6 ステータス完全敗北
門の前まで来るとよりその大きさを体感する。
見上げようとすると後ろに倒れてしまうほどだった。
竜斗は入国するために入り口にできていた列に並ぶ。ポケットにある40枚近い銅貨の重みでポケットが少し伸びてしまっていた。
入国料の支払について不安だったので、竜斗はきょろきょろと辺りを見回す。
観察を続けているとどうやら冒険者カードが財布代わりになっているようだった。
現代で言うところのタッチICカードのように、門に設置された石の台にかざしていく。
登録されている情報が表示され、冒険者以外にも商人や、ただの一般人もいた。
個人証明のためにも何かしらのギルドに加入することは義務付けられているようだ。
まず向かうべきはギルドだな、と意気込み列が進むのを待つ。
そして竜斗の番になった。
「認証カードを提示してください」
門衛が業務的な口調で言った。
「あの、冒険者登録するために来たのでカードは持ってないです」
「ふーん、生まれた街で登録はしなかったのか?」
冒険者ギルドだったらどこの街にもある。
門衛は、竜斗が剣を持っている様子から、冒険者だろうとあてを付けて言った。
「いや、せっかくだから王国で登録しようかなと……」
「まあそうだな。カードには発行場所も記載されるから名前も分からない村とかで作るより格好つくよな」
門衛はそう言うとバックから自分のカードを出して竜斗に見せる。
「かく言う俺も王国にあこがれて、ほら。やっぱいいよな。しかもこの騎士団用のカードはまた色味が違っていいんだよ」
最初は冒険者から初めて騎士団にあこがれた、とか。守備隊長になるとさらに良くなるからそれを目指してる、とか。ご機嫌に話してくれた。
竜斗にとってすれば別にそんなことはどうでもいいので早く通してほしかったのだが。
「ああ、悪い、さっさと行きたいよな。入国料銅貨15枚だが、まあ初心者っつうことで5枚まけてやろう」
「え、いいんですか。ありがとうございます」
素直にお言葉に甘え、銅貨10枚を差し出す。
門衛は自分のカードを取り出しこれに入れるように言った。
竜斗は言われた通りに門衛のカードに銅貨を出すと飲み込まれるように消えていった。
入金されたことを確認し門衛はカードを台にかざし、銅貨15枚を支払う。
まけてくれるとは言え、いくら何でも勝手に減らすことはできないらしい。
竜斗は再度お礼を言うと門をくぐった。
ここに来るまでに見たのはシルビーに泊めてもらった小さな小屋だけ。
日本にいたときに高層ビルやマンションなど巨大な建物は見慣れていたが、それとはまた一風変わった建物が並んでいた。
石レンガによって建てられた2階建ての住居が道の両サイドに並ぶ。
質感や見た目は石だったが、よく見慣れている白っぽいものではなくカラフルに彩色されていた。
おとぎ話の世界に来たようで現実味があまりなかった。
歩道はしっかりと整備されており、しっかりと馬車などの車用の道も設けられている。歩道に沿って屋台のような小さな建物が並び、こちらは全て木造だった。
きちんと木だとわかる茶色ベースの屋台がずっと先まで続いていた。所々抜けがあったが、先ほど門を通過していった商人がそこに布を敷いて店を構えだした。
どうやら外部から来た行商人たちもここで店を出しているようだ。
門の外から聞こえていたのはこの通りの喧騒だったのだろう。怒鳴っているような声も時折聞こえてくるが、すぐ後には笑い声に変わっていた。
「おう、言い忘れてた。この通りは見ての通り出店が並ぶからな、ギルドに行くんだったらまっすぐ行って交差点を右だ。宿とか武器屋とかは中央だからギルド行く前に見えると思うぞ」
言い忘れたとばかりに門衛が大きな声で呼びかける。
建物に感動し呆然としていた竜斗ははっとして我に返った。
よく見ると周りに人たちもくすくすと笑っていた。田舎者を見るような少し生暖かい感覚。
竜斗は恥ずかしさに頬を染め、おとなしくシルビーのことを待つ。
「すいません。お待たせしました、次の方どうぞ」
門衛が次に並んでいたシルビーに笑顔で話しかけ、これまでと同様にカードをかざすように促す。
