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異世界奴隷解放譚  作者: 黒麻玄
旅立ち
12/21

12 暴走-2

 門を抜け外に出ると、地面はえぐれ、木々は倒れていた。

 明らかに不自然に出来上がった道はクーニファスが走り抜けていった道だろう。

 周囲にはモンスターと戦う冒険者や兵士の姿があった。

 すでに装備は傷つき、疲労が見て取れる。

 辺りにはモンスターの死体や、瀕死の人間の姿も散らばっていた。


「……ひどい状況だな。よく耐えられてるって感じか……」


「そうだね、みんな頑張ってくれてるけど、長くは持ちそうにないかも……」


 話している余裕すら与えられなかった。

 魔獣化したモンスターたちは見境なく襲い掛かってくる。


「話してる暇もないみたいだね……とりあえずAランク以上のモンスターに関しては、私たちじゃ手に負えないから逃げよう。それ以下は私たちで何とか食い止めよう!」


 シルビーはそう言うと、弓を引き絞り矢を放つ。

 向かってきたモンスターは矢に反応し、体をひるがえし襲い掛かってくるが、シルビーにそんなことは関係なかった。

 放った矢は空中で軌道を変え、モンスター2体に同時に突き刺さる。

 わずかなうめき声をあげ、モンスターはその場に動かなくなった。


「今のは魔法を使ったのか?」


 竜斗には何が起きたのかよくわからなかったが、ひとまず人力でどうにかできるものではないことは理解できた。

 矢の軌道だけではなく、矢の威力も通常で放つ時よりも強く見える。


「そう、私の得意魔法は風魔法だからね。軌道を変えたり速度を変えたり、いろいろと調整できるの。魔法で直接攻撃するだけが魔法の使い方じゃないからね」


 得意げに話しているものの、表情は真剣そのものだ。

 それもそのはず、モンスターの数はますます増えている。

 

「モンスターの数も無限じゃないから。モンスターの暴走がダンジョンのモンスターだけなら、中にいた数だけ倒せれば終わるはず」


 そう言いつつもシルビーは手を止めない。他の冒険者が襲われているところに、的確に矢を放つ。


「おお、嬢ちゃん助かったぜ。ありがとな」


「ううん、大丈夫。私たちのほかにも冒険者来てたみたいだから頑張ろう」


 助けた冒険者に声をかけ、軽く手を挙げる。

 この冒険者が向けている感謝の言葉が、シルビーが人間の姿をしているからなのか、それともエルフだとわかっても変わらないのか。

 少し竜斗の中に複雑な気持ちだった。


「竜斗が何を思ってるのか、なんとなくわかるよ。でも今はそんなこと考えている余裕はない。冒険者だけじゃない、一般の人にも危険が及んでるんだから」

 

 シルビーは生まれてからずっとこの環境で生きてきた。

 人だから助けないとか、異種族だから助けるとか、そういう次元ではない。 

 竜斗を助けた時もそうだったのかもしれない。結果的にはシルビーの都合通りになったし、裏がなかったとも言い切れない。

 それでも、おそらく考えるよりも先に体が動いたのだろう。


「……そうだな。今はとにかく目の前のモンスターを倒すこと。それと、俺たち自身が死なないことだな!」

 

 竜斗がふっと笑いかけると、シルビーも微笑み返す。

 シルビーは余裕の笑み、竜斗は緊張からの笑み。

 今一度呼吸を整え、竜斗は自身に強化魔法をかける。

 全身に力がみなぎり、気持ちも落ち着いていくのを感じる。


「さっきのクーニファスさんの動き見えた? あれは魔法は竜斗も覚えてる”武闘”の究極系の魔法を使っているらしいの」


「究極系?」


「そう。本来スキルのレベルって10までしか上がらないけど、何かしらの方法でそれ以上にできるっていう噂だよ。クーニファスさんがそれを使ってるかどうかはわからないんだけど、同じスキルレベルの人よりも明らかに強いってことからそう言う噂になってるみたい」


