第197話 前提条件の崩壊、代替案の作成
化粧をした女は、その後、私を、ジロジロと気持ち悪く、舐めるように見つめ、
「絶対に、届けてくださいませ」
こう声を漏らし、この牢屋から出て行った。
先程まで、値段に戦々恐々としていた私は、
(待てよ、マジで、私、売られたの、マジ、てか、奴隷の紋って何)
こう混乱をし、
「・・・売ったの」
問いかけるように、突っ立ていた、不潔男に視線を向ける。
「・・・やぁ~と、てめぇ、みたいなクソガキと、さよならできる」
男は、私の視線の意図を感じとったのか、そう発言し、どっかに行ってしまった。
(やばい、やばい、当初の計画が、狂った。時間を掛けて、例の女の子と、仲良くなるはずなのに。・・・どうする、どうする、どうすr。・・・どうする。どうやって、動く。どうやって、動くべきだ。どうやって動けば・・・・)
売られるまで、2,3日と制限時間が、定められてしまったために、私は、焦って頭を回した。
・・・数時間、頭を回し続け、壊れてしまった計画、その代替案を考えた。
考えたのだが、結局は、まともな、成功する可能性が高く、被害が少ない案。
それが、思いつけることはなかった。
(どうする、どうすれば、どうやれば、何が正解なんだ)
私は、迷いながらも、立ち上がろうとし、
『ガシャン』
と音を立てながら、倒れてしまった。
(忘れてた、拘束具、付けられてたんだった、あぁぁ、もう、あぁぁ、もう、もう、もう)
非常に大きな、吐き気さえ抱く、そんな苛つきを覚えながら、そう思った。その後、
(どうやれば、どうすれば、売られない・・・)
頭を、再度回し始めると、耳障りな、うざったい、大きな、大きな足音が聞こえてきた。
(何だよ、邪魔だ)
私は、こう小さく、心中で、呟くと、
「─────」
何かを言う声と共に、牢屋の扉が開いた。
(・・・邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ、うるさい、ウザイ、ウザイ)
私は、更なる苛つきを覚えていると、
『ガシャン』
金属音が、何度か響き渡り、今まで、枷をされていた身体が、解放された。
(・・・・何の意味があるんだ)
先程まで、代替案を考えるのに、必死だった私の思考は、その疑問を抱いた。
「ありがと、・・何の意味があって、外したの」
邪魔になりそうな疑問を、問いかけると、
「飯だ、何度も言わせるな、殺すぞ」
こう言われてしまった。
(・・・そう言うことか)
納得しつつ、
「そう」
小さく返事をすると、不潔な男は、木の器を置いて、どっかに戻って行ってしまった。
(さて、一応、食べるか)
私は、心中で、そう呟きながら、黙々と器の中身を食べた。
…………
(落ち着いた、さて、どうするか)
ご飯を食べ、少しだけ落ち着いた私は、そう思いながら、再度頭を回した。
(私が、買われたのは、この顔のせいだ、それ以外、考えられないよな)
買われた理由を考えた私は、
(それじゃあ、この顔がグチャグチャにでもなれば、買われないのか。・・・・もう、遅いか、買われてるはずだから。・・・これは、最終手段か。・・・そっ、それじゃあ、どうすれば・・・・)
と数分間、考え続けたのだが、結局、最善策は思い付くことが出来なかった。
(あの女の子に会わないと、もしかしたら、2,3日の間に、心を開いてくれるかも知れないし)
私は、そう思いながら、牢屋から出て、彼女の部屋に向かった。
「ご飯、食べますか」
笑顔を顔に貼り付けながら、そう声を掛けると、
『コクンコクン』
彼女は、少し私を、
『ジーッ』
と見つめた後に、頭を縦に振った。
「そうですか」
私は、ご飯を渡すと、彼女は、黙々と食べ始めた。
…………
数分後、彼女が食べ終わり、沈黙が続いていると、
「おっ、おねぇさん」
私とは違う、か細い声が響いた。
(誰だ・・・・)
一瞬、警戒を抱き、
(って、まぁ、この子、以外居ないか)
当然のことを思い、
「どうしたの」
短く問いかける。
すると、
「おねぇさんは、居なくなっちゃうの」
こう問いを返された。
「・・・」
一瞬、私は、返答に迷い、
「どうでしょうね」
『分らない』
とでも言うような、演技をし、そう言う。
すると、
『何処にも行かないで』
こう言うような、縋るような、救いを求めるような、哀れな視線を感じた。
(・・・・この空気は、駄目だ。いけない)
こう視線とともに、感じた私は、
「何か聞きたい事ありますか、私が答えられる事なら、なんでも答えてあげましょう」
極めて陽気な、先生と話している時くらいの声で話しかける。
「・・・」
彼女は、
『どうしてそのような事を問いかけるのか』
それが、分らないように、頭を動かした。
「兎に角、何でも聞いて下さい」
私は、無理矢理にでも、空気を変えたいので、再度問いかけると、
「・・・おねぇさんは、どうやって、入ってるの」
質問をしてくれた。
(ありがと)
心中で小さく呟きながら、
「そうですね・・・」
答えても良いのかどうか、これを考え始めた。
(駄目な気がするんだけど。だって、普通に、魔法って確か、一五歳からだよね。それで、私は、九歳だよね・・・駄目だね)
話してはいけないことだ、と判断した私は、
「ごめんなさい、それは、話せません」
と答える。
『どうして、教えてくれないのか』
こう非難するような、悲しそうな視線が突き刺さった。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
その為、私は、こう謝罪の言葉を漏らすのだった。




