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オルデの零落  作者: ラノ
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【流通の神】の町

 青年は行先を決めているわけではなく、ふらふらと気分で旅をしている。放浪のきまりは作っていた。

 

 一つ目は同じ場所に長く滞在しない。

 二つ目は力を見せた場所は即日で移動をすること。

 三つ目は特別な理由がない限りは同じ場所に戻らない。

 

 この三つのきまりを守って行動しているのは、やはり他の人と自分が違うことを青年が自覚しているせいだろう。 

 昨日、村を立ち去った理由は二つ目のきまりのためである。有難く思われて、手厚くされるのならまだマシなのだが。

 厄介な相手を呼び寄せる噂になりかねない。

 

 日が昇り、空が明るくなった頃。

 青年は再び歩き始める、次の地は力を使わずに少しのんびりできればいい、と思っていた。

 

 青年は体が丈夫な方で、かなりの距離を歩かない限りは歩き疲れることはない。

 背負っている荷物は多くないため、頻繁にどこかの村や町に立ち寄らねばならないが。それでも一人でのらりくらりと歩く旅は快適だった。

 

 しばらく歩き続けると地図通りに大きな町に辿り着いた。潮風を感じながらも町並みを眺めればたくさんの石造りの建物が並び、人々の往来も頻繁だ。


「ようこそ旅人様、アルトロネレス様のお導きに感謝します」

「こんにちは、しばらく滞在しようと思っているんですが。どこかに宿はありますか?」

 

 白を基調色とした装いに大槍を片手に立っている男だが、彼は【流通の神】アルトロネレスに使える者だろう。

 神の使いとして町を警護している者であり、旅人や町のものを威嚇するための大槍ではない。

「はい、宿の通りはここから歩いてしばらくです。何かお困りのことがあれば使いの者にいつでもお伝えください」

 

 この町の民であれば、アルトロネレスに使えることは栄誉なことである。そのためこのように客人や旅人を拒むことなく手助けをしているのだろう。

 

 アルトロネレスが治める町は【流通の加護】により商売人がよくやってくる。

 その神曰く【人集まるところに繁栄あり】としており、特に人を強く拒むことをしない神であった。


 故に客人や旅人を受け入れているため、この町の人々の往来は盛んになった。

 

 だが全てを受け入れるというわけではなく、アルトロネレスの害となる者。また信仰する者を傷つける者を許さず。統治と安寧のために神の使いとして何十名か、人を配置しているのだろう。

 

 そして先の入り口の会話が成り立っているわけだ。

 

 青年は安定した治安の町でのんびりしようとやって来たが、噂通りの落ち着いた町だった。

 掃除が行き届いた道に、外装が整った町並みというのは治安が良い証拠だ。宿の通りも青年以外の客人、旅人が歩いており雰囲気は穏やかである。

 

 青年は一つの宿に入り、しばらくの間の部屋を借りることにした。

 

「旅人様のお名前を頂きのですが」

「ああ、えっと。アルバニです」

 

 青年はそう名乗り、宿代を硬貨で払うと宿主は受け取った。通された部屋は眠るには十分な広さがあり、綺麗な部屋だった。

 

 思えばしばらく野宿だった、と青年は体を伸ばす。綺麗な部屋であれば文句もない、というよりは。

 

(少し眠ろうかな)

 

 森の中で浅い眠りで夜明けを待っていたので、少し疲れたようだ。

 アルバニは静かに体を横にすると、簡単に眠りに落ちていった。

 

 ***

 

 安心できる場所で眠ったせいで、ふと昔のことを思い出すように夢を見た。

 

『アルバニはとても優しい子だから』

 

 母の顔を見上げているのは自分が小さい頃に見た光景だからだろう、とアルバニは思う。

 亡き母が微笑んで頭を撫でてくれるのが、アルバニには嬉しかった。

 

『きっと神様が、あなたに祝福を与えてくれたのかもしれないわ』

『そうなのかな』

『そう、だから内緒よ。この力は内緒にしておくの。みんながアルバニくん、ずるーいって言わないように』

『うん』

 

 そうして幼少のアルバニは自身の手元を見下ろすと同時に、手に包まれていた小鳥は自由を求めて空へ羽ばたき去っていった。

 アルバニはそれを嬉しそうに見て、母に笑って話す。

 

『鳥さん、元気になってよかったね』

『そうね、あの鳥さんはアルバニにきっと感謝をしているわ』

 

 翼の折れた小鳥が再び飛べることを嬉しそうに見つめているアルバニと。

 自身の子供の将来を不安に思いながらも、優しく『内緒にしよう』と促す母親。

 

 青年になったアルバニにならもうわかる、自分が異端であることを。母はわかっていたからこそ、傷つけないように隠そうとしてくれていたのだと。

 

 それが少し寂しい夢に思えるのは。母を失った理由すら自分が異端だったせいなのだと、知っているからだ。

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