4. 女王の諮問(2)
前女王が秒で出て行きました。
予想以上に早く終わった諮問に二人は驚きを隠せずにいた。しばらく黙って女が出て行ったドアを見つめていた二人だったが、リナがそっと口を開いた。
「…呼び戻します?」
「いや…」
リナはさっきまで女が座っていた椅子にどっと腰掛けた。
「では彼女の話を振り返りましょうか。」
そう言ってリナは引き出しから紙とペンを取り出し、さらさらと文字を書き連ねる。そして、書き終えると、アリアが読みやすい向きで差し出した。そこには、箇条書きで次のように書かれていた。
・騎馬民族
・魔法が使えない
アリアはそれを見て小さく頷いた。「学がない」を「魔法が使えない」という意味で捉えるのは自然なことだ。人は魔力を持って生まれてくるが、訓練を受けずにそれを魔法に変えることができる人は滅多にいない。
しかし、前女王がわざわざ「学がない」という言葉を使ったのには何か別の意味があるのではないか、アリアはそれを考えていたのだ。そんなことには気づかないリナは考えながら話を進める。
「魔法が使えないということは、こちらは魔法で一方的に攻撃できるということでしょうか。」
「…そう考えて妥当だろうな。しかしだ。」
アリアは「騎馬民族」の単語を人差し指で指す。
「平地ではあっという間に距離を詰められてしまう。彼らが我々の魔法の射程距離に入ってから我々の眼前に迫るまで、どのくらいの時間だと思う?」
リナはちょっと考えた。魔法の射程は魔力の大きさによるがおよそ100m、馬の速さはどれくらいだったか…そうだ、秒速およそ25m、とすれば…
「4秒。」
リナが答える前にアリアが言った。
「しかし、4秒もあれば十分なのでは…?」
「普通に突っ込んでくればね、しかしそれはあまりにも楽観的であろう。」
「彼らは我々の注意を一瞬でも逸らせればそれで良い。」
突然、アリアは顔を上げ、リナ越しにドアの方に向けて手を振った。リナは振り返ったが、ドアは閉じられたままで誰もいなかった。リナが怪訝な顔をして向き直ると、アリアが腕を伸ばしていて、手にしたペンの先が自分の喉元から数センチのところにあるのを見た。リナは驚いて椅子ごと後ろに倒れそうになったが、寸前で踏みとどまった。アリアはそれを見てニヤッと笑ったが、すぐに真面目な顔になって、腕を引いた。
「なるほど…」
リナも深刻な顔をして頷いた。二人はしばらく黙っていたが、やがて先に口を開いたのはアリアだった。
「彼らがこちらに向かっているとの監査隊の報告があったならば、到着まで何日かかる?」
「そのとき監査隊には赤い火花を打ち上げるよう伝えておりますので…」
「2、3日と考えて良さそうだな。」
アリアはリナの声が耳に入っていないかのように自問自答する。リナはゆっくり考えて、
「…そうですね。彼らが警戒し、食糧などを確保しながらと考えると3日くらいはかかるでしょうか。」
「無論、その短期間で準備をするというのは愚かであろう。」
「いつ合図があっても対応できるよう、今できることをしようではないか。」
「はい。」
二人は立ち上がった。
敵を知り己を知る。二人はこの言葉を当たり前のことと聞き流していた。そして前女王も、自身の意図を言の葉にしなかった。もちろん、それは現女王アリアに対する信頼があってのことだったのだが。
読んでいただきありがとうございます。
魔法という単語が出てきましたね!
そう、この世界には魔法があります!( *`ω´)
1話でチラッと出てきましたが、皆様気付きましたでしょうか。
例えば魔法があるというような、現実とは異なる世界を、私はファンタジーと呼びます。
ファンタジーを描くうえで、私が特に気を付けていることがあります。
それは、読者を置いてけぼりにしない事です。
ファンタジーの世界に住む登場人物たちは、読者が知らない常識を持っています。
例えば、魔法を使うには訓練が要ることです。
登場人物たちはいちいち説明してはくれないので、 ー 説明してくれたら助かるのに(・ω・`) ー
私が説明するしかありませんが、ただつらつらと説明するだけでは単調になってしまいます。そこで、いかに退屈させずに伝えるか、そこに作者の手腕が問われると考えております。\\\\٩( 'ω' )و ////
しかし、気をつけているつもりでも、抜けることがあるかもしれません。何かわからないことがあれば、気軽に感想等で聞いていただけると、私もどこが分かりにくいかがわかって大変助かります!
ちなみに、この作品においては、魔法に関すること以外は我々の世界の常識が通用します。
だけとは言っても、それだけでもかなり混乱を招くかも知れません。
魔法に関してまだ出てきていない常識はたくさんあります。
例えば、どんな魔法を使うのか。
また、ネタバレになりますが、この世界には特殊な魔法を使うことができる人々がいます。
彼らは何と呼ばれているのか、特殊な魔法とは何なのか、読者は当然知りませんが、この世界の、教育を受けた人であれば、当たり前のように知っています。
これらは徐々に明らかになっていくので、どうか焦らずにお待ち下さい。いっぺんに出すと混乱を招きかねませんので。
ではまた次回!