シルビーは無言でカードを出し、カードをかざすと門衛の表情は一変した。
「……ちっ。エルフかよ……なんでまた南門から入るかね」
竜斗には何を言っているかは聞こえなかったが、明らかに不機嫌に変わったのだけはわかる。
「まあいい、入国料銅貨30枚だ。文句があるなら帰ってもらって構わないぞ」
見下したような態度を隠すことなく冷たく言い放つ。
シルビーの後ろに並んでいた人たちも一様に嫌悪をあらわにしていた。
シルビーは特に何か抵抗するわけでもなく、言われた通りに石台に自分のカードをかざした。
門を通り抜け竜斗の元へと向かう。
「よし、さっさと通れ。あんまり目立つような真似はするなよ」
冷たくあしらうと門衛は仕事に戻った。
「大変お待たせしました。お次の方はラッキーですね。入国料タダで入国できますよ」
「お、それはついてるな。俺の普段の行いがいいからだな」
門衛とシルビーの次に並んでいた大柄の冒険者がげらげらと、豪快に笑い合う。
後ろに並んでいた者たちもくすくす笑ったり、陰口をたたいたりと様々だった。
「大丈夫か? 何か言われてたみたいだったが」
近づいてきたシルビーに声をかける。
フードで顔も見えないが、竜斗には何かに耐えているように見えた。
「ううん、大丈夫。街に入ったらこういうのあるって覚悟してたから……それよりも早く行こ。ギルドに登録すればようやく冒険者になれるよ」
フード越しにちらっと見える表情は笑顔を作っている。まさにそんな感じだった。
竜斗はそうだな、と小さく答え通りを歩き始める。
若干の気まずい空気を感じながらも、竜斗は目の前に広がる光景に楽しみの方が大きくなってしまっていた。
活気あふれる大通り。道行く人に声をかける呼び込みの声であふれていた。
決して無理強いはしない、気持ちの良い商売の感じだった。
「ふふ、竜斗楽しそうだね。でも、先にギルド行かないと大変だからね」
声をかけられシルビーの方に振り返り、はっとした。
隣を歩いていたはずなのにいつの間にか数メートル前方を歩いていた。
「……そ、そうだよな。もちろんわかってるさ。うん……」
年甲斐もなくはしゃいでしまった自分に反省し、シルビーの隣に戻る。
「ちゃんと、あとで見て回ろう。とりあえず今日はギルドの登録と宿の確保が最優先だよ」
穏やかな口調で言うシルビーに、あながち姉でも悪くないなと一瞬思ったのは気分が高揚していたからだろう。
目移りする気持ちを抑えながら中央通りまで到着した。
中央通りは門衛が言っていた通り、宿屋や武器、防具などの店が並んでいた。
看板にはそれぞれの店を表すイラストが描かれていたので竜斗にも一目でわかった。
その中に一風変わったイラストのものもあった。
通常の武器やだと、剣のイラストだったが、槌のイラストのところもあった。
まだ宿にしても、ベッドイラストにアーチ状に猫耳のようなものが描かれているところもある。
「なあ、シルビー。ちょっと違った感じの店もあるんだがあれは何なんだ?」
「ああ、あれはね、槌の方はドワーフの店で、宿の方は獣人とかエルフとか異種族向けの宿だね」
「ドワーフ? それに異種族向けの宿とかもあるのか」
「うん。ドワーフの方が人よりも優れた武器とか防具を作るって言うのは有名だからね。嫌ってはいるけどしょうがないって買ってく人はいるよ。でもやっぱり問題も尽きないからあんまりお店を出すドワーフは少ないんだけどね」
竜斗は周りに並ぶ店を見て、確かにと思った。
他の店がひっきりなしに人の出入りがあるのに対しドワーフの店だけ閑古鳥が鳴いている。
店から出てくる人がいたかと思えば、怒鳴って出て行っていた。
「宿は、まあ……一緒の宿にはいたくないっていうのが本音だと思う。だからあえてそういう宿を作って、問題が起きないようにしてるんだよ」
「でも、まあ、よくはないと思うけどそれで問題なく利用できるならその方がいいのかもな。宿の人は人間なのか?」
「ううん、宿の人も異種族だよ。犬人族っていう種族が管理していることが多いかな。そういう人たちは商業ギルドに登録して各国とか街に派遣されて運営してるの。他の種族がやることもあるけど、犬人族は戦闘能力はあまりなくて問題が起きた時に対処しやすいっていう理由だし、なにより従順だから扱いやすいって話」
