8 ランク昇格に向けて
翌朝二人はすっきりと目覚めると、ささっと朝食を済ませた。
しばらくの予定としては特になく、クエストを達成し冒険者としての経験を積むくらいである。
パーティを組んでクエストをこなすこともできるのだが、竜斗に合わせたクエストだとシルビーにとっては大して意味がないし、逆にシルビーに合わせると竜斗は実力に見合わない成果を挙げることになってしまう。
なので、ひとまずはそれぞれソロでクエストをこなし、竜斗がランク以上のクエストを受ける時だけシルビーと一緒に行動することにした。
「とりあえずこの一週間で竜斗のランクをEまでは上げたいね」
「Eランクにはどれくらいで上がるんだ?」
「クエストの失敗さえなければFランク15個かEランク8個くらいで大丈夫だよ。イメージで言うとFランクのクエストが1ポイント、Eランクが2ポイントって感じで合計15ポイントあれば昇格みたいな。それで失敗すると、その時の緊急度に応じてマイナスされるって感じかな。実際はもっと細かいみたいだけど大体そんな感じって思ってもらえれば問題ないと思うよ」
つまりFランククエストだとあと14個。昨日ハリスが言っていた一日に1個か2個くらいでいいというのは、一週間でランクアップを目指すのが平均という意味だったのだろう。
竜斗にとっては、ランクを上げることも大事だがそれよりも実力を上げることの方が優先だった。
ランクが上がることのメリットとしては、上位のクエストを受けられるようになるので、その分達成報酬が増える。冒険者としての地位、名声を高められる。国、街の名誉冒険者になれば、物件の購入や通常の買い物時に優遇される。などが主なメリットになる。もちろん興味がない冒険者も多く、力試しの感覚でやっている者も多い。
ランクを急いであげなくてもいいとは言え、竜斗にはお金が欲しい理由があった。シルビーに対してこの先ずっと借りを作り続けるのは、気持ち的にあまりよくない。
「そういえば、討伐系のクエストの達成ってどうやって判断するんだ? モンスターの一部を持ち帰ったりするのか?」
「ああ、説明してなかったっけ。モンスターの中心にはね”核”っていう部分があるの。倒したモンスターの体に触れて魔力を込めれば核は取り出せるから、それをギルドに持ち帰ってクエスト完了の報告をするんだよ。低級の討伐クエストは経験を積むためだから、別に依頼を受けてから改めて倒す必要はなくて……あっ」
ということは昨日までに倒したモンスターからも核は取れたはずである。
竜斗には、なんとなくシルビーの言わんとしていることが分かった。
少し気まずそうにシルビーは続ける。
「だから……昨日までに倒したゴブリンとかの核取ってたら、いくつかはクエスト達成できてた、かも……ま、まあ、竜斗なら楽勝だと思うし、これからはそうしたらいいと思うよ!」
誤魔化して言うシルビーに対し、竜斗は特に怒る気にもなれなかった。
呆れているという方が今の感情に近かった。
「核はモンスターによって違うのか?」
「あ、うん。モンスターによっても違うし、レベルによって大きさも違うよ。中級以上のクエストだと何レベル以上のモンスター討伐っていう風にレベルの指定もされることがあるから、その証明になるんだろうね」
モンスターのレベルがあるというのは初耳だった。当然ゲームではないのでモンスターにステータスが表示されることはない。
「じゃあ戦って倒さないとレベルがわからないのか。それは結構大変だな」
「一応、鑑定の魔法を使えばレベルはわかるよ。だからそういうクエストの時には使うけど、モンスターの名前とレベルしかわからないからほんとにそれ専用って感じ。私もあんまり使ったことはないなあ。魔法自体は無属性魔法だから竜斗もきっとすぐ覚えられるよ」
シルビーの言うすぐがどれくらいなのかわからないし、今後シルビーと行動を共にするなら別に覚えなくてもいいかと、竜斗は内心思っていた。
