第13話 君は、一体誰だ?
『魔術の純度を上げる方法』
これのやり方を固唾を飲みながら猫が言い出すのを待っていると猫は、
「やべ、帰ってきた」
こう呟きその黒い妖艶な毛を靡かせて奥に歩いて行った。
(何がやばいんだ。てか、何が帰ってきたんだ。それと、お前何処に行くんだ)
混乱していると、扉からガチャという開く音が聞こえてきた。
(どうして、開いたんだろう)
疑問に思い、扉の方を向く。
するとそこには、お父様が仁王立ちしていた。
喋っている猫を見られたのか。
それとも朝のことまだお怒りになられているのか。
前者の可能性は極めて低いように思えるが、どちらの可能性もありそうなため、不安に思っていると、冷たい裏に隠れた憤慨を隠す声が響いた。
「エミリー来なさい」
「はっ、はい。お父様」
(何の話をするんだろう。怒られるかなまた)
怖がりつつも、お父様の方に歩き、背中を追った。
(何処に行くんだろう)
着々と降り積もる恐怖に固唾を呑む。
数分──私的には数時間にも感じた──の間、妙に長く感じる道を歩き続けていると、お父様は扉を前にして歩みを止めた。
そして、嫌々そうに溜息を漏らし、ドアノブに手を掛けた。
「エミリー、君には、護衛を付けることにした」
「えっと、あの──」
「僕が守ってやりたかったんだけど、友人に止められてしまってね。だから、私が信頼出来る従者を護衛に付けよう」
(どうして、そんな声を出すんだこの人は)
悔しげな声に意味のわからなさを感じつつ、
「心配してくださり、ありがとうございます。お父様」
御礼を口にした。顔を伺いながら。
(もう、怒っていなさそうだな)
多少の憤慨の感情を表情から見ることができるが、それはたぶん私に向けられたものではなさそうだ。
私に向けられたものがあったとしても、微量だろう。多分。
若干の安堵を抱いていると、お父様がドアノブを捻った。
そして、中央に椅子が置かれ、それ以外はめぼしいものが置かれていない部屋が露わになる。
(うわぁ、なんもない。ていうか、あれっ?)
違和感を抱き、こちら側を向いているお父様の顔を見つめる。
彼は、こちらを向きつつ、手を椅子に向け話を始めた。
「あれが、エミリー、君の護衛となるアースベルトという男だ」
「へっ、あっ、はい」
「どうしたんだい、あれが嫌か?」
「えっ、あのっ、その彼、アースベルトさんは何処に?」
「えっ、あそこに──」
なんというべきか、お父様の指差す椅子、そこには誰も座ってなく、ただ虚空が拡がるのみであった。
「・・・」
「・・・エミリー、此処で少し待っていてくれるかい?」
「はっ、はい。分かりました、・・・そのっ、何処へ?」
「逃げ出した者を連れ帰ってくるだけさ」
「えっと、乱暴はいけませんよ?」
「大丈夫、なにもしないさ」
そして、お父様は部屋から飛び出して行った。
・・・部屋の外から聞こえた、『あのクソ野郎、覚悟しろよ』という声は気のせいだろう。うん。きっとそうだ。
さて、話は変わるのだが、私は何をすればいいのだろうか?
お父様からは、此処で待っていろと言われてはいるのだが、こんな何もないところでいつ帰ってくるのかわからない者を待つというのは、些かではあるが辛いことのように思える。
「お父様、置いてかないでよ、こんな部屋に」
悲痛に声を漏らしつつ、部屋の外に出で、お父様の声が響いてきた方向に歩みを進めた。
暇つぶしになるようなものはなく、特筆すべき点は何もないところ、そのようなところにいたら大変に頭がおかしくなりそうな気がしたのだ。
故に、早速約束を破った私に罪はない。
(どこにいるんだろう)
多少の罪悪感を積もらせつつ、無限に続くかのように思える同じ道を歩く。
まるで同じところを繰り返し歩いているようで、一切進めていないように思えるが、道に脇に飾られている花は微々たるものではあるが、異なっているので進んんでいるのだろう。
そして、そんな調子で歩いていると、いつしか、
(これ、待ってた方が良かったんじゃ無いか)
と後悔の邪念が湧いてきた。
邪念に支配され、一歩も進めなくなる、そんな危惧を抱き、
(今更、後悔しても遅いよな)
だと、脳のリソースの無駄だと、一つ一つ潰していき、歩き続けた。
けれど、一つ一つ潰していくのは間に合わなかった。
なので、私の頭は雑念に支配された。
(うぅあぁ!足が短い。足が短すぎる!このせいで異常なほどに歩くのが遅い、とろ過ぎるぐあぁぁ!)
