1-7【初陣】
それから時折、オジサンとはメールや電話でやり取りすることが増えた。
現在の作業状況の報告の他にデザイン面等、僕の要望を聞きたいというのがほとんどで、暇さえあれば僕も作業場となっているオジサンの家へと足を運んだ。
当初の予定であった1週間が過ぎた頃、ついに完成したとの報せを受け僕は、はやる気持ちを抑えつつもオジサンの家へと直行した。
いつも通りガレージから入れてもらい、作業スペースとなっているバンの中を覗く。
そこにあったのは、元の原型から大分姿形の変わったスーツだった。
哲「どうだ、いいデキだろ?」
オジサンは完成したアーマーを見ながら、満足そうに言った。
当初の僕の要望通り、頭部は大幅にデザイン変更がなされていて、バイザーは星形をイメージしたインテークとなっている。
色も黒一色から、ブルーに変更。
そして試作品の人工筋肉を内蔵したことで、オリジナルよりもマッシブなフォルムへと変わっている。
隆政「…上出来だよ、オジサン!
ありがとう!」
哲「いいってことよ!
…ま、おかげで少し寝不足だけどな」
冗談を付け足すかのように、オジサンはあくびをして見せた。
隆政「それで、どうやって装着するの?」
哲「まぁ慌てなさんな。
まずは軽くレクチャーを加えつつ-」
ドォォォォォォォンッッッ!!
その時、外からけたたましい爆発音が響いた。
隆政「な、なに? 今の音…!?」
哲「街の方からみたいだ!」
オジサンも驚いた様子で一緒に表へと飛び出した。
見ると、中央の方から黒煙が舞い上がっており、遠くから悲鳴のようなものも聞こえた。
隆政「事故か何か…かな!?」
哲「…いいや、どうやら違うようだ、見ろ!」
促され、空を見上げた。
…見ると、赤いバルーンが空に向かって舞い上がり、それにくっついている垂れ幕には
【怪盗団BUZZ参上!】
と、登場を知らせる文字がご丁寧に書かれていた。
哲「…いや~ほんとにいるもんだな、
あんなバカみたいに目立つことをするバカが」
あまりに滑稽とも言える演出を目の当たりにし、オジサンはいつものように呆れ口調で呟いた。
…と、そんな呑気に状況把握をしている場合じゃないぞ!
隆政「…オジサン…!」
哲「ん?
あーそうか、出撃だな!」
怪盗団が現れた、ということは当然舞華…いや、シューティングスターも現れる!
いよいよ僕がヒーローとして、表舞台に立つ時が来たわけだ!
哲「よし!
早速準備に取り掛かろう!」
もう一度ガレージの中に入り、僕はスーツが積まれている荷台へと上がった。
隆政「………それで、どうやって着るの?」
哲「着用方法はダイバースーツに近いかな。
このスーツの中には人工筋肉が組み込まれていて、
それを稼動させるためのバッテリーパックが内蔵された外部装甲を取り付けていく」
オジサンは説明しながら奥の方から、複数のパーツが収納されたハンガーを引っ張り出してきた。
隆政「な、なるほど…。」
まぁとりあえず、これに着替える必要がある、てわけね。
哲「パーツは現地に着いてから取り付けてやる。
その間に着替えを済ませておくんだ」
隆政「わかった!」
オジサンは一度運転席へと向かい、エンジンをかける。
アクセルを踏むと、途端に車内がガタゴトと揺れ出した。
…う、着替え難い…。
今着ている服を脱ぐのに悪戦苦闘しつつ、例のスーツを纏った。
逃げ惑う人々の中を走っているのか、外から聞こえる悲鳴や喧騒はより大きくなっていた。
車が停車されると、運転席からオジサンが戻ってくる。
哲「じゃあ、残りのパーツを取り付けていくぞ」
オジサンはそう言うとハンガーに格納していたパーツを、僕が来ているスーツに取り付けていった。
1つ1つを手作業で取り付けていくものだからちょっと時間はかかったものの、頭部以外のパーツ全ての装着が完了し、オジサンがヘッドユニットを手渡してきた。
哲「ここのスイッチを押せばバイザーが開く、そうすれば装着可能だ」
説明を受け、バイザーが開いてから被る。
隆政「それで、次は?」
哲「うん、ちょっとコツがいるぞ?