竜斗は扱いやすいという言葉に少し思うところもあったが、うまくいっているんだったら言うことはない。
異種族を嫌っているという文化がある以上もっとひどい扱いかとも思っていたが、やみくもに無碍に扱うまではいっていないようだ。
「確かにあの宿周りには異種族が多いっぽいな。虎っぽい人とかライオンっぽい人とか、それにドラゴンみたいな人もいるな」
竜斗は、次から次に現れる異種族に興奮を抑えられなくなっていた。ゲームとか物語とかでしか知らなかった存在が目の前にいることでテンションが上がる。
「それにしてもみんな強そうだな……」
肉弾戦タイプなのか、誰もがものすごく体格がいい。そもそもの種族による体格差かどうかはわからないが、見ているだけで圧倒される雰囲気を持っていた。
「中央の宿に泊まれる人はみんなお金持ちだからね。上級の冒険者とかそれ以上の人ばっかりだよ」
「でも、そんな優秀な人だったらこの辺は退屈なんじゃないか? 強いモンスターもいないわけだし」
「大体はここを拠点にして各地を旅してる人がほとんど。自分を鍛えるためとか、国から依頼される討伐任務に行ったりとか。他の街に比べると住みやすい方だからね」
見る限り特に大きな問題も起きていないというのは、住みやすいということに関係しているからなのだろうか。
となると他の街がどうなっているのか余計に気になった。
「それでお金あんまり持ってない人とか、まだそんなに強くない人とかは西部側にいるんだよ。西部側は治外法権だから異種族でルールを作って生活してる。もちろん国に対してお金は払ってるけど、それでほぼ無関与だから私たちにとってみれば生活しやすい環境この上ないよ。ただ……」
竜斗はちょっと行ってみたい気もしていたが、釘をさすようにシルビーが続ける。
「人が行くのはおすすめしない。お互いに不可侵は謳ってるけど、人さらいはたびたび入ってる……だから人に対して過敏になってるのも否めないんだよね。いきなり攻撃されることはないかもだけどいい顔されないのは間違いない」
「人さらいって、異種族の人たちが誘拐されるってことか?」
「そう……さらってきて奴隷にするんだ……」
シルビーは悲しげにつぶやく。
周囲を見渡してみると、人とは違う姿の者があちこちに見受けられた。
馬のような体と上半身だけ人間の体。いわゆるケンタウロスと言われるものだろう。
それ以外にもここに来るまでに見かけたトロール。トロールよりは小さくゴブリンよりは大きい、オークと呼ばれるもの。
それにシルビーと同じエルフの姿もあった。
ケンタウロスの体にはパーティメンバー全員分の荷物がつけられ、そのほかにも様々なものが載せられていた。
トロールはやはり車を引いており、オークは何やら命令されどこかに居なくなっていった。
エルフはメンバーに何か言われると魔法を発動し、アイテムをその場に取り出す。
モンスターの部位らしきものがその場に現れ、冒険者はそれを売りに向かっていった。
種族も用途も様々だったがその誰もに共通していたのは、着ている服はボロボロで体も随分とやせ細っていた。
血色は悪く栄養不足であることは明らかだった。かろうじて生きているような感じだった。
「奴隷になったら主人に逆らうことができなくなる……死ねと言われれば死ぬしかない。まだ使い道があるうちは大丈夫だけど、ケガとか病気とかになったらまず助からない……」
「逆らうことができないってどういうことなんだ? 人より強い種族なんていっぱいいるだろ?」
シルビーはケンタウロスの足元を指さしてそっそささやく。
「足元についてるのあるでしょ……あれが奴隷契約の魔法になるの。あれが付いていると主人の命令には逆らえないし、魔力も自由には使えない」
隷属のアンクレット。それが奴隷契約の証である。
一度付けられてしまうと、持ち主が死ぬか、奴隷が死ぬか、持ち主が自分の意志で外すか、の三種類でしか外れない。
付けるためには相手の同意が必要になるため、通りすがりにいきなり付けるとか、寝込みを襲って付けるとかはできない。