「……ん? あんまり使ったことないってことは、使ったことはあるんだよな? シルビーのランクっていまどこなんだ?」
「私のランク? 今はBランクだね」
シルビーは特に偉ぶるわけもなく、淡々と答える。
経済力で負け、戦闘力でも負け、人としての器でも負け気味、さらにはランクでも負け。
竜斗はがっくりと肩を落とした。せめてDランクくらいかと思っていたのに、想像以上だった。
「……それじゃあ、ギルド行ってくるわ……」
「え、うん……行ってらっしゃい。今日は夕方くらいに落ち合うって感じで……いい?」
竜斗はそのまま小さく手を挙げて答えると、そのままとぼとぼと歩いていった。
どうして竜斗が落ち込んでいるのかシルビーにはわからない。
頭にクエスチョンマークをたくさん浮かべながら、ただ見送っていた。
ギルドに着いてすぐにクエストを確認する。Fランクのクエストはシルビーが言っていた通り、経験を積むためのもので緊急性もなく、常在しているクエストのようだった。
昨日見た時と内容は変わっていない。
討伐クエストで、ゴブリン討伐とスライム討伐、タイニーウルフの討伐、三種類の討伐依頼があることを確認し、タイニーウルフ討伐の紙を取った。
「おはようございます。このクエストお願いします」
冒険者カードをハリスに渡し、クエストの登録をお願いする。
カードとクエストの紙を受け取り、何やら操作を行う。
「おはようございます。かしこまりました。タイニーウルフは群れでいることが多いので気を付けてくださいね」
お礼を言って、カードを受け取った。
他の討伐クエストの必要数を再度確認して、ギルドを後にした。
「さてと、余裕がありそうだったら他の討伐クエスト分もこなしていきたいな。とはいえ調子乗ってもいいことないし、まあ気楽にいくか」
竜斗は今日、もう夕方まで戻ってくるつもりはなかった。
念のための魔力回復ポーションを二個ほど買って、門から出た。
昨日と同じように門を通過し、モンスターを探しに森の中に行く。
ダンジョンについても意外と近くにあるらしいので、ついでに見に行く予定だった。
朝一だというのに、門の外には多くの冒険者がたむろっている。
装備の感じや、雰囲気を見ると竜斗と同じく初心者のようだ。竜斗と違うのはみなパーティで行動しているところだった。
「そういえばパーティについてのクエストの違いとか聞いておくべきだったか」
単純に討伐数が増えるだけなのか、モンスターのランクが上がるのか。
経験値についても少し気になるところではあった。
「今度シルビーに……いやソロ勢かもしれないし、無難にハリスさんに聞くか」
周囲を見渡してみると、さらに人が増えてきていた。このままだとモンスターの取り合いになりそうだった。
竜斗は見物もそこそこに少し奥の方まで歩いていくことにする。
道中モンスターとはほとんど出会えなかった。見つけたとしても他のパーティが戦闘中であったり、かなり距離が離れていたりして攻撃はできない。
「うーん、どうしたもんか。それにタイニーウルフなんて見たことないんだよな。群れでいるって言ってたが……仕方ないか」
魔力消費を抑えておきたい気持ちもあったが、このままでは狩りつくされてしまいそうだった。
竜斗は武闘を発動し、身体能力を強化する。足に力を集中させ、地面を強く蹴った。歩くのではなく跳んでいく感覚。
純粋に速く動くこともできるし、力をためる感じで跳躍すればあたりを見ることもできる。
少し遠くにゴブリンが一体見えたのでそちらに向かう。
一体だけのゴブリンなどもう竜斗にとっては何の問題もなく倒せる相手になっていた。
素早く近づくと掌底を食らわせる。状態が浮き上がったところにハイキックを叩き込み、あっさりノックアウトした。
ゴブリンに魔力を込めると中から核が浮かび上がってくる。赤く小さい、宝石のようだったがあまりお世辞にもきれいではなかった。
