7. 女王の決闘(2)
ブレイクタイムに入ると、アリアの目には今更ながら初めて、二人の戦士を取り囲む数多の兵士の面々がくっきり映った。その多くが興奮して周囲と語り合っていた。
3年前のアリアだったら、彼女らが自分のことを悪く言っているのかと気が気ではなかったかもしれない。しかし今の彼女は、そんなことを気にしない心の強さを持っていた。それは、自分が悪く言われることはないという、無根拠の自信ではなかった。アリアは、自分が一部から認められていないことをきちんと把握していた。それは、有象無象から悪く言われることを恐れない勇気であった。もっとも、彼女がそれを持つことができたのは、リナのおかげでもあった。
ピイィッッッ!
二人の戦士は再び向き合い、決闘は再開された。今度は、レカリアがすぐに動き出した。今や彼女の顔には笑顔はなく、ただ必死の表情があった。
一瞬の間に距離を縮めたレカリアは、即座に剣を抜いて斬りかかった。アリアも双剣を抜いてこれに対抗する。二人の剣が凄まじい速さで空中で幾度とぶつかり合う。激しい鍔迫り合いが続いた。素早く動いているのでよく見えないが、二人とも真剣そのものの表情でこの剣の舞踏を楽しんでいた。両者の剣技は完全に拮抗しているように見えた…
しかし、紺色の装束を身に纏ったアリアが、だんだんと押されていくのが観客の目には映った。
双剣は本来手数で相手を圧倒する武器であるが、同じくらいの実力であれば冷静に受け流されてしまう。むしろ、その弱点であるリーチの短さのために激しく動かなければならず、一方的に体力を消耗してしまう。両手剣に対して双剣ははっきり不利と言っても良いだろう。
アリアは本来剣技だけで圧倒してやろうと考えていたが、レカリアの予想以上の強さに驚いていた。そこでやむなく、魔力を繰り始めた。隙をついて魔法を撃つという、彼女の本来の得意戦法に切り替えた。
バシュッ
アリアが放った一発目の魔法をレカリアがかろうじて身を躱したが、魔法はレカリアの緋色のマントに風穴を開けた。
攻守が逆転した。たった一本の剣で二本の剣と魔法に対処することは事実上不可能であった。これが女王アリアの何者をも寄せ付けない強さの所以だった。
近距離では勝ち目がないと踏んだレカリアは、バックステップで距離をとった。魔法で追撃することもできたが、アリアはそれをしなかった。
しかし魔法で攻撃を仕掛けるかと思いきや、一呼吸置いた後、驚いたことに再びレカリアは大きく振りかぶってアリアに斬りかかった。それはあまりにもレカリアらしくない、愚直な一撃に見えた。こんな攻撃では、躱されてカウンターを喰らうのは必然と言っても良い。しかし…
カキィィーン!
二人の剣、両手剣と双剣が、再びけたたましい音をたてて衝突した。アリアが当然躱すだろうと予想していた観客にとって、その音は非常用ベルのごとく彼女らに衝撃と混乱を与えた。
このときアリアの身体によって、観客からレカリアの表情が隠されていたのは幸運だった。
刃と刃がぶつかりあった後の光景は、まるでスロー再生のように観客の目には映った。ゆっくりと刃が離れ、二人は一間の距離をとった。そして、決闘の相手を前にして、まずレカリアの方が刃を納めた。これが戦場であれば死は防ぎようがない。それは降参の意思表示であった。それを見たアリアも自らの双刃を鞘に納める。そして、レカリアがゆっくりと片膝をついた。観衆は、まったく予想だにしない展開に困惑して静まり返っていた。
「これ以上は無益でしょう。私の負けでございます。」
アリアを見上げ、彼女は恥じることなく、堂々と高らかに自身の敗北を宣言した。その声は静まり返った場内の隅々まで行き届いた。