「なるほどな。ということは早く強くなるためには、目移りせずに一つのスキルを極めた方がいいってわけか」


 まだ低レベルにも関わらず覚えているということは、そこまで強くならないのではと思っていたが、最強の男が使ってるとなると話は変わってくる。

 複数の魔法を覚え、上手く組み合わせて戦うことはなかなか時間がかかってしまう。

 その点身体強化という単純なものは、余計なことを考えなくてもいい。

 竜斗は目の先にある、モンスターに向けて勢い良く駆け出した。


「竜斗のサポートは私がするから、気にしないで戦ってきていいよ。魔力回復ポーションはある程度は持ってるから、必要な時は言って!」


「わかった、ありがとな!」


 シルビーは一瞬ですぐそばの木の上まで登り、弓を構える。

 竜斗は目の前にいるモンスターをざっと見て、狙う順番を決めていく。

 シルビーに視線で合図を送ると、竜斗はモンスターの懐まで踏み込んでいった。

 まず標的に定めたのはゴブリン3体。竜斗には因縁のある、角が生えたポーンゴブリンだった。

 よく見ると最初に見た時と違い禍々しいオーラを放っている。魔獣化しているという話は間違いないようだ。

 目の前のポーンゴブリンのみぞおち部分に拳を叩き込む。鈍い音を響かせると、ゴブリンの体が一瞬地面から浮いた。

 一体が倒れるのを見て他の2体も竜斗に対し、同時に向かってくるがまるで連携が取れていない。

 最短距離をまっすぐに向かってくる。タイミングを合わせてそこに拳を突き出したが、側宙をする形で躱されてしまった。

 初めの一体こそ不意打ちに近い形で倒すことができたが、通常の戦闘能力としては魔獣化した時の方が高くなっている。

 しかし、本来であれば同種は連携し、その連携力があるからこそ低ランクモンスターでも脅威になりうるのだが、魔獣化すると見境がなくなってしまうようだった。

 連携がなくなると、むしろ通常モンスターを複数相手にするよりも戦いやすい。

 竜斗は、攻撃を避けて地面から足が離れている状態のゴブリンを追撃し地面に叩きつけた。

 最後の一体には、”雷撃”を放つ。命中しビリビリと電流を帯びているものの、意識を刈り取るまでには至っていない。

 

「やっぱレベル1じゃ大して威力ないか」


 倒すまではいかなくとも、動きは完全に止まっている。

 ゆっくり近づき、頭に拳を振り下ろす。

 ゴブリンは静かに倒れると動かなくなった。

 忘れないうちに倒したゴブリンの核を取り出す、バックにしまう。


「もうEランクモンスターくらいだと全然余裕そうだね。魔法使わせる隙も与えず倒しちゃうなんて」


「どう戦えばいいのかって言うのはだいぶわかってきたかもな。それにモンスター同士の連携がない分むしろ戦いやすい気もするな」


 シルビーは素直に褒めてくれるが、倒している数には圧倒的に差があった。

 竜斗の戦い方が近接戦である以上、複数体を同時に倒すのは物理的に不可能だった。

 その点シルビーは、弓による物理攻撃に加え、風魔法による範囲攻撃など完全に蹂躙していると言っても過言ではなかった。

 

「ざっと見てきたけど、もうこの周辺にはCランクくらいまでのモンスターしかいないみたい」


「Cランクでも十分強い気がするが、まあとにかくやるしかないか!」


「ふふっ、大丈夫だよ。竜斗はゴブリンとオークをお願い! 距離を詰めて戦ってくる種族だから竜斗と相性いいと思う。私は他の魔法使ってくるのとか、それ以外のちょっと厄介なの倒してくるから!」


「ああ、わかった! だが一人で平気なのか、いくらシルビーが強いとは言え、さすがにこの数は……」


 シルビーがかなりの量を倒しているとは言え、まだ数えられないほどのモンスターがいた。


「それは大丈夫。竜斗だって覚えてるでしょ? 私以外にもBランクの冒険者がこの場には来てるってこと」


 シルビーは横の方に視線を誘導する。

 激しい轟音と共に、モンスターたちが吹き飛んでいくのが見えた。

 その中心には、複数のモンスターからの攻撃をいなし、器用に立ち回るマルコスの姿があった。

 そして、マルコスに向かっているモンスターに向けて、リグラが魔法をかける。そのリグラを支援するようにリベラが魔法をかけた。

 支援魔法により威力が増大したリグラの魔法は、天より隕石を降らせた。慌てて逃げようとするモンスターを、地面から現れた石のとげが塞ぐ。

 間一髪逃れることができたモンスターも出た瞬間に、体に太刀筋を刻まれ、その場に倒れこんだ。

 モンスターの死体に歩み寄るクレックは、そっと刀に付いた血を払う。その姿は完全に暗殺者のそれだった。

 隕石の爆発にのまれたマルコスだが、当の本人はピンピンしている。自身のシールド、リベラの支援魔法はマルコスにもかけられているようだった。


「……あんなことしてたのに、実力は本物だったってことなのか」


 竜斗は思わず驚きの声を漏らす。

 てっきりああいう不当な行為をしていたのは、実力をごまかすためにやっていたと思っていたが、今目の前で起きている戦闘は竜斗のものよりも明らかにレベルが高かった。

 それに、マルコスたちの余裕な表情。

 クーニファスが危惧していたような相手とはさすがに戦えないのかもしれないが、それ以下の相手には負ける心配などない、自信に満ちているように見えた。


「最初に見た時は全然そんな感じしなかったけど、今の戦いを見てるとBランク以上に感じるよ。一人ひとりが私以上の力を持ってるかも……」


「力を隠してったていうのか? でも何のために……」


「それはわからないけど……だけど今はものすごくありがたいよ! 派手に戦ってくれてるから、モンスターもだいぶ引き寄せられて行ってるし」


 シルビーの言った通り、今まで闇雲に歩き回っていたモンスターたちがマルコスたちの方に向かっていた。

 

「ほらほらどうしたよ魔物ども! 魔獣化したってその程度なのか!」


 マルコスは手を広げ、大声を上げると周囲のモンスターを煽る。

 兵士たちや他の冒険者を襲っていたモンスターの動きがピタリと止まった。

 竜斗の近くにいたモンスターも、その声に反応し一斉にマルコスへと向かって行った。

 