竜斗は、ポケットに核をしまうと今の戦いを振り返る。
身体強化をかけていたとはいえ、無傷で倒せるというのは自信につながった。
それに新しい装備も動きやすくいい感じだった。装備で強くなるというのは少しずるい気もするが、頼りすぎなければいいだろう。
身体強化に関しても戦闘では最低限で、索敵にメインで使うことにした。
そこからは効率よくモンスターを倒すことができた。冒険者が少ないところを探し、さくっと倒して次に行く。
各クエストの必要討伐数をゴブリンとスライム分は達成することができた。
「さて、まだいれば倒していきたいところだが、肝心のタイニーウルフがいねえんだよな」
どうしようか、と考えていたところ遠くから遠吠えが聞こえた。
「ウルフっていうくらいだから狼だよな」
冒険者カードを確認し、詳細を見る。見た目からしても狼っぽかった。
「ということは間違いなさそうだな」
竜斗は声のする方に走って向かった。森の割と深いところ。大きな岩が三つ並ぶ少し広い空間に狼が三体立っていた。
初の三体相手での戦闘。武闘を発動し、ポーションを一息に飲み干した。
先制攻撃は必須だ。森の陰から一体に狙いを定め一気に距離を詰める。全力で繰り出した正拳突きは一体を吹き飛ばした。
そして、殴りかかる瞬間に雷撃を発動し、もう一体もあっさりと倒した。
一瞬の出来事にタイニーウルフは驚き身じろぐ。竜斗を敵と認識したのか、牙を剥き威嚇をする。
先ほどの遠吠えとは違う咆哮をあげ、じりじりと距離を取ってきた。
竜斗は一体目を倒した時と同じように、足に力をため跳びかかった。タイニーウルフは腕が当たる瞬間に後方に飛び、衝撃を吸収する。
少なくはないダメージを与えられたものの倒すまでには至らなかった。
「さすがに一撃じゃやりきれないか……てか俺の攻撃がわかってたみたいな感じだったな。連携だけじゃなく学習能力もあるってことなのか……」
とはいえ、これまで倒してきたゴブリンが学習している様子はなかった。ということは一回の戦闘中だけ学習するということなのだろうか。
「複数と戦う時はなるべき短期決戦を心掛けた方が賢明ってことか……」
瀕死のタイニーウルフにとどめを刺す。それぞれから核を取り出し、ポケットにしまった。
「それにしても、説明見た感じウルフ族のタイニーウルフなんだよな。ゴブリンとかはゴブリン族だし、スライムもそうだったしな。ってことは普通のウルフよりも弱いってことだよな……」
がぁおおおおん!!
「……っ!」
竜斗は急な悪寒を全身に感じ、一瞬動けなくなった。
さっきまでのタイニーウルフの咆哮がかわいく感じるほどの、敵意をむき出しにした咆哮。
タイニーウルフよりも体が二回りくらい大きい狼。黒いオーラを纏い、鋭い眼光で竜斗をにらみつけていた。
やばい空気を全身にひしひしと感じる。明らかに格上の存在だということは、レベルがわからなくても肌で理解できた。
逃げる想定をしても、逃げ切れる気がしない。そもそもここまで全く気配なく近づかれている時点で、かなり厳しそうだ。
「逃げたら確実に死ぬ……戦ってもかなり厳しい……だが生き残れる可能性は戦った方が高い、か……」
覚悟を決め、再び武闘を発動する。全身に力がみなぎるのを感じ、少しずつ距離を詰めていく。
高所にいるからと言って跳べば、跳躍している間に狙われてしまう。むしろ攻撃を仕掛けてもらいカウンターを当てる方が、有効だと判断した。
自身へのダメージ覚悟で雷撃を発動し、狼に向けて放つ。あっさりと躱され、隣の岩に飛び移った。
狼がにやっと笑ったように見えた、その瞬間。狼は消えるようにその場からいなくなり、気づいた時には竜斗の目の前まで来ていた。
狼は爪を振り上げると、竜斗に襲い掛かってきた。身をひるがえしてかろうじて躱す。
振り下ろされた爪が地面をえぐり、衝撃は竜斗をバランスを崩させた。