ただ、奴隷として捕まった者たちは、奴隷か死かを強要されほぼ自分の意志とは関係なく、付けざるを得ない状況にされることが多い。
また、種族によっては家族を助けるために自らを奴隷として売るような場合もある。
「なるほどな……不愉快極まりないが、今の俺にはまだどうすることもできない……」
行き交う奴隷はみな感情を失っているような表情をしていた。
遠くない未来に来るであろう死を受け入れ悟っている、そんな感じだった。
竜斗はやるせない気持ちを抑えながら、ギルドがあるという東側に向かう。
ギルドが近くなっていくにつれ冒険者の数はより多くなっていく。
パーティメンバー上限の5人は必須なようで、ほぼ全員がフルメンバーであった。
初心者らしく装備品も不十分だが楽しそうに話している、少年少女のパーティ。
魔法使いのみで構成しているのか、みなが杖を持ちローブに身を包んでいるパーティ。
付近のモンスターがあまり強くないことも影響しているのか、趣味嗜好で合わせたようなパーティの姿も多くあった。
「竜斗のステータスはどんな感じだろうね。戦ってたのを見た感じバリバリの前衛っぽいけど」
「正直あんまり魔法使えそうな感じがしないんだよな。それにいろいろと難しそうだし……単純に戦ってる方が性にはあってるからな」
魔法にあこがれがないわけではないが、竜斗には使いこなせる自信がなかった。
「竜斗が前衛だったら私後衛で相性もいいからね。期待してるよ」
「期待されてもどうしようもないがまあ善処するよ」
他愛のないことを話していると大きな建物が見えてきた。
中心にある建物の周りには石造りの塀が築かれている。
塀にそって、剣士が大きな犬と戦う様子が描かれた旗が掲げられている。
通りにもいくつか同じものがあったので、おそらく国旗のようなものだと竜斗は理解した。
建物の入り口は二か所あり、人用と異種族用に分かれているようだ。
竜斗は周囲の様子に圧倒されながらギルドの中に入る。
入ってみると中では食事もとれるようになっており、食事をしたり、掲示板に掲載されているクエストを吟味したりと様々だった。
正面にあるギルドの受付に竜斗は向かった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。冒険者カードのご提示お願いいたします」
にこやかに受付のお姉さんは言った。
「すみません、冒険者登録したいんですけど……」
「あ、かしこまりました。新規登録ですね。お名前のご記入と、ステータスの登録を行いますのでこちらに手をかざしていただいてもよろしいですか」
竜斗は言われた通りに名前を記入する。そして、ガラスで作られているような水晶に手をかざした。
手をかざすと水晶が淡く光りだした。青、黄色、白と順に光って消えていった。
「魔法適正は三種類、水、雷、そして光ですね。光属性は珍しいですが魔法の適正数は多くないので前衛の方がおすすめですね」
受付のお姉さんはそう言うと、一枚のカードを差し出した。
「これが竜斗さんの冒険者カードになります。クエストは受付かあちらの掲示板で受けることができます。完了しましたらこちらまでいらしてください。また、ステータスについてですがあちらにあるかがり火にかざしても更新できますし、もちろん受付でもできます。いろいろと説明多くなりましたが、何かありましたらいつでもいらしてくださいね」
最後ににこっと微笑むと、
「最初のクエストはこちらとかいかがですか?」
クエストの書かれた二枚の羊皮紙を見せてきた。
「ポーンゴブリンの討伐か薬草の採集の二種類ですね。難易度的には討伐の方が高いですが、その方がランクは上がりやすいです。まだ初心者なのでパーティを組むのがいいと思いますがどうされますか?」
ポーンゴブリンという言葉を聞いて、自然と傷を負った箇所をなでる。
「とりえあず今日のところはまだ初めてなのでこっちにします」
竜斗は薬草採集のクエストの紙を取り、お姉さんに言った。
