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リル・ファーナが愛した悪魔  作者: 瀬河 柊
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あの言葉の真意


「私は青騎士、譲葉・トゥルース。至急、王への謁見を願いたい。」

 譲葉が王城の門番にそう告げると、衛兵は困惑した表情を浮かべながらも何処かへと連絡を取ってくれた。しばらくして困惑した表情を浮かべたまま譲葉の前に戻ってくる。

「青騎士・譲葉殿の功績に免じて、特別に少しだけお時間を頂けるとの事です。急ぎ、謁見の間へお向かいください。」

 功績などと言われるほどの事は何も為していないと思いつつも、衛兵に礼を述べて譲葉は小走りで足を進める。先日訪れてから間もない故に、足は意識せずとも謁見の間へ向かう。

謁見の間の衛兵は譲葉の姿に気付くと敬礼を行う。

「中で王がお待ちです。用件は手短に願います。」

「承知しました。」

 承諾の意を返すと、衛兵は速やかに扉を開けた。流石に王の御前で小走りになるわけにはいかず足取りは落ち着きを取り戻し、玉座から適当な距離を取るとさっと跪く。

「この度の急な訪問、誠に申し訳ありません。取り急ぎ、王にご報告せねばならない事象が起こりましたが故に、無礼を承知で謁見願いました次第でございます。」

 譲葉が口上を述べると、王は頷く。

「よい。それで報告とは?」

「はっ。先日君命に従いまして悪魔の森の偵察に向かいました際、かの森に住んでいると思われるハーフと遭遇いたしました。」

 ハーフの存在はやや王の興味をそそったのか、先を促すように首を振る。

「青の至宝であるこの剣を用いて討伐しようと致しました所、抵抗され、揉み合っている最中にハーフがこの剣を何無く持ったのです。」

「ほぉ…ハーフが青の至宝を持てた、と。」

「はい。」

 常に冷徹な響きがある王の声に、この時ばかりは僅かな驚きが含まれている。

「…それは実に興味深いな。今まで人界の誰も知らなかった事実だ。」

「仰るとおりでございます。」

 すると王はクックッと微かな笑い声を漏らす。

「ならば、青騎士部隊に入れるべくハーフにも召集をかけるか?」

 青騎士は王の直轄部隊である以上、その全ての権限は王が持っているにも関わらず、王は譲葉に問うてきた。顔を上げてその表情を窺うとなりゆきを面白がるような笑みが浮かんでいる。選択を迫られた譲葉はごくりと喉を鳴らす。

 ハーフを青騎士に加える?確かに青騎士の総数は決して多い方ではない。可能性を秘めているのであれば、人員は増やすに越したことないだろう。しかしハーフが人間の味方をし、悪魔を討伐せしと戦うだろうか?人間は悪魔と同じくハーフも毛嫌いしてきた。なのにハーフが人間に好意的な感情を持っているとは考えにくい。

 それに。

 真っ先に譲葉の脳裏に浮かぶのは、譲葉が生まれて初めて目にしたハーフの少年。悪魔を殺すなと言いつつも譲葉を倒そうともしない、剣を返せと言ったら素直に渡してくるようなお人好し。きっと契架はそんな力を手に入れることを望まないだろう。

 何故こんなにも契架のことが浮かんでくるのか、その身の行く先を案じて返事を躊躇っているのか。ふとその疑問に気付き、譲葉は僅かに眉を顰める。あんなハーフなどどうでもいいのにと無理矢理思ってみるが、その思いはザラザラとした感覚を残すばかりで。

「…いえ、ハーフが人間に好意的であるとは思いかねます。もしハーフが力を得た事で我々に対して牙を向いてきたら厄介ですし、召集するべきかは、時間を掛け慎重に判断すべきかと存じます。」

「なるほど。」

 譲葉の返答にしかし王は気を悪くした様子も無く、満足げに頷いた。

「今日のところはそなたの意見を尊重しよう。貴重な報告ご苦労だった。」

 王の言葉に譲葉は再び頭を下げる。

「はっ。では御前を失礼いたします。」

 話の終わりの気配を悟り、譲葉は謁見の間を辞する。頭の中を回っているのは契架のことばかりで、王城を後にした譲葉の足は来るともなしに悪魔の森へと向かっていた。



「館からあまり離れないで、契架と二人でなら森で遊んでもいい。」

 アライズがリルにそんな事を告げてから数日。リルは毎日のように契架を伴って森の中で遊んでいた。今まで館とその庭(とはいえ、それなりに広大ではあったが)でしか遊んだ事のなかったリルは新鮮な驚きが一杯のようだった。

「契架、もうすこしあっちにいってもいい!?」

「もう少しだけだよ、あの大きな木の辺りまでならいいかな。」

 契架の返事を得て、リルは嬉しげに駆け出す。契架はその背を歩いて追う。アライズが着いて来ることはないが、そもそも館の周囲何キロとかの範囲で結界を張っているので危険は無いと言えるのだろう。何キロなのかは契架も知らないけれど。

 蝶を追ったり花を摘んだり鳥を眺めたり、忙しなく動くリルを必ず視界に納めながらも契架は考える。

 何故、アライズはいきなり館の外で遊ぶ事を許可したのだろう。確かにリルの好奇心はそろそろ館の中だけでは満たされなくなってきているから「リルの成長に合わせて」という可能性が一番に考えられる。

だけど素直にそうは思えない。ここのところ、アライズの様子がおかしい。そう、リルが連れて行かれそうになったあの日くらいから、少しずつ違和感があった。しかし何がどう変だと上手く表現するだけの言葉は契架には思いつかない。

