異世界
東雲明は、左腕の肘から先が動かない。
幼い頃に親友を庇って負った傷だった。当時は何かと不貞腐れていたものだった。でもまだ小学生だったし仕方なかったと思う。遊びたい盛りなのに、危ないからとアスレチックも使わせてくれなかった。友達の家で遊ぶときも心配した親が送り迎えして恥ずかしく嫌だった。
学校の昼休みに、友達と校庭で遊ぶこともできなくなった。図書館に行って、適当に本を選んで時間をつぶしていた。そのとき読んでいた本の中身はさっぱり思い出せない。きっと文字を追っていただけで、楽しもうなんて気持ちを持っていなかったからだと思う。
でも前から習っていた剣道だけは、勝手がわかっているからというのと、防具があるから安全だろうということで、唯一許された運動だった。今まで勝ててた奴らに負け続きで、剣道も嫌になったけれど、これすら出来なくなってしまったら、すべて終わってしまうことをなんとなく感じてて、惰性で続けた。向上心なんて一切なかった。
勉強も同じで、身に入らなかった。どれだ勉強しても、治りはしないし、片腕が不自由という欠陥を覆せるものとは思えなかったから。
それでも、あることをきっかけに、今では剣道で全国大会に出場するし、勉強も学年一位から三位を彷徨うくらいにはなれた。今後も頑張り続けようと思っている。それもこれも、彼女のおかげだ。
「明! 帰ろう」
「おう。でもちょっと待ってて。先生に提出しないといけない資料があってさ」
「わかった!」
高菜桜希。3人いる幼馴染みの一人。
「たまには勇人も、一緒に帰ろう? ね?」
「いや、俺はいいよ。お前らに悪ぃし」
「……そんな全然気にしないよ」
「お前がしなくても、こっちがするんだっての。それに練習もあるしよ」