「かしこまりました。低級薬草の採集クエストになりますが、中級など手に入った場合には持ってきていただいて構いません。その際は報酬も上乗せいたしますので。低級薬草は結界内にも生育してますのでモンスターに襲われることもなく、採集することができます。冒険者カードにクエストの登録を行いましたので、薬草の見た目など不明なところがあればカードでご確認ください」
丁寧な説明を終え、竜斗はとりあえずカードに表示されているクエストを確認してみることにした。
クエストと書かれている部分を指で触ると、まるでモニターのように画面が切り替わり現在受注中のクエストが表示された。
さらにそれに触れるとクエストの詳細が表示され、薬草の見た目が浮かび上がってきた。
なるほど、と感心していると、
「ふふ、やっぱり最初は驚かれますよね。多くのクエストを達成していくと、表示される量も増えて立派になりますよ」
受付のお姉さんに笑われた。
少し恥ずかしさを感じ竜斗はそそくさとその場を去る。
周りにいた冒険者からも、やっぱ最初は驚くよなとか、光属性なんて珍しいが魔法適正はあんまだなとか、これから頑張れよとか、意外にも暖かい言葉をかけられた。
「ねえ、竜斗。ステータスは確認した?」
ギルドから出ようとする竜斗にシルビーが興味津々といった感じで聞いてくる。
「あ、そういえば確認してないな。ちょっと見てみるか」
カードを操作し、ステータスを表示させる。カードの大きさでしか表示されず二人で見るには少し小さかった。
竜斗はシルビーにも見えるように近くの空いている席を探した。
冒険者が多く騒がしかったので、できるだけ静かな隅の方を選んだ。
シルビーが隣に座ったことを確認して改めてカードを見る。
~~ステータス~~
神崎 竜斗 18歳
LV.6
獲得経験値128
所持金 銅貨28 銀貨0 金貨0
STR:42
INT:15
VIT:36
DEX:30
LUC:16
HP:50
MP:27
skill
・シールドLv.1
・武闘LV.1
・空力LV.1
・雷撃LV.1
・???
~~end~~
ステータスに表示されていたアルファベットの部分はゲームで見たことがあった。
順に力、魔力、防御、器用さ、幸運の値になる。
一般的なステータスがどれくらいかわからない以上、いいのか悪いのかはわからないが、まず物理戦闘タイプであることは間違いなかった。
STRは物理攻撃に攻撃力に影響し、剣や槍など武器を使って攻撃する場合にも影響する。
INTは魔法攻撃に影響し、直接魔法の強さに影響する。
VITは肉体の強さに影響し、シールドがない際の防御力に影響する。
DEXはスキルの習得に影響し、高いほど新しいスキルの覚えが早くなる。スキルのレベルアップもこの値に乗じて上がりやすくなる。
LUCは気分的なもので、どういう影響がもたらされるかは判明していない。高い人の方が運がいいかもしれない、という都市伝説がある。
HPやMPなどもステータス上では存在するが戦闘中に確認することができないため、個人の感覚によるものが大きい。
HPが多くなると肉体が感じるダメージ、痛みが少なくなるといった感じである。
MPに関しては精神力に左右され少なくなるにつれ、意識が遠のくような感覚に襲われる。ゼロ以下になると意識を失う。
「このスキルの不明なところって何なんだ?」
「うーん、私にもちょっとわからないな。未知のスキルはまだいっぱいあるからね。これから旅を続けていくうちにわかるかもしれないよ」
竜斗は、あの傷を治した不思議な光についてのスキルのことだろうとなんとなく思っていたが、わからない以上どうしようもない。
シルビーの言う通り旅を続けていけばわかるかもしれない。
ひとまずはあまり気にしないことにした。
「それにしても竜斗が前衛タイプでよかったよ。物理攻撃力も高いし、スキルもそれっぽいのだしね」
ステータスの最低値は各項目10から始まり、レベルが上がるごとに上昇していく。
各人のタイプにより、向上する項目や程度にも差がある。
竜斗のステータスはレベルの割にかなり物理が強く攻撃、防御共に優れているようだ。
ただ、魔法に関してはあまり成長が見込めないらしい。
