13 暴走-3
結局コロナで一週間以上寝込んでしまい、更新が遅れてしまい申し訳ありません。
ひとまず生存報告と共に、短めですが上げます。
次回以降はしっかりと計画通りに上げられるようにしていきます。
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。
口を開くのすら困難なほどに空気が重く、冷たい。
竜斗は自然と後ずさっていた。
シルビーもそっと弓に手をかけているが、その手は微かに震えている。
マルコスたちは今の状況を整理できておらず、ただその場で呆然とたたずんでいた。
他の冒険者や兵士たちは敵対する意思はあるようだが、体がついてこない。剣に手をかけたまま固まっている。
「ふっ、みじめな姿だな人間ども。俺のことを侮辱した奴らが目の前で震えているのを見るのは滑稽だな」
フーリはまるでゴミでも見るような目で、竜斗たち冒険者を見た。
声にも恨みに近い感情が込められていることが感じられる。
少し自意識過剰ではあるが、竜斗はフーリの恨みは自分に向けられているものだと思っていた。
しかし、いまフーリが向けている憎悪の感情は竜斗だけでなく、他の冒険者、さらには兵士たちにも向けられているようである。
「お、おい、いったいどうしちまったっていうんだフーリ! 急にいなくなったと思ったら、そんな姿になって現れてよお……」
マルコスは悔しそうに拳をにぎると、言葉を振り絞った。
リベラやリグラもただそっとフーリを見つめていた。
「どうしたって……それはお前たちがよく知っていることだろう。昔馴染みでパーティを組んではいたが内心では俺のことを馬鹿にしていたんだろう……他の人間たちや亜人どもと同じように……」
「そんなこと思ったこともない! 俺たちは一緒に冒険者として上を目指すって約束しただろ!」
「そうよ! みんなでSランク冒険者になろうってこれまで頑張ってきたじゃない!」
リベラが同意するとリグラもうんうんと大きく頷いた。
クレックは少し疎外感を覚えながらも、今のフーリの発言は許せないらしい。
静かに怒りがこみあげてきている様子だった。
そんなマルコスたちだったが、よく観察してみると怒りよりも悔しさや口惜しさの感情の方が表に現れているようだった。
竜斗はそっとシルビーに尋ねる。
「なあ、ああなるとフーリはどうなっちまうんだ?」
シルビーは一度言葉を飲み込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「魔人化した人間はもう助からない……私たちにできることは街を襲われる前にここで倒しきることだけ」
ふふっと空笑いを浮かべると弓に手をかける。
弓をぐぐっと引き絞り一本の矢を放つ。
ある程度高ランクモンスターであろうと一撃で倒すことができるほどの威力。魔法による補助のおかげでその命中率は百発百中。
そんなシルビーの矢は完全にフーリの死角を捉え、脇腹に突き刺さる。
しかし、その矢はフーリに触れることはなく、直前で燃え落ちた。
「ふん。そんな攻撃が俺に聞くと思うなよ人間。ん、よく見ると俺に屈辱を与えてくれたあの男の連れだったのか……この場にいなければ長生きすることができたのにな。己の不運を呪えばいいさ」
フーリはシルビーに向けて剣を振り下ろす。黒い不敵なオーラを纏った剣は、衝撃波と共に黒炎を巻き上げながらシルビーに襲い掛かった。
これまでのモンスターが使ってきた魔法とはわけが違う。純粋な魔法だけでなく、物理的な衝撃波が入っている分威力も増している。
シルビーの矢と同じような原理である。
咄嗟に水魔法と土魔法を展開し防ごうとするが、威力が高すぎた。
一瞬にして崩れ落ちるとそのままシルビーに向けて襲い掛かる。素直に躱しておけば避けられたかもしれないが、魔法を構えていたせいで反応がわずかに遅れてしまった。黒炎はシルビーの左手をかすめる。
ぐっと歯をかみしめ苦痛に表情をゆがめた。
「……とんでもない威力だね。かなり強力にシールド魔法かけてたけど一瞬で吹き飛ばされた……それにちょっと相性よくないかも」