とっさに拳を振り下ろし反撃を図ると、それは狼に命中した。
「がああぁう!」
ダメージは入っているようで、苦悶の表情を浮かべると、すぐさま牙を剥き噛みついてきた。
慌てて躱そうとするが、全部は避けきれない。脇腹をかすめた攻撃により、竜斗の服は赤く染まった。
激しい痛みを感じながら、竜斗は後方に後ずさる。傷にすぐ手をかざし、魔力を込めた。
淡い緑色の光を放つと、傷はすっきり消え、痛みもなくなった。その代わりに全身にだるさが走る。
「昨日使った時とはだいぶ違うな……ケガの大きさで消費魔力も違うってことか……」
手持ちのポーションはあと一つだけ。正確な値はわからないが、今程度の回復を使えてあと2回というところだった。
状況を整理し、戦い方を考える。
(ダメージは入ってる。シルビーのステータスを見せてもらった感じ、力だけなら高レベルと遜色ないはずだ。となるといかに攻撃を当てるかだが……仕方ない)
竜斗は拳を構えながら近づき、わざと大振りのパンチを繰り出す。右フックは軽く躱され、狼は左下に身を下げた。
ちょうど正面に来た狼の顔面に強烈な蹴りを叩き込む。顔面がゆがむほどの蹴りは、狼の体を微かに宙に浮かせる。すかさず、雷撃を発動するがそれは躱されてしまった。
「浮いてんのに躱すってそんなのありかよ……それにしてもさっきから雷に対してやけに警戒してるな」
モンスターに苦手な属性があるという話は聞いていなかったが、竜斗にはそうとしか思えなかった。
「それならなおのこと好都合だな」
バッグから昨日買ったバンデージを出し、両手に巻き付ける。
まずは右手に魔力を込めると、ビリビリと電流が宿る。
竜斗は再び攻撃を仕掛け、拳を放った。狼はそれを爪で受け止めようとしたが、ビリっと電気が流れるのを感じ、ぱっと飛びのく。
「ぐるるるるっ!」
唸り声をあげ、爪を大きく振り上げた。クロスを描いて振り下ろされると、空気が裂けるように竜斗に近づいてきた。
地面に波紋を刻みながら、それ、は向かってくる。
竜斗は急いでそれを避けると、地面に転がった。それ、の先を見てみると、木々に大きく裂けた痕が付いていた。
「モンスターって魔法も使ってくるのかよ……あれはさすがに直接食らうとまずいな」
魔法の威力としては高いが、スピードはそこまでない。冷静に見極めれば避けることは問題なさそうだ。
狼の一挙手一投足に全神経を集中させる。ピクっと足の筋肉が動いたのを見て、竜斗も反射的に跳んだ。
予想通り、一気に近づいてきた狼の攻撃をすっと躱す。隙ができた脇腹に右ストレートを入れると、狼は苦痛の声を漏らしながら地面に倒れる。
「ううぅ、がああぁ!」
苦しみながらも、咆哮をあげる。ゆっくり起き上がると爪をさっきよりも素早く動かし、魔法を発動させた。
竜斗は避けようとするも、そのスピードは先ほどの比ではなかった。距離が近かったこともあり、回避が間に合わない。
とっさに両手でガードするが、手はボロボロになり、傷だらけになる。手に巻いていたバンデージも引き裂かれ、地面に落ちた。
そこをチャンスと思ってか、狼は力を振り絞り襲い掛かってきた。
狼の攻撃は竜斗を捕らえ、牙が体にめり込む。
声にならない悲鳴を上げながらも、竜斗はにやっと笑った。
「……っ、学習能力の高さがあだになったな!」
噛みついてきた狼の体を腕で押しのけ、蹴りを入れる。
靴の先には、なくなったはずのバンデージが巻かれていた。蹴りが届いた瞬間、狼の体全体に電流が流れる。
吹き飛んでいった狼は、地面に転がり感電したようにびくびくとその場で震えていた。
視線はまっすぐに竜斗のことを捉え続けていたが、次第に意識が薄れ、最終的には光を放ち動かなくなった。
「はあ、はあ、どうやら……何とか倒せたみたいだな……」
痛みに耐え、荒くなる呼吸を何とか治める。手を合わせると、さっきと同じように光を放ちケガがなくなった。
