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流星仮面  作者: 矢部 さとし
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1-4【ヒーローになる方法】

 地下鉄に乗ってやってきたのは、

夢見が丘中央にほど近い住宅街。


 ここは主にビジネスマン向けに販売、

ないし賃貸している住宅が立ち並ぶところだ。


 夢見が丘中央…通称【中央】にほど近い場所であるため、

この街で働くビジネスマンには人気の所で、

ここに住むことが1つのステータスともなっている。


 独特の煉瓦作りも人気の1つであり、

多少金額が高くても住もうと思う人が後を絶たないそうだ。


 …さて、僕がここに来たということはすでにお察しの通り、

さっき電話で話した相手…つまり僕のオジサンもここに住んでいる。


 名前は【花見 哲(はなみ さとし)】。


 血縁関係で説明すると、オジサンは僕の父さんの弟。


 父さんとはベクトルが違うけれど相当な(こだわ)りを持つ人らしくて、

デザインや見た目を物凄く大事にしている。


 ここを選んだ理由も、やっぱり独特の煉瓦作りに一目惚れしたそうで、

ほぼ即決の勢いで購入したとのこと。



 「お前もバカだよな」と父さんに言われたらしく、

そのエピソードを以前にオジサンが笑いながら話してくれた。


 …まぁつまるところ、人生を楽しく生きようとする、

それは愉快なお方である。


 …さてさて、事の目的を説明するためこんな時間に尋ねに来たわけだから、

早く済ませてしまわないとオジサンに悪い。


 オジサンの家はこの時期だととてもわかりやすく、

玄関先にローズマリーの花が植えられている。


 確か何かの記念日だったかの時に、

僕がオジサンに上げたものだ。


 栽培に関しても腕は良いようで、

気が付けば玄関先はローズマリーの花で溢れ、

それこそ一目でオジサンの家だと把握できてしまう。


 まぁさすがにこの歳になって家を間違えるようなことは無いから、

別に目印があっても無くても大丈夫だ。


 玄関先まで行くと、さっそくチャイムを鳴らした。


哲『はい』


隆政「オジサン、僕」


哲『あぁ、待ってろ』


 短いやり取りを済ませ、インタホーンが切れる。


 ほどなくして玄関の鍵が外れる音が聞こえ、ドアが開かれた。


哲「よぉ」


隆政「ごめんね、オジサン、こんな遅い時間に」


哲「いいって。 ま、上がりなよ」


 促され、家の中にお邪魔した。




 ダイニングに入ったところで、一匹の猫が駆けてきた。


隆政「やぁ、ルーシー」


 足元までやってきたこの猫は、

オジサンが飼っているペットの内の一匹で、名前は【ルーシー】。


 顔にクレオパトララインの入った、

綺麗な顔立ちをしたアメリカンショートヘアだ。


 とても人懐っこい猫で、こうやって誰かがやってくると玄関まで出迎えてくれる。


 抱きかかえると嬉しいのか、喉をゴロゴロと鳴らすほど愛嬌もいい。


 ちなみに、ペットはもう一匹いるわけだが…。


隆政「パティは?」


哲「ん? そこの上だ」


 リビングに入ったところでオジサンの目線を追うと、

棚の上からこちらをジッ…と伺う、

ロシアンブルーが鎮座していた。


 相変わらず人見知りというか、ぶっきら棒というか…。


 パティと名付けられたあの猫はルーシーとは違い、

あまり人に近寄ろうとはしない。


 とくに家族以外の人には距離を置いて、

安全な場所から観察するように見ているのである。


 そのため、常にどこにいるのかわからないことがよくあるくらいだ。


 何せこの物件は3階建ての、ちょっと広めの家。


 1階…というか地下?はガレージで、玄関から入った所が2階。


 で、3階が寝室といったところだ。


 似たような物件が密集して隣接していることもあり、

ほとんどの物件がこういう作りである。


 さすがに家から出るようなことは無いけれど、

探し出すのにオジサンも一苦労するそうだ。


 なにせオジサンはまだ独身なので、

ここには1人で暮らしている。


 父さんからも「34にもなって…早く結婚しろ」

と言われているけれど、

いい相手が見つからないだとか、

もう少し1人という自由な時間を満喫したい、

などと言って渋っているようである。


 なので部屋は散らかり易いのだが、

今日はまだよく片付いているほうだ。


 …多分僕が来ると知って、

急いで片づけたのであろう。


 詰めたばかりと思われるゴミ袋が部屋の片隅に置かれているのを見て、

僕はそう察してしまった。


 グルッと見渡すと、広めのリビングの一角には外壁と同じレンガ造りの暖炉、