左手をかすめた炎はそのままシルビーの手を燃やし続ける。左手にだけ集中し魔法を使っているのかそれ以上に燃え広がることはなかったが、その対処で精いっぱいなようだ。
「ちょっとあなた大丈夫!? 今消すから少し待ってて!」
リベラは駆け寄ると水魔法をシルビーの左手に展開した。じゅっと音を立て炎は消え、黒煙を上げる。
それでも傷は残っているようで、焼けただれた腕が露わになっていた。
「ごめんなさい。突然のことに動揺して対応が遅れてしまったわ……」
「ううん、おかげで助かったよ……それにしてもものすごい威力だねあの炎」
「ええ……フーリは魔法適正があるにもかかわらず単一の魔法しか使えないの。無属性魔法すら使えない本当にひと種類だけ。それが彼の場合火属性なのよ。だからその魔法の威力は私たちの比じゃないわ」
魔法を使えない者は無属性で限られた魔法、例えばシールドだけは使えたりする。
逆に魔法が使えるものは最低でも三属性以上は使えることが普通だった。
もちろん人によって、属性の得意不得意はあるが、それでもある程度のレベルまでは使えるようになる。
だが魔法適正がありながらも、一つの属性しか使えない者も中には存在する。そういった者の場合、本来分散するはずだった魔力が一属性に集まるため、一般的な魔法よりも威力が高まるとされていた。
今前の前で放ったフーリの魔法。それは火属性の中では初級魔法のただのフレイムだった。それが、苦手属性とされる水属性の魔法をいとも簡単に突き破ったのだ。
「……それだけじゃないかも……」
のそっと近づいてきていたリグラが初めて口を開いた。
まさか話すと思っていなかったのか、リベラやクレックまでもが驚いている。
「それだけじゃないってどういうことだ?」
竜斗が横から口を挟む。
むぎゅっと口をすぼめてから、リグラはゆっくりと続けた。
「……やみまほうに、にてる……でも、なんか、いやなかんじ……」
「闇魔法? フーリが使えるのは火属性だけじゃなかったのか?」
「……むぅ」
竜斗に詰め寄られ、リグラはそっとリベラの後ろに隠れた。
眉根を下げ、少しおびえているようにも見えた。
どこからかまた現れたクレックもリグラを隠すようにリベラと共に並ぶ。
「ちょっと私の妹のこと睨みつけないでくれる? まあ、フーリが使えるのは火属性なはずよ。他の属性が使えるようになったなんて話聞いたことないもの。それにただの闇魔法ではないって言うのは私も同意見よ。他の魔法使いが使う闇魔法を見たことがあるけどあんな禍々しい感じはしなかったわ」
「私もそう思う。闇魔法ってついてるけど、実際はそんなに闇っぽくないんだよ。視界から光を奪ったり、意識を揺さぶったり、精神に干渉する魔法だったりするんだけど、あんなに直接的に関与するのは見たことない」
シルビーはリベラの意見に同意すると、左手をぐっと抑える。
ズキズキと痛む左手を無理やり抑えて少しでも誤魔化そうとしていた。
竜斗は思わずシルビーの左手に触れようと手を伸ばしかけていた。痛みに耐えるシルビーのことを見ていられない。
すすっと伸びてきた手を、シルビーは避けた。
額に汗をにじませながら、それでも竜斗に笑顔を向けた。痛みのせいかうまく笑えていない。
竜斗ははっとし、伸ばしかけていた手を引っ込めた。
「どういうわけかはわからないけど、魔人化と関係あるのかもしれないわね」
リベラは冷静そうに言うが杖を持つ手は震えていた。
『魔人化した人間は助からない』
先ほどのシルビーの言葉が竜斗の頭の中をぐるぐるとめぐる。正直フーリに対していい印象など一切なく、恨みの感情の方がある。
そんな竜斗でも、かわいそうだと思ってしまう。他のメンバーの表情を見ると苦しくなってしまう。
直面しているマルコスやリベラ、リグラやクレックがどんな思いでフーリのことを見ているかなど、想像以上のものがあるだろう。
「ん?」
ふとそんなことを考えていると、今この場にいない者がいることに気が付いた。
「……おい、いい、かげん……こっちのことも、きにしてくれよ……」
竜斗が辺りをざっと見渡すと、全身に傷を負い、その場にうずくまっているマルコスの姿があった。
