2-2【魔法とは】
オジサンの家に着いてからも僕はヘルメットだけを外して、ただ呆然と座っていた。
せっかくの記念すべき初陣。
…にも関わらず気持ちだけが先走ってしまい、ドジばっかり踏んで散々な結果に終わった。
シューティングスターのためにと動いていたのに逆に迷惑をかけてばっかりで、挙句の果てにはこっ酷く怒られてしまった。
それが物凄くショックで…。
何より舞華に怒られたことが、物凄くショックだった。
哲「隆政」
中々荷台から降りてこない僕を気遣うように、オジサンが呼びかけてきた。
哲「いいか? 人生なんて上手くいかないものさ。
必ずしも自分が思い描いた結果なんて、起きるとは限らないもんだよ」
隆政「…でもさー…僕、舞華に怒られたのって、人生で今回が初めてなんだよ?
へこむよ、そりゃ…」
哲「…なら、これから名用挽回をしていけばいいさ。
底辺を見せてしまったのなら、そっから巻き返せばいい。
だろ?」
隆政「…うん」
哲「今回は突然の出撃だったし、
スーツをちゃんとコントロールできなかった。
勿論、俺からも充分な説明ができなかったのも悪い。
だから次の出撃までにスーツの扱い方を覚えて、
今度こそ怪盗団に目にものを見せてやるんだ。
そしてシューティングスター…いや、
舞華って子を振り向かせてやればいい」
隆政「…うん、そうだね」
哲「さぁ、わかったならいい加減スーツを脱いで、
バンから降りるんだ」
オジサンの励ましもあって、さっきまでの落ち込みが嘘のように晴れていった。
こういう時、オジサンがかけてくれる言葉はありがたい。
いつもは自由奔放な人だけれど、人への気遣いはそれこそ人一倍大きいのだ。
これまで、何度助られたことか…。
帰宅してテレビを見ていると…やはりというか当然の如く、街で起きた事件が大々的に報道されていた。
一般視聴者からの投稿と思わしき映像には多少荒かったものの、怪盗団やシューティングスター、そして僕こと流星仮面の姿も写っている。
…そしてこれも当然のことのようで、見事なマヌケっぷりも大々的に映し出されている。
そんな姿を目にしたニュースキャスターは、どこか微笑ましい眼差しでその映像を見ていた。
その眼差しが、僕にはどうしても虚しい…。
もし言えるなら、【そんな目で見ないでください】と言いたいくらいだ。
奈津子「ま~た変なのが出てきたね」
僕の隣で視聴していた奈津子も、いつも通り呆れた口調で映像を見ていた。
奈津子「あんな格好してる割に、
全然戦ってる風には見えないよね。
何というか、到底ヒーローには見えないわ」
実の妹からも、この言われようだ。
僕には到底、口答えのしようもない。
健太「でも、かっこいいよね!」
一方、僕の膝の上に座っていた健太は、特撮番組などで見るようなヒーローが現実に現れたことで、嬉しそうに言った。
奈津子「そう?
テレビのヒーローって、
あんなにドジじゃないでしょ?」
健太「そんなことないよ!
だって、一生懸命悪いやつらと戦っているし、
それに、あの服かっこいいもん!」
おー、健太はやっぱりお兄ちゃんの味方だな~、お小遣いをあげたいくらいだぞ。
恵「だけど、この街も物騒になったものね」
少し手が空いたのか、夕食の準備をしていた母さんがやってきた。
恵「とくに怪我人が出てるわけでもないけれど、
いつ自分達が巻き込まれてしまうんじゃないかと思うと、
気が気じゃないわ」
健太「大丈夫だよ、お母さん」
本当は流星仮面である僕が言うべき言葉を、健太自らが言った。
健太「正義のヒーローがいるんだもん。
きっとすぐに悪いやつらなんかやっつけてくれるよ!」
恵「…ふふ、そうね、そうだといいわね」
健太の無邪気さに目を細め、母さんはにこやかに笑った。
…そう、大丈夫だよ、母さん。
僕が家族を…いいや、家族だけじゃない。
僕が流星仮面となって、皆を守るヒーローになってやるんだ。
…そして、自分に自信を持たせる。
これまで力など無く、一人ぼっちのような存在だった僕でも強い人間になれる。
そうすれば例え仮面など無くても、舞華とも顔を合わせられる、ちゃんと話しもできる。
それができれば、舞華に堂々と告白もできるはずだ。
隆政「耐電プレート?」
早めに起きた僕は登校まで時間があると思い、オジサンの家に寄っていた。
次いつ出撃になるかもわからないので、できるだけ空いた時間にスーツの説明を受けておく必要があると思ったのだ。
哲「過去の映像等を観て検証してみたところ、
連中が使っている武器は基本的にスタンガンといった武器ばかりだ。
耐電プレートとは、そんなスタンガンから発せられる電流を遮断、
ないし放電させて軽減させる絶縁体を用いた、防御装置のことだ。
それがアーマーの内部に取り付けてある」
などなど、オジサンは昨日説明していなかった事を教えてくれた。