そして壁には知り合いの画家に書いてもらったという絵画が一枚。


 【Swag of Aster tataricus】というタイトルが付けられた絵には、

タイトルと同じ花を挟むようにルーシーとパティが描かれている。


 その頭にも、花飾りのリングが被せられており、

実に可愛らしい印象を観る者に与えてくれる。


隆政「コーヒーがいいか? それともコーラか?」


 僕が絵を眺めている横で、オジサンが飲み物を勧めてきてくれた。


哲「あ、いや、お構い無く」


 一度ルーシーを解放してあげてから僕は答えた。


 僕から放れたルーシーはトテトテと駆けていくと、

パティが鎮座している棚の上へと上り、その隣で丸くなって寝始めた。


哲「そうか。 じゃ、俺は飲ませてもらうよ」


 と言ってオジサンは冷蔵庫の中からコーラを取り出す。


 …うわ、相変わらず冷蔵庫の中はコーラで一杯だ。


 そりゃ勿論、食材が入っていることは入っているけれど、

コーラの缶がほとんどの割合を占めている。


 正直、糖尿病が心配だ。


哲「…で、俺に何か話しがあるって?」


 一口飲んだところで、最初にオジサンが話しを切り出した。


隆政「う、うん。 ちょっとご相談がありまして…」


哲「ほう」


隆政「オジサンって、

   ウェストチャーチ・インダストリーで働く技術者…

   だったよね?」


哲「なんだ、突然?」


隆政「うん、ちょっと、ね」


哲「??」


隆政「今、どんな仕事をしているの?」


哲「今か? 今は義手や義足用の人工筋肉の開発をしているよ。 

  カーボンナノチューブを使ったやつでな、

  バッテリーによる稼働で電気信号を流し、

  筋肉を擬似化した物を作っているんだ。 

  …まぁ、まだ試作段階ではあるがな」


 と、オジサンは専門用語を羅列しつつも、

僕にわかりやすく説明してくれた。


 オジサンがこの家に住んでいるのも、

勤め先が最大手企業のウェストチャーチ・インダストリーであることが大きい。


 …そう、昼間学校で飯沢教授も言っていた、あの大企業だ。


 技術者故に、給料も他と比べると格段にいい。


 だから価格の高いこの住宅にも難なく住めるわけだ。


隆政「その人工筋肉って、どれだけすごいの?」


哲「…そうだな~………まだ実験段階ではあるが、

  通常稼動であれば平均的な大人の体重を軽々と持ち上げられるな。

  最大出力ならば車くらい屁でもない。 

  ただ、まだ試作段階だから、

  そんなことをすれば人工筋肉自体が破損するし、

  そもそも完全に小型化に成功したわけでもないから、

  連続稼働にでさえ使用限界がある。

  …ちなみに人工筋肉の起源ってのは、

  ショベルカーのように圧力シリンダーを用いた-」


隆政「あ、あ~その話しはまた今度でいいや」


 話しが長くなりそうだったので、僕は止めに入った。


 何せオジサンは喋り出すと止まらない。


哲「…ん、そうか。

  それで? 人工筋肉に興味があるのか?」


 そこでオジサンは僕が気になっていることに気づき、促してくれた。


隆政「うん」


哲「なんだ、そんなもん使って何かしたいってか?」


隆政「ま、まぁそんなとこ…かな?」


哲「歯切れが悪いなぁ…、ほら、遠慮せずに言ってみろ」


隆政「う、うん…。 

   その人工筋肉を使ってさ、

   スーパーヒーローみたいなスーツ…って、

   作れない…かな…?」


哲「………ズズ」


 僕が言ったことを整理しよとしているのか、

オジサンはコーラを一口飲んだ。


哲「…アイアンヒーローみたい、な?」


隆政「そう、そんなの」


哲「………ぶっ!」


 僕が真面目に答えているのに、オジサンは笑い出した。


哲「はははっ!! お前、それ本気で言っているのか!?

  空を飛んで世界でも救おうってか!?」


隆政「オジサン! 僕は真面目に…!」


哲「あぁ悪い悪い…!

  …けど、何でまたスーパーヒーローなんかに?」


隆政「う…うん…。 

   実はね…というかこれ、誰にも言わないでくれる?」


哲「あぁ、構わんぞ」


隆政「えっと…僕の幼馴染の女の子が、変身して悪と戦うヒーローで-」


哲「ちょっと待て」


 僕が説明しているのを、オジサンが間髪入れずに止めてきた。


哲「それってもしかして、シューティングスターのことか?」


隆政「オジサン知ってるの!?」


哲「知ってるも何も、今じゃちょいとした有名人だぞ」


 オジサンはそう言いながらタブレット端末を手に取ると、

どこかのサイトに繋いだ。


哲「ほら、これだろ?」


 見せられた画面を見ると、それはどこかのサイトのニュースで、

羅列した文章と一緒にシューティングスターの画像が掲載されていた。


隆政「そう、これ! 