(はあぁ、もう嫌だな、帰ろうかな)
どんどんと負の感情がわいてきた。
一つ一つの雑念を潰す工程はパンクして久しい。
(あぁ~疲れた、何か眠い部屋帰ろ)
こう思い辺りを見回したが、自分がどこにいるかが分からなくなってしまった。
「どうして、この屋敷は無駄にでかいんだよ」
文句を呟いたところで理由を思い出した。
(確かこの領は国境近くだから、この屋敷って防衛用の城砦なんだっけ)
「はぁ~、面倒くさい。どうすれば良いんだ。道しるべでも付けてくれよ」
とまたもや文句を呟き、棒になりそうな足を投げ出すように動かして歩き続けた。
(もう何時間も歩いてる気がする)
どうせ数十分だろうが、体感時間を吐き捨てていると中庭のような所に出た。
「初めて来たな此処」
小さく呟くと後ろから
「あんた、誰だ」
私の素性を問いかける声が聞こえてきた。
(初めて聞く声だ。誰だろう)
疑問と混乱を抱き後ろに振り向くとそこには、騎士だろうか?帯剣した幼い少年が立っていた。
やはり、初めて見る顔だ。
だが、服を見たことはある。
その少年の着ている服は、お師匠様と同じ服だ。
体格に合わせて小さめではあるが、確かに同じような模様と色をしている。
・・・地味にお師匠様、タンクトップのような薄い奴を着て腰に巻いてるだけだけど、あれって着てるって言えるのだろうか?
(あれってしわ凄そうだな)
ふざけた考えにふけっていると
「応えろ」
結構険しい声で怒ってきた。
返事をするべきなのだろうが、色々と考えたいことが出て来たので無視して思考を続行した。
(あの胸の辺りにある・・・なんて言うんだっけあれ?何か、あのマークみたいな奴が騎士の証しなのかな?って言う事は、お師匠騎士だったのか?師匠の服にもあんなの有ったけど、まさか、本当にあの人騎士なのか?粗野すぎないか?)
疑問を並べていると、目の前に立っている少年が
「何か言ったらどうだ」
本気で切れている声で怒鳴った。
(少年、そんなんじゃ、モテないぞ)
馬鹿にするように思いつつ、少年の顔をまじまじと見ているとすっごいイケメンだった。
(糞が、この顔だったらモテるだろうな)
顔をマジマジと見つめていると照れたように
「顔を見ているだけじゃ無く返事をしろ」
と溜飲を少し下げてくれたのか、ちょっと冷静な声で命令してきた。
(おっ少年、照れたな。これは、良いおもちゃになりそうだ。何か忘れてるような気もするが別に良いか。こいつで遊ぼう)
と思った私は、騎士の顔を見続けた。
(何か、いざ話しかけようと思うと何か恥ずかしいな)
今まさに話しかけよう、というところで無駄に緊張が湧いて来てしまったためである。
そして、
「まさか、お前声が出せないのか」
いらぬ心配すら掛けてしまった。
(やっべ、あらぬ心配されてーら)
流石に申し訳なく慌てて
「声は出せます」
返すと
「声が出せるなら、そうと早く言え」
と怒られてしまいました。
2023年3月27日、12:18
加筆、表現の修正、変更
2023/09/23、2:08
修正と加筆
2023/09/27、1:05
修正&加筆+表現の小さな変更