体にだるさを感じつつ、次は体の傷だ。
お腹のあたりにできた傷に触れると、光と共に体のエネルギーがぐぐっと持っていかれる感覚に陥った。
さっきまでの比ではない。気を抜くと意識を持っていかれそうになる。
ギリギリのところで何とか耐えながら、最後のポーションに手をかける。
ぐいっと飲み干すと、意識が少しずつはっきりとしてきた。
周囲を警戒し、モンスターがもういないことを確認する。
「どうやら、あたりのモンスターはいなくなったみたいだな……相性もよかったし何とか助かったって感じか」
ボロボロになってしまったバンデージを拾いあげ、感慨深く眺める。
「警戒して右手だけに巻いといてよかったな……おかげであいつが突っ込んできてくれたし、ダミーを左手にはダミーを巻いておいてよかった」
竜斗はあらかじめ、右手にだけ本物を巻き左手には、シルビーに手当をしてもらった初日にできた傷。あの時の治療の包帯をカバンにしまっていたのだ。
狼的には予備もあるかもしれないとは思っていただろうが、すでに身につけているとはさすがに思っていなかったらしい。
結果的に両手が素手になったことを見て、攻撃を仕掛けてきたのだから竜斗の作戦は成功したと言えるだろう。
「昨日買ったばっかでボロボロにしちゃってシルビーに怒られるかもな……」
倒した狼から核を取り出す。タイニーウルフとよく似た形をしていたが、倍くらい大きくその中心は赤黒く濁っていた。
「とりあえずもう今日のところは帰ろう……もうポーションもないし、またあんなのと出くわしたらマジで死ぬな……」
強かったぜ、と狼に敬意を表し拳を掲げる。
毛皮とかが材料として売れるらしいが、竜斗には持ち帰る能力がない。
少しもったいないかなと思いながら、帰ろうとすると、
「おいおい、お前はあの時の雑魚じゃねえか。こんなところでボッチとは、雑魚は仲間すらできないようだな」
嫌味な言い回しと、聞き覚えのある声。
竜斗の中の不快指数がぐっと高まっていく。眉根を寄せながら、声の方を見ると案の定だった。
トロールの奴隷を連れていた、あの嫌みったらしいパーティ。そのパーティがどういうわけかそこに立っていた。
今日は車ではなく装備もそれなりに整え、歩きで来ていた。
「……一体何の用だ? こんなところまでわざわざ来るなんて」
「あ、そんなことはお前には関係ない。どういう不正を使って倒したかは知らんが、おとなしくそのウルフの核と素材を渡せ。そうすれば命くらいは助けてやらんこともないぞ」
上からの物言いと人を見下したような態度、なぜか渡さないと殺されるという理不尽な脅し。その全てが竜斗のイライラを募らせていた。
「何言ってるか知らんが、不正なんてした覚えはない。素材に関しては勝手に持ってっても構わんが、核を渡す理由はどこにもないだろ。お前ら自身で倒せばいいだけの話だろうが」
前回は下手に出たのにあの態度。竜斗はもはや取り繕う必要など全く感じなくなっていた。
「どうやら自分の立場が理解できていないようだな。理由なんて関係ない、すべて寄こせと言ってるんだからそうすればいいんだ」
「そうそう、おとなしく言うこと聞いといた方がいいよ。冒険者になったばっかりってことはまだFランクでしょ」
魔法使いの女が後ろから口をはさむ。もう一人の魔法使いも小さく頷いていた。
「俺たちのことをわかってないんだろう。俺たちは”闇夜の深淵”Bランクパーティだ。命を取らないだけありがたく思うことだ」
武闘家の男が偉そうに言ってくる。しばらく黙っているとぺらぺらと自分たちのことを話し始めた。
リーダーの男は剣士のフーリ。武闘家のマルコス、支援魔法使いのリベラと、攻撃魔法使いのリグラ。二人は姉妹らしい。そして、サポート特化の魔法剣士クレック。この五人のパーティだ。とにかく失敗が少なく、クエストをこなす数も冒険者一多いということで、かなりの速度でBランクまで昇格したらしい。