意識を集中し、バイザーが閉じるよう命令を与え-
まぁ簡単に言えば、閉じろ!て、念じればいい」
隆政「そんなものでいいの?」
哲「まぁいいからやってみろ、まずはそれからだ」
説明され、言われるがまま命令を実行してみる。
すると、ガチャン!と音を立てて、バイザーが閉じた。
隆政「お…お~!!」
映画か何かで見たようなその動きに、自分自身が感動してしまった。
そして閉じたことでバイザー内の電源が入ったらしく、モニターが映し出された。
単純に目に見えてる外の映像だけでなく、スーツのコンディションやら何やらも表示されている。
哲「ちゃんと映っているか?」
隆政「うん、ばっちり!」
哲「よし、ここまでは問題無しか。
それで、内蔵した人工筋肉の稼働方法も脳波によるものだが…
注意して欲しいことが2つある」
隆政「2つ?」
哲「まず1つ、前にも言ったが、
使っている人工筋肉は失敗作ないし不良品を改良したものだ。
何とか使える代物にはしたが、
そもそも小型化に成功していない代物だから、
バッテリーと人工筋肉のエネルギー効率が悪く、安定性が非常に低い。
…つまり、稼働中は膨大な熱を発生し続けるわけで、
その影響でアーマーとスーツが高温に達するんだ」
隆政「えっ!? それって大丈夫なの!?」
哲「まぁ最後まで聞け。
それを防ぐため、使用時間に制限を付けておいた。
通常稼動なら3分だ。
稼働するとモニター上にタイマーが表示され、
稼働可能な残り時間を提示してくれる。
3分を経過すると、人工筋肉とバッテリーの強制冷却が始まる。
その時は各パーツの冷却カバーが開くが、
こうなってしまうとスーツの要が剥き出し状態になってしまう」
隆政「…つまり、最大の強みであると同時に、最大の弱点…てわけだね?」
哲「その通りだ。
冷却にはスーツと各パーツ内に配線されたチューブ内を通る【青い冷却触媒】、
そしてフィンを使った排熱で行われる。
こいつらが剥き出しになるわけだから、使う時はよく見極めて使うんだ」
オジサンに言われてスーツに取り付けられた人工筋肉を含む複数のパーツの内部を見ると…
確かに、張り巡らされたチューブ内に綺麗なブルーの液体が注入されている。
隆政「わかった。
…それで、もう1つは?」
哲「もう1つが、人工筋肉の能力を最大限に発揮するモードだ。
それこそ人工筋肉の力を極限まで上げることが可能だが、
当然それに伴う熱エネルギーも莫大となる。
発動したらこれを防ぐため、強制冷却を同時に行うわけだが…
熱量の方が強すぎて所詮、熱の抑制程度にしか効果を発揮しない」
隆政「じゃあ、通常より使用可能時間が短いわけ?」
哲「それもあるが…。
コンピューターでのシミュレートだと、
冷却触媒が熱に耐えることができず、
ほんの数十秒で冷却触媒の通るチューブが吹き飛んじまうんだ」
隆政「え、ほんとに!?」
哲「そうなると当然冷却などできず、
あっという間にアーマーが高熱化し、そのまま崩壊しちまう。
そうなれば、もうアーマーが使い物にならなくなっちまうんだ。
…だから、稼働時間は最大でも1分、それも人工筋肉の初回稼働時の場合だ。
だがこれはあくまで装着者の生命維持を優先した物で、
機能の一時停止ではない。
できるだけ使って欲しくはないが…覚えておいてくれ」
隆政「な、なんでそんな危険な物を…」
哲「え、だってカッコいいじゃん、そんな秘密兵器があった方が」
散々大真面目な話しをしておいて、そんなオチですか。
こっちは真剣な戦いに赴くわけだし、それほど危険なものを装着する僕の身にもなって欲しい。
哲「まぁ冗談はさておき…。
そんな事情もあるから、扱いには充分に注意を払えよ?」
隆政「わかった…!
