お前は誰だ
酷い乗り物酔いをしたかのように、気分が悪かった。
少しでも光が目に入ると、千本の針で眼球の裏の方を刺されたかのように感じる激痛が走った。
眉間に皺を寄せるほど瞼を強く閉じても、瞼という皮膚に透けて届く些細な光が、痛みをこれでもかと連れてくる。
だから、私は体を丸めて、両腕両腿で頭を抱え、目に光が入らないように蹲り、痛みが治まるのを願いながらただただ待ち続けるしかなかった。
そうして、かなりの時間が経過し、治らないことを悟り、諦め、仕方なく動くことを決めた。
恐る恐る目元を開放していったら、有り難いことにもう夜になっていた。
しかし、空には爛々と輝く月、星の数々が散りばめられていて油断ならないことには変わりなかった。空が視界に入らないよういように、でも出来るだけ先の景色が見えるようにあたりを見渡すと、もう一つ痛みの原因となるものが映った。
山火事だ。
その炎の勢いは、これから一層激しさを増し、規模を拡大していくに違いない。さりとて、今の自分に出来ることはない。なぜなら、魔力ガ底を尽いていて、鎮火できるほどの水魔法を行使する状態ではなかったのだから。
ここで一つ疑問に辿り着いた。
俺は何故ここに横たわっていたのか。
俺は何故こんなにも体を痛めているのか。
一体ここは何処なのか。
私は何故日本という見聞きしない国と比較しているのか。
俺は何故、隣に横たわる胴体を上下に両断され怪物の巨体を見て、その正体とこうなった経緯を理解できているのか。
私は何故主語がぶれているのか。
確実に何かが己の身におきているはずなのだが、違和感で終わってしまう。
何か、異なるものが一つに融け合おうとしている最中のような、そして融け合ってしまえばもう完結された一個体になって戻れないような、何かの途上の状態にある気がした。
もしかしたら、これが生死を彷徨った感覚なのかもしれない。