ほぼ自慢話だけの情報は竜斗の頭からほとんど抜け落ちていた。
「ともかく、さっさと立ち去った方が身のためだ、ということだけ言っておこう」
言われた通りにする、というのはものすごく釈然としない。ただ戦力差もあり、竜斗はかなり疲弊しているのも事実。
ポケットから、核を取り出そうとしたとき、
「おうあんちゃん、そいつの言う通りにする必要はねえぞ」
こちらも聞き覚えのある声がした。
さっきの狼の時の数倍空気が一気に冷えていく感覚。しかし、敵意は感じない。
「あ、あんたは……」
リーダーのフーリがその場でたじろいでいる。他のパーティメンバーも一歩も動けなくなっていた。
表情は青ざめ、冷汗が額を流れる。
「まさか、昨日の今日でまた会うとはな」
圧倒的存在感を放つその男は、最強の冒険者クーニファスだった。
「ダンジョンの下見に来てたんだがウルフの声がしたからな。増えないうちに討伐をと思って来てみれば、あんちゃんが変な連中に絡まれてたってわけだ」
ぎろっとフーリたちを睨みつける。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
「このままおとなしく去れば俺は何もしない。だがこれ以上何かするってんなら俺が相手をしてやるがどうだ?」
余裕綽々に言い放つクーニファスに対し、彼らは何も言い返せないでいた。
「……ちっ。仕方ない今日のところは行くぞ」
フーリは捨て台詞を残し、竜斗を睨みつけると他のメンバーを連れていなくなった。
「助かった、ありがとう」
「なに、気にするな。ああいうせこいことする奴らが気に入らないだけだ。それにしてももう戻るつもりだったみたいだが、素材は持って帰らないのか?」
「いや、バッグに余裕もないし、とりあえず核だけもって帰るつもりだったんだ」
ふむ、とクーニファスは狼に近づいていく。
「こいつらウルフ族は毛皮と爪はそれなりに売れるからな。せめて爪だけでも持ってかえりゃあ金になるぞ。金なんていくらあっても困るもんじゃねえからな」
クーニファスは狼の爪を持ち帰りやすい大きさに切り分けると、竜斗に手渡した。
竜斗は素直に受け取り、お礼を言った。
「それにしてもあんな奴らに絡まれるとはあんちゃんも運がねえな……しかしあれでBランクか……全くそうは見えねえけどな」
「今日みたいなことを繰り返してるんじゃないか? この辺は初心者冒険者も多いし」
「まあ、とにかく気を付けることだな。冒険者初めてすぐ死にましたじゃ格好つかないぜ」
がはは、と豪快に笑うとクーニファスはその場を立ち去ろうとする。
「そういえば……俺が今回助けたのはあいつらにムカついたからだ。あんちゃんだからじゃあない。道理に逆らうような真似してたら、あんちゃんだろうと俺は容赦なく敵対するからな」
声音は冷たく、言い放つという表現が適していた。
「ああ、それは当然だろ」
迷うことなく、即答する。
竜斗にとっての本心。別に人だからとか、亜人だからとか竜斗の中では関係ない。
シルビーやクーニファスの方がフーリたちよりも好感度は高いくらいだ。
しかし、その返答が予想外だったのか、クーニファスは一瞬だけだったが驚いていたようだった。
「やっぱりあんちゃんは面白いな……もし俺の故郷に来ることがあったら歓迎してやるぜ」
軽く手を挙げて挨拶をすると、今度こそクーニファスは去っていった。
クーニファスを見送り、竜斗もリヴィーザルに帰ることにする。
いつの間にかかなり時間は経過していた。朝早く出てきたはずなのに、もう日は傾いている。
静かになった途端、お腹が猛烈に空いてきた。
「はあ、飛んで帰る魔法でもないもんか……」
空腹と疲労にやられながら、竜斗は何とか帰路に着いたのだった。
11月に入ってからは一週間に一話くらいになるかと思います。
短くして投稿話数増やすかどうかは検討中です。