「どういうことだ!? モンスターがマルコスの方に向かって行ってる」


「……これは、彼の魔法だよ」


「ちょ、急にでてくんなよ!」


 にゅっと背後から現れたクレックが耳元でささやいた。

 どうしてみんな急に現れるんだよ、竜斗はシルビーも似たようなことをされたのを思い返す。

 シルビーはワンテンポ遅れて、


「えっと、あの武闘家さんのパーティの人だよね」


 クレックに尋ねる。


「……そう。僕はあのマルコスと同じパーティの、クレック。君は彼の仲間なのかな」


「え、うん。竜斗の仲間のシルビーです。よろしくね」


「……よろしく。君の戦いぶりを少し観察してたけど、まだ小さいのにとんでもないね。堂々とした戦いっぷり、周りもよく見れてる。パーティを組んでない辺り一人が好きなのかな。まあ、僕もずっと一人が好きだったからその気持ちはよくわかるよ」


「あの、えっと、ありがとうございます……それで、マルコスさんの魔法ってどういうことですか」


 ようやく肝心の魔法の話に入る。クレックは意外にも饒舌で放っておくとずっと話していそうだった。


「……簡単に言えば挑発の魔法だね。微弱なダメージを与えることによってモンスターの標的を自分に向けることができる。影響されないような強いモンスターには効果ないけど、この辺にいるモンスターなら十分に効果あるかな」


 マルコスに向かい、無防備になった背中にクレックは攻撃を加える。押され気味だった兵士たちも、これを好機に反撃に転じていた。

 

「……これが僕らの戦闘スタイルだよ。マルコスがひきつけて、リグラの魔法で殲滅する。漏れたモンスターを僕が倒す。リベラの支援魔法で全員の能力が上がってるから、安心して戦えるんだ」


 目の前で起こっている戦闘はまさにクレックが言っている通りのものだった。 

 しかし、竜斗には気になる点があった。リーダーのフーリについては何も触れられていないことだ。

 フーリの格好は剣士だった。リーダーで剣士ということで花形のようなものだと思っていたのだが、今のクレックの口ぶりでは違うようだ。

 何かしらの事情があるのかもしれないが、竜斗にはそれを聞くことはできなかった。


「……さあ、君たちもモンスターをどんどん倒してね」


 クレックはそう言うと、ふっと消えていった。

 

「そうだね竜斗。クレックさんの言う通り今のうちにモンスターを倒そう!」


「……ああ、できるだけ負担を軽くしてやらないとな」


 竜斗とシルビーはクレックの言う通りモンスターの追撃を始めた。

 マルコスの挑発によって向かって行くモンスターたちに攻撃を仕掛ける。

 反撃はしてくるものの、最初の一撃はほぼ確実に与えることができる。そしてそのアドバンテージはかなり大きかった。

 騎士団で取り入れた知識により、初めて戦うモンスターだとしても弱点を熟知している。

 弱点にクリティカルヒットを与え、ひるんだ相手に追い打ちをかけ、倒しきる。

 しばらく戦闘を続けていると、次第にモンスターの数も目に見えて減ってきた。


「ふう、マルコスたちのおかげでだいぶモンスターも減ってきたんじゃないか」


 竜斗は額の汗をぬぐい、魔力回復ポーションを呷る。

 

「そうだね。この調子ならもう大丈夫かも。まだポーションはあるからほしい時言ってね」


 シルビーはにこっと笑いかける。

 傷ついていた兵士たちも、装備を整え、だいぶ立て直していた。

 マルコスたちは相当の数を相手にしていたが、まだまだ元気そうだった。

 ようやく一息つけると、竜斗は大きく息を吐いた。

 

『貴様ら許さん』

 

 辺り一面に凍り付くような冷たい声が響き渡る。

 それを聞いた竜斗の全身に悪寒が走った。

 魔獣化したウルフと対面した時に近い、けれど今感じているのは明らかな憎悪だった。

 竜斗は声のする方をゆっくりと見る。 

 禍々しいオーラを身にまとい、不気味な雰囲気を醸し出している。

 口元は不敵に微笑み、狂気すら感じる。

 人型のそれは、人とは容認できないものだった。

 側頭部からは角が生え、腕は巨大化している。懐に携えた剣は黒く揺らいでいた。

 しかし、その原型とする人に見覚えがあった。

 見間違えるはずがない。竜斗はそっと奥にいるマルコスたちを見た。

 口を大きく開け、呆然としている。ようやく見つかったという安堵と、どうしてこんな姿にという絶望。

 

「まさか、いや、その姿は……」


 マルコスから声がこぼれる。


「……フーリ」


 そんなマルコスを、フーリは哄笑した。

 夜も更け、辺りは暗闇に包まれていく。その中、フーリの瞳だけが怪しく輝いていた。


 

11月19日追記

コロナによりダウンしているため21日更新はお休みします。

回復次第書き上げたいと思います。

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