 一体、何を考えているのか。もともと多くを語らないアライズだが、それでも共に暮らすうちにアライズの考えはある程度分かるようになったと思っていた。しかしここ最近のアライズが何を考え、どうするつもりなのか全く分からない。契架の考えすぎという可能性もあるが、それでも胸のうちにわだかまった不安は少しずつ広がるばかりだった。


 木立の隙間から差し込む光が徐々にオレンジがかってきた。

「リルー、そろそろ帰ろうか。」

 契架が声を掛けると、はーいと返事は返ってくるもののリルはその場から動かない。そんな様子に苦笑を浮かべたとき、不意に草を踏む音を契架の耳が捉えた。

 リルのいる大きな木のふもとから館に向かう道の方へ視線を移すと、夕日に染まった長い髪が揺れながらこちらへ向かってくるのが見えた。距離はまだ少しあることから草を踏む音など聞こえるはずも無いのに、何故か契架にはそれが聞こえた気がしたのだ。

「譲葉…!」

 向こうがこちらに気付いているのかは定かではない。しかしその姿は紛れも無く、青騎士の譲葉であった。そもそも此処はアライズの結界の内側である以上、彼女が結界の内へ踏み込んだ時点でアライズが気付いているはずだが、やって来ない事から対処は契架に任されたと考えるべきだろう。

 契架はなるべく譲葉に気取られないようにすっとリルの元まで移動する。

「リル、いいかい。僕がもういいよって言うまで、この木の陰に隠れていて。声も音も出しちゃダメだよ。」

「契架?」

 花に止まっていた蝶に見入っていたリルが、契架の急な言葉に不思議そうに首を傾げる。

「いい?絶対だよ。」

 しかし契架が念を押すようにやや強めな口調で言うと、何かを感じ取ったのかコクンと頷いた。

「わかった…。」

 契架は優しげに微笑むとリルの頭をくしゃっと撫でて、立ち上がる。そのまま道沿いへ足を進めると、こちらに向かってくる譲葉と目が合った。

「…何しにきたの?」

 リルが一緒である以上、彼女に危害を加えさせるわけにはいかない警戒心から、やや硬くなった声で譲葉に問いかける。

 譲葉は剣を抜いても契架に当たらないだけの十分な間合いを取った距離で足を止め、真っ直ぐに契架を見つめる。強い輝きの宿った青い眼に射竦められ、しかし契架にも守る者があるのだから引くわけには行かないと、しっかりとその視線を受け止める。

「あんたは…。」

 しかし譲葉の声は瞳の強さに反して、迷うような響きが込められていた。

「…あんたは、悪魔を殺したい?」

「え…?」

 譲葉から投げかけられた質問は、あまりに唐突で脈絡が無かった。

「あんたのご主人様の事をじゃなくて…、例えば人界とかにいる悪魔を殺せるとしたら、その為の力を得たいと思う?」

 譲葉の強い視線は変わりなく、しかし問いかける声には相反する迷いが消えない。契架は答えを慎重に選んだ。

「…僕は、誰かを殺す力なんかいらない。例えそれが人間でも悪魔でもハーフでも、殺したくなんか無い。」

 夕焼けに染まる森の中は、まるで二人以外の時間が止まったかのように何の音もしない。二人の声だけが静かに響く。

「何でそんな事を聞くの…?」

 今度は契架が問いかけると、譲葉は一度ゆっくりと目を閉じた後、その腰に下げられている繊細で美しい剣をゆっくりと抜き放った。しかし譲葉にこちらを害する気は無いようで、抜かれた細身の剣もオレンジの光を反射させたまま空に向けられている。

「この剣は、青の至宝という種類の武器なの。」

 青の至宝。契架もその響きには覚えがある。先日アライズが話してくれた過去の話にも出て来た。青の牢獄で悪魔の魔力を封じる為に置かれていたという代物だ。しかしそれと譲葉の剣が同種だと言う事が分かっても、それが意味するところまでは分からない。

「武器以外にも色んな種類があるんだけど、青の至宝が人間が悪魔に対抗する唯一の力。…この世で唯一、悪魔を制す事が出来、殺すことを可能とする力。」

「…えっ…。」

「だけど青の至宝は誰でも扱えるわけじゃない。扱うだけの資格を持たない者は触れる事すら出来ないの。こう…触ると電気みたいな感じで弾かれるのよ。」

 譲葉の視線はその手に握られた剣の刀身に向けられている。しかし契架はそれどころではない。

 今、譲葉から聞かされようとしている事実はとてつもなく重要だ。そう、アライズが契架に話してはくれない事。

「青の至宝を扱う資格を持つ者は青い眼を持つ人間…『青眼』だけだと今までは誰もが思っていた。でもこの間、あんたもこの剣を持てたということは人間と悪魔のハーフも資格があるという事。…青の至宝を扱えるのは青眼とハーフ、その二つだけなのよ。」

 そう言って、譲葉の視線は再び真っ直ぐに契架の黄色い眼を捕らえた。

 その視線に呼び覚まされるように、数日前のアライズの言葉が脳裏に響く。

 一つの力と二つの存在。青の至宝、青眼とハーフ。それだけが悪魔を…アライズを殺せる方法なのだと。

「なん…だって…!?」

 譲葉の言葉に契架は戦慄した。アライズが拾ったのは人間と悪魔のハーフである契架。そして青い眼を持つ人間のリル。

 契架とリルを拾ったのはアライズの気紛れだと思っていた。だけどもし、そこに意図があったのだとしたら?

『…ただ、死にたかっただけだ。』

 もしかして、アライズが自分たちを拾った理由とは…。すべてが繋がっていく感覚に飲まれ、契架は譲葉の存在すら意識することが出来なかった。

「ちょっと…?」

 契架の様子に譲葉が剣を鞘に収めながら、怪訝そうに呼びかける。しかし契架は答える事が出来なかった。もしかしてアライズは、本当に。


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