まぁまだ実際にスタンガンを…というかそもそも、怪盗団の武器を受けた事は一度も無い。
というより初めて受けた攻撃が、シューティングスターの光の矢だったわけなのだけれど…。
隆政「それより、シューティングスターの攻撃対策とかできないかな?」
寧ろ、今の心配はそっち。
まだドサクサに紛れて…というより、意図的にまた打たれる事は充分ありえる気がするので、あの攻撃に対する打開策とも言うべき方法を取りたい。
骨が折れるほどまでとは言わないけれど、あれ結構痛いんだよね。
哲「確かにな」
思い出したのか、オジサンは笑いながら応えた。
隆政「オジサン、一応真面目に言っているんだけど…」
哲「わかってるわかってる。
その件に関しては、昨日の戦闘データを解析してやってみるよ。
結局あの矢がどういう代物なのか、
まだよくわかっていないからな。
まさか魔法…とは言いたくないけど、
魔法を科学の延長線上みたいな物と考えれば何とかなるだろう」
隆政「魔法って科学なの?」
ちょっと信じがたい話しに、僕は耳を疑った。
そもそも魔法自体僕も疑っていたものだけれど、どうもその両者が結びつくとは思えない。
哲「ちょっとした例え話しのようなもんさ。
昔観た映画にもそれを説明するシーンがあったんだがな。
例えば…隆政、熱ってのはどうすれば起きるかわかるよな?」
隆政「それくらいわかるよ、理科の成績は良い方なんだから。
熱の発生には例えば分子と分子、
もしくは物体と物体の間で摩擦が生じるか、
あるいは激しく振動した時に起きる」
哲「そう、その通り。
その摩擦や振動が強くなった時、初めて熱が発生する。
この原理を用いたのが、縄文時代の道具で見かける火起こしの道具だ。
ではもし、人間がその摩擦や振動を手も触れずに起こせるとしたら?」
隆政「そんなこと、念じなければできるわけ-
あ、なるほど」
オジサンが言いたいことを理解し、僕は納得した。
隆政「流星仮面のバイザーでも使われている脳波、だね?」
哲「さすが隆政だ。
その脳波を電子レンジのマイクロ波のように一点に集中させることができれば、
空気中に浮いている分子を急激に振動させ、
火を起こすことが可能なはずだ。
…で、こっからが面白い話しでな?
前にも言ったと思うが人間の脳ってのは、
コンピューターと同じような物なんだ。
ところが奇妙なことに人間は脳の機能の内、
ほんの10%程度しか使っていないと言われているんだ」
隆政「10%?
たったのそれだけ?」
哲「たったのそれだけさ、俺もお前もな。
けど10%の機能でも脳波さえ読み取れれば、
機械を動かす事ぐらいわけないってことだ。
…だがもし、10%を超える脳が存在したら、どうだ?
脳波を読み取る機械が無くても所謂、
念動力だけで物を動かすだけでなく、
今言ったように手を触れずに火だって起こせる。
それが俺の思う、魔法って奴さ」
オジサンの言っていることはかなり突拍子の無い話しだと思うけれど、その可能性は充分にありうる。
もし、そうなら、舞華も-
隆政「シューティングスターも脳が活性化している状態だから、
光の矢を放てるってことなのかな?」
哲「俺の理論上だとな、そんなとこだ。
だからあれが一体何なのか…科学者ではないけれど、
技術者として興味があるな。
…だが-」
隆政「?」
哲「この世には科学では説明できないことはいくらでもある。
俺が考える理論以外でもひょっとすると、
そんなものでは説明できないような超自然的な力が存在するかもしれんな」
オジサンは最後まで楽しそうに話していた。
超自然的な力か…。
初めてシューティングスターを目撃した日を思い出す。
舞華が何者かの力で変身する姿。
これまで見たことのない不可思議な現象を目の当たりにし、僕は心奪われた。
美しくて、綺麗で…いや、言葉では言い表せられないくらい、神秘的な光景だった。
まさにその一瞬一瞬が1枚の絵画に匹敵するほど、舞華が神秘的な姿に見えたのだ。
…そして、あの銀色に棚引く髪、いつもより輝きを増した白く美しい肌、愛くるしい目。
見つめられた時はいつも以上に心の鼓動が大きくなったの感じた。
天にも昇る気持ち…とでも言うのだろうか、それこそ一瞬が永遠にも感じた。
ずっと見ていたい…そう思った矢先、急にいつものように緊張で目をそらしてしまい、そしてシューティングスターは僕の前から消えた。
今までの出来事が幻だったのではないかと疑うくらい、煙が晴れた途端に忽然と。
でもあれは現実だ、幻なんかじゃない。
帰ってから観たテレビでも報道されていた。
あれは決して夢物語の出来事なんかじゃない。
舞華が不可思議な力で変身したこと、そしてその能力で怪盗団と戦っていること…。
それは僕が…いや、これまでの人類が目にしたことのない超自然的な力…魔法であることに違いないだろう。