きながらも、そう声を漏らすと、
「あっ、えっ、いや、ちっ、違うの、あっ、アリス」
と言い訳をするような、そんな様子のイレーネのことを見つめた。
何時まで経っても、うだうだと無駄なことを言ってきたので、
「イレーネさんが、ずっと付いてきていたんですか」
再度、問いかけるように言う。
すると、
「その、その、ごめん。アリス」
彼女は、若干の縋るような視線を私に寄せてきた。
(あぁ、何か、嫌いだなぁ、この視線)
と思いながらも、
「分りました。許しましょう」
こう許しを与えると、あたふたしている彼女は、『良いのか』と問いかけるように、数秒見つめた後、
「良いの」
声に出し問いかけてきた。
「えぇ、構いませんよ」
私は、そう返して直ぐに、
「ただし、何故、私を付けたのかを詳細に教えてくれるというのなら」
と付け足しをすると、
「その、何て言うのか、その」
思案をするように、彼女は、言葉を紡いだ。
・・・しかも、全部、『その』だの『あの』だの意味の無い言葉だ。
「イレーネさん、直ぐに教えてくださいよ」
私が彼女を責めるように、近づきながら言うと、
「その、あっ、アリスが、その、知らない人と話していたから、その、心配で」
意味の分からない事を言ってきた。
(いや、お前は、お母さんか)
と言う寒い考えと、
(意味が分らない。何で、それで心配になるんだ。私だって、私の人脈とか、関わりがあると言うのに)
と言う冷静な考え、それと、
(錯乱でもしてるのか)
分析している考えが、私の思考に溢れた。
「イレーネさん。心配しなくても良いんですよ。あの人達は、私の友達なので」
こう言い、他にも色々と注釈とかを続け、彼女の錯乱を治したのだった。
何か、私って、もしかしてそういうの才能あるのかも。って思うくらいには、長く頑張ったよ。
そう言えば、もう時間、思いっ切り飛ばしますね。
何て言うか、もうその、此処描くの飽きました。