「能力値についてはまあわかったけど……俺が持ってるスキルはどんな効果があるんだ?」
そう言うと、シルビーがスキルについての説明をざっとしてくれた。
シールドは以前説明した通りで、レベルが上がると継続時間や強度の変更ができるようになる。
武闘は身体強化系のスキルで、STRとVITを一定時間上昇させる。
雷撃はHPを削ることで対象に雷を落とすことができる。発動後一定時間自身にかかるシールドの効果は無効になる。
空力は空気を掴み、対象に空気砲を放つことができる。射程の短い物理職において遠距離の敵と戦うのに有効的である。
「今覚えてるのはこれだけってだけで、レベルが上がったり魔法については誰かに教えてもらったりで覚えられるからね。スキルのレベルは使えば使うほど上がっていって上限は10までだからどんどん使っていくといいよ」
新しいことが覚えられるというゲーム的な楽しさに竜斗は、これからがさらに楽しみになっていた。
「あ、あとステータス確認でもスキル詳細は表示できるから、最初のうちは特にこまめにギルドに行って確認してみるといいよ」
それじゃあ薬草取りに行こうか、と出て行こうとするシルビーを竜斗は引き止める。
「その前に、シルビーのステータス見せてもらってもいいか」
一瞬迷ったそぶりを見せたがすぐに了承してくれた。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
受付のお姉さんから説明された、かがり火の方に向かいカードをかざす。
手に持っていたカードが燃えるように赤い炎を放つ。燃えたままのカードを火から離し、自然と火が消えるのを待つ。
どういう原理の炎かはわからないが、シルビーの様子から熱くはないようだ。
火が消えるのを確認してシルビーは戻ってきた。
「お待たせ。結構久しぶりに更新したから、前と変わってたら嬉しいなあ」
無邪気に微笑み隣に座る。
慣れた手つきでステータスを表示させると竜斗に見えるように二人の間で持った。
~~ステータス~~
シルビー・リフレイヤ 16歳
LV.31
獲得経験値56445
所持金 銅貨164 銀貨16 金貨1
STR:80
INT:160
VIT:80
DEX:100
LUC:62
HP:160
MP:240
skill
・調理LV.7
・弓術LV.5
・シールドLV.5
・コール(アライコール、ツヴァイコール、ミアコール)
・鑑定LV.3
~風~
・ウィンド(ウィンド、クロスウィンド、グラスウィンド、ヘルウィンド)
・ウォーレンLV.4
・シュプレイコールLV.2
・ソフトキャリーLV.4
~炎~
・フレイム(フレイム、クロスフレイム)
・フューミラLV.2
~水~
・ウォルタ(ウォルタ、クロスウォルタ、グラスウォルタ)
・ストローデLV.5
・ウァーサフォールLV.3
・フィーダーLV.4
~雷~
・サンダー(サンダー、クロスサンダー)
・ファーナーLV.2
~土~
・ウォールLV.3
・ヒューティーLV.4
・アインシュターLV.2
~~end~~
竜斗のステータスとは表示されている情報量に差がありすぎた。
気になるところはいろいろとあったが、何をどう質問していいかがわからなくなっていた。
「すまん、なんとなくすごいってことくらいしか俺にはわからない……」
「あはは、そりゃ竜斗よりも長く冒険者やってるからね。それに言ったでしょレベルが上がりやすいタイプだって。でもそれも30までだからこれからは竜斗の方がレベルアップは早くなると思うよ」
シルビーはええっと、と言いながらステータスを確認していく。
時折、スキルレベル上がってる、と喜んでいた。
「それにしてもずいぶんとお金持ってるんだな。そんなに持ってたら危なかったりしないのか」
「カードの内容を人に見せるなんてほぼないから大丈夫だよ。あ、でも、いま竜斗に知られちゃったから気を付けないと」
ずっとフードを被っているせいで表情は見えなかったが、にやにやしていることだけは間違いなかった。
「まったく……年下から金なんて取るかよ……」
「そんな年下におごられようとしてるのは誰だっけ?」