目の前にはフーリが立ち、あたりの地面のいたるところから黒炎が上がっている。
よく見ると先ほどまでいた冒険者や兵士たちも黒い煙を上げ倒れていた。
「ちょっとマルコス! 大丈夫!」
リベラは急いでマルコスへの強化魔法をかける。リグラとクレックも臨戦態勢になり、マルコスの近くへと駆け寄っていった。
シルビーに攻撃を仕掛けてから静かだと思っていたが、マルコスがひきつけてくれていたようだ。
傷だらけのマルコスにクレックがポーションを飲ませる。
体がうっすらと緑色に光り、傷がわずかだけ回復したように見えた。
「すまない……少しは楽になった……」
「いいえ、ごめんなさい。あなた一人に任せてしまって。これ以上遅れていたら取返しが付かなくなっていたかもしれないわ」
クレックに肩を借りながらマルコスはゆっくりと立ち上がる。
「それにしても、一体どうしてこうなっちまったんだろうな……」
「そうね……でもこうなってしまった以上私たちができることは一つよね」
手に持っている杖をぎゅっと握りしめると、覚悟を決めたようにリベラは言った。
その言葉に同調するように、他のメンバーの表情も真剣そのものに変わっていく。
「なあ……」
マルコスが竜斗たちに向けて声を発する。
竜斗はマルコスの方に顔を向けた。
「俺たちだけじゃフーリを止めることはできないかもしれない……お前に迷惑をかけた手前、虫のいい話だと思うが聞いてほしい……フーリを止めるのを手伝ってくれ」
肩を借り、少しふらつきながらマルコスは竜斗たちに向けて頭をさげる。
周りのメンバーも同様に頭をさげた。
そのあまりにも真剣な様子に竜斗は気圧されそうになる。
もうすでに竜斗の中での彼らに対しての清算は終わっていた。
門の中での謝罪、周囲の人間を助けるような戦闘の仕方。それが取り繕うためではなく本心から行っていることだというのは肌で感じていた。
なので手伝ってくれと言われて断る気持ちはない。しかし、戦力的に役に立つのかという不安があった。
一人だけランクで言うと完全に場違いだ。
「……俺は……」
力になれるかわからない。その言葉を竜斗はぐっと飲み込んだ。
この現場にいる以上もはや部外者ではない。竜斗はマルコスの言葉に力強く返した。
「もちろん、私も手伝うよ。ちょっとケガしてるから全力とはいかないけど、少しくらいは力になりたいから」
左手に包帯をきつく巻き付け、震える手で弓を構えたシルビーが必死に笑顔を浮かべながら言った。
「すまない。恩に着るぜ」
マルコスは不敵に微笑むと、仲間たちを見る。
目線で合図を送ると、みな考えを共有したように無言で頷き合う。
「でも、本当にいいの……みんなは仲間だったんだよね……それなのに戦うなんて……」
シルビーがずっと我慢していた言葉を漏らす。
魔人化した以上対処する必要はあるが、それがかつての仲間というのはあまりにも辛すぎる。
「だからこそだ……俺たちがちゃんとケリつけてやらないとな……それに俺たちはあいつのことを諦めてなんかいない。ぶん殴って、気絶させてでも連れて帰る。助ける方法がないっていうのなら、その方法を俺たちが探し出せばいい!」
最初にフーリを見た時の絶望していたマルコスたちはそこにはいなかった。
恐怖におののくわけでもなく、後悔にさいなまれるわけでもなく。
今はただ前を見ていた。
「そうね、どんな姿になっていたってフーリはフーリですもの」
「……うん、ちいさいときから、ずっといっしょだった……」
「……こんな別れなんて後味悪くてたまらないからね。それにフーリには好き放題やられてきたからね。その分仕返ししてやらないと」
お互いに顔を見合わながら、ははっと笑っていた。
肩の荷が下りたようにすっきりとした表情をしている。
「さっき仲間だったって言ったよな……」
マルコスは二本目のポーションを一息に飲み干すと、空いた瓶をひょいと空中に投げる。
「……だったじゃねえ……俺たちは今でも仲間だ!」
バリンという瓶の割れる音が周囲に響く。
その瞬間を合図とするように、マルコスたちは一斉に動き出した。
主人公空気になりつつある……
次回で戦闘は終了予定です。街も出るかも。