それじゃ、行ってくる!!」
必要最低限の説明を受け、僕は勇ましく表へと出た。
哲「あ、あ~待て!!」
路地裏から出ようとしたところを、突然オジサンが止めに入ってきた。
哲「な、何?
早く行かないと、シューティングスターが…!」
すでに大通りでは、シューティングスターとBUZZが戦っているのが見える。
BUZZの数は前より少ないようだけれど、相変わらず1対複数の戦いでは圧倒的にシューティングスターの方が不利だ。
早く加勢しなくちゃならないのに、何で止めるかな?
哲「路地裏から出てくるスーパーヒーローがいるか! てことだよ」
…あ、なるほど、そういうことね?
そういう-
隆政「…え、じゃあどこから登場すればいいの?」
哲「決まってるだろ?」
何を今更、という具合にオジサンが上を指差す。
上…?
空しか見えないけど…。
哲「ヒーローと言えば、高所から颯爽と現れるものだろ?
初陣なんだし、やっぱ最初はインパクトのある登場じゃないとな!」
え、じゃあ建物の屋上に行け、てこと!?
哲「何を迷ってるんだ?
シューティングスターに加勢して助けるんだろ?
男ならホレ、やってみろ」
うわー、ホントこの人、人事だ…。
…けど、ここで四の五の言っている暇も無い。
ここはオジサンの言う通り、颯爽とした登場シーンを演出してやろうじゃないか!
隆政「わ、わかったよ!」
哲「よし! それでこそ俺の甥っ子だ!
俺は車内から無線で指示を出すから、
大船に乗ったつもりで行ってこい!」
隆政「了解!」
Sスター「くっ…!
いつもより人数が少ない割に、
今回はやけに手こずらせてくれるわね…!!
ボス「ははは!!
毎度毎度やられてばかりのBUZZではない!
今日のテーマは【NO 喧嘩!】
連携プレイさえしっかりすれば小娘1人、屁でもないわ!!」
Sスター「くだらない作戦ね…そんなことで負ける私では-」
隆政「は~はっはっはっは!! そこまでだ、怪盗団!!」
ボス「何奴!?」
僕の笑い声と共に、その場にいた全員が僕がいる建物を見上げてきた。
オジサンの指示通り建物屋上で仁王立ちとなり、眼下にいるシューティングスターや怪盗団を見ながら僕は高らかに叫んだ。
どうだ、この登場っぷり!!
いかにも、正義のヒーローみたいな感じじゃん!!
哲『いいぞ~隆政!
ノリに乗ってるじゃないか!』
と、無線越しのオジサンも満足そうである。
Fボール「な…なんだ、あいつは?」
リッパー「まさか…新手? シューティングスターの仲間!?」
Sスター「い…いや…私、基本1人だし…
てか、あんなの知らないわ…」
ふふ…当然のこと…!
何せ僕は、今日が初登場の正義のヒーローなのだから!
ボス「貴様、何者だ!?」
隆政「僕か? 僕の名はりゅ-」
…て、危ない危ない…!
本名を名乗ってしまっては、僕の正体がすぐにバレてしまう。
それは根本的によろしくない…というより、そもそも正義のヒーローなのに、ヒーローネームというものを一切考えていなかった!!
ボス「…?
どうした、まさか名前も無いのか?
仮面の男よ…?」
見事にドモッてしまった僕の行動に、ボスは小バカにするかのようにニヤニヤと笑っていた。
う…まずい…これではせっかくの登場シーンが台無しだ。
名前…名前…。
一生懸命に頭をフル回転させ、いい名前がないか考える。
…そうだ、僕はシューティングスターを助けるべく、こうやってヒーローになったんだ…!
そして皆の希望の星のように思える存在になるんだ…!
それなら-
隆政「…そう、僕の名前は…
【流星仮面】だ!!」
BUZZ一同「流星…仮面…!?」