「シルビー様のご厚意に甘えさせていただきます!」
ふふっと笑ってステータスの確認を続けていたシルビーだったが、急に固まった。
異変を感じて竜斗は声をかける。
「どうかしたのか?」
カードを指でなぞりながら確認していたシルビーの指があるところで止まっている。
今ちょうど話していた所持金のところ。その金貨1、のところで止まっていた。
指している手が微かに震え、鼻をすする音も聞こえてきた。
竜斗は泣いているらしいシルビーの頭にそっと手を置いた。
特に声をかけるわけではない。ただ落ち着くまでそうしていた。
「……っん、ごめんね……もう大丈夫……」
シルビーはフードを少し上げるときちんと顔が見えるように竜斗に微笑みかける。
「……どうしたのか聞いてもいいか」
「……うん。私、家出してきたって言ったでしょ。親と喧嘩して家出てきたんだけど、その時にお母さんに冒険者カード取り上げられちゃって、すぐには行けなかったんだ。だからお母さんが寝ている隙にカードを取って家出したの」
こてっと竜斗の肩にもたれかかりながらシルビーは続ける。
「お母さんはずっと私に厳しくて、優しくされた思い出なんてほとんどなかった。他の子たちはみんなお母さんとかお父さんに甘えられるのにどうして私だけ、っていう気持ちが強くなっていったんだ。どうせ愛されてないなら困らせてやろうと思って家を飛び出したのに……」
シルビーの声が震え、ぐっとこらえているが今にもまた泣き出しそうだった。
「……そんなにお金あるわけじゃないのに、私のために……何かあっても大丈夫なように……この金貨はきっとお母さんが入れてくれたんだなって……」
「……シルビーのお母さんがどういう人かっていうのは俺にはわからないけど、きっと本心では止めたかったんだと思う。それでもシルビーの意思を尊重したい気持ちもあった。だからどうにか応援してあげたかったのかもな」
無責任な言葉は言えないがそうだといいなと、竜斗は純粋に思っていた。
お金っていう形が正解かどうかはわからないし、不器用なことには間違いない。
「……いろいろと心配かけちゃったかもしれないなあ……お母さんにもお父さんにも、ちゃんと帰ったら謝らないと……」
シルビーはぐっと涙をぬぐい、立ち上がって竜斗の前に立つ。
見上げる形になり竜斗からはシルビーの表情がはっきりと見えていた。
目元は赤く、涙の痕が残っている。
それでもまっすぐに竜斗の目を正面から見た。芯のある、強い目だ。
「次行く街はエルフの街にしてほしい。もちろん急かすつもりもないし、しっかりと冒険者としての経験も積まなくちゃいけないから。きちんと時間をかけたうえで、次の街に行こうと思った時でいいから私と一緒に行ってほしい」
「エルフの街っていうのはシルビーの故郷ってことだよな?」
「うん、そう。今まできちんと両親と話すこともしてこなかったから、ちゃんと話したい。自分の考えとか両親の想いとか……」
「……俺に断る理由があると思うか? 助けてもらってばっかなのに恩の一つでも返さなきゃ男が廃るぜ。いざその時になって逃げだそうとしても無理やりにでも連れてくからな!」
竜斗はゆっくりと立ち上がり、からかうように言った。
シルビーは頬を少し膨らませわずかに怒るようなそぶりをするが、すぐに笑顔に変わる。
「よし、それじゃあさっさとクエストクリアしに行くか!」
「うん! 改めてこれからよろしくね!」
にこっとフードの下から笑顔をのぞかせ、二人はギルドの外に歩き出した。
会話の内容までは聞かれていないものの、この場にいた他の冒険者たちに微笑ましく見られていたことを、二人は知る由もなかった。
硬貨価値 再確認用
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
銅貨1枚100円くらいなので金貨1枚100万円くらいになります。
〜ちょろっと魔法説明〜
魔法の説明は詳しくは次回になりますが、属性表記がないものはだれで使える魔法。括弧表記のものは同一種の魔法で順に、より高度な魔法になります。レベルがないのは魔法の規模によって呼称そのものが変化するためです。