   …て、そんなに有名なの?」


哲「…お前、相変わらず世間を知らないな? 

  先月くらいから出現し始めているらしくて、

  どうやら戦っている相手が頓馬(とんま)な怪盗団って話しだ。

  時々、ニュースにもなってるぞ? 

  コスプレ怪盗団にコスプレで対抗する少女…的な?」


 うわ~その響き、何か凄い引くわぁ…。


 あながち間違ってはいないけれど、

さっきの戦いを見る限り怪盗団の装備はかなり本格的だったし、

舞華の力も相当なものだった。


哲「…しかし、本当なのか? 

  シューティングスターの正体が、お前の幼馴染って?」


隆政「…うん。 その、舞華が変身するところ、僕見ちゃって…」


哲「…なに? 変身を見た?」


隆政「そうなんだ。

   僕も最初は目を疑ったんだけれど、

   ぬいぐるみみたいな生き物が見えない力か何かで、

   舞華を変身させたんだよ」


哲「つまり、魔法…か何かか?」


隆政「僕だって信じられなかったよ。

   でもこの目で確かに見たんだ」


 僕の真剣な態度にオジサンも徐々に理解してきたようで、

同じく真剣になって聞いてくれていた。


哲「…なるほど…。

  それでお前もその子と一緒に戦うヒーローになりたいと?」


隆政「そう、そうなんだ。

   …でも、僕にはそんな力なんて無いし…」


 ネイティブダンサーにやられたことを思いだす。


 力あるものにねじ伏せられるのは、

どうすることもできないけれど…でも悔しい。


 あれを超える力を手に入れるには、やはり力が必要だ。


 その解決策になると思ったのが、

オジサンが研究している人工筋肉だ。


 今から筋力トレーニングをしても、

相当な労力と時間を費やしてしまう。


 もしその間に舞華が危険な目に合ったら…。


 そう思うと気が気でならない。


 だけど人工筋肉を使えば、

厳しいトレーニングをしなくても簡単に力を得ることが出来る。


哲「…わかった、協力しよう」


隆政「ほんと!?」


哲「だが、お前の言う様に人工筋肉を使うにしても、

  俺も会社の人間だ。 

  無断で持ち出すわけにもいかない」


 …そ、そうだよね。


 どこかの超金持ちで自分でスーツを作り出せるほど、

オジサンはそこまで凄い人ではない。


 会社という組織で働いている以上、勝手なことは許されないのだ。


 さっき、ファイヤーボールさんが言ったことを思い出した。


隆政「…じゃあ、無理か…」


哲「まぁ待て、協力するとは言ったんだ」


隆政「でも、どうやって?」


哲「さっきも言ったように、

  人工筋肉の小型化は日々研究されている分野だ。

  それこそ成功と失敗の連続ってわけさ。

  …で、その失敗作や欠陥品の一部が処分されず、

  倉庫に閉まってあるんだよ」


隆政「じゃ、じゃあそれを使えば!?」


哲「不良品扱いだが、今の研究データを参考にすれば、

  多少は使い物になるだろう。

  …まぁ、持ち出すにもちょっと手を加える必要はあるがな」


隆政「だ、大丈夫なの…?」


哲「な~に、あそこの管理者とは仲がいいから、

  上手く理由を説明してやれば~…多分だ」


 やっぱり自信無さ気な言い回しに、

逆に僕の方が不安になってしまう。


哲「ひとまず、そいつには後で俺から連絡をしておくよ」


隆政「ごめんね、突然無茶なお願いをしちゃって…」


哲「いいさ、可愛いい甥っ子のためだ」


 そう言うとオジサンは、僕の頭を乱暴にかき乱してくる。


隆政「も、も~、僕もうそんな子どもじゃないよ!」


哲「いいや、いくら歳を食おうが、

  お前は可愛いい甥っ子のままさ。

  …ほら、今日はもう帰りな。

  さすがに今日中に揃えるのは無理だし、

  完成させるにも時間が必要だからな」


隆政「うん、わかった」


 オジサンが言うのも尤も。


 急ぐに越したことはないけれど、

それこそ魔法みたいに一瞬で作り出すのには無理がある。


 ここは焦る気持ちを抑えるしかない。


哲「………あーところで、 

  【スーパーヒーロー】になりたいんだよな?」


隆政「え? あ、うん、そうだけど?」


哲「…わかった」


 どこか意味深なことを聞いてきたオジサンは、

僕の返答に対して満足そうに頷いた。

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