TS転生悪役令嬢侠客伝!
唐突に短編書きたい欲が高まっていてついこんなものを……!
転生も乙女ゲームも書くの初めてです!
布団の中、うとうとしながら股間を搔く。最近、金玉が痒くてな。汗疹ならまだしも、陰金とかじゃねぇと良いんだけどよ。
ぼりぼり。
……ん?……ぼりぼり…………ん?
「金玉がねぇっ!」
俺はやおら起き上がると、周囲を見渡す。自分が寝ていたはずの布団では無く、桃色の天蓋付きベッドに寝かされていたと気づく。
部屋の内装も熊の縫いぐるみやら女子供の趣味でまとめられるなか、壁際に化粧台があるのを認めると、俺は柔らかいベッドに足をとられつつ鏡に向かい走った。
そこに映る自分の姿を見て叫ぶ。
「なんじゃこりゃあ!」
鏡には、驚愕に目を溢さんばかりに見開いた金髪碧眼の小娘が映っていた。なんだこの女!マブイ!よ、洋ロリ裏ビデオかなんかか!?
「お、お嬢様が、お嬢様が目を覚まされた!」
部屋の隅に控えていた女が叫ぶ。
扉を開けて外にもう一度。
「お医者様!お嬢様が目を覚まされました!」
お、あの服装はメイドってやつだな。うちの組のシノギにもあったが、まあイメクラとかの定番だよな。スカートが長えな。本格派ってやつか。
あー、俺どこかで倒れてイメクラの空き部屋かなんかに寝かされてたのか?
なるほどなるほどと思ったが、正面を向くと鏡の中の女と目が合った。
「……絶対違ぇわ」
医者とやらのじじいが俺の前まで駆けてきて、奇跡じゃー!とか何とか叫びながら俺をベッドに押し込みやがる。
ふむ、どうやら俺は1週間ほど寝たきりだったらしい。
「お嬢様、指が何本か見えますかな?」
じじいが俺の前で人差し指と中指を立てる。
「2」
「おお、目や耳は大丈夫そうですな。お嬢様、お嬢様の名前をこのじじいにお教え頂けますかな?」
「そりゃあお前……」
西山組の若頭の……あぁ?……違えよなぁ。今の俺が俺の訳ねぇよなぁ。
俺が考え込むと、じじいや、さっきのメイド、あといつの間にかメイドのスカートにひっついてるガキがハラハラした目でこちらを見やがる。
すると頭の中にふと、降りてきた名前があり、それをそのまま口にする。
「ベルタ」
だが3人は明らかに安堵した表情を浮かべた。やれやれ、正解だったようだ。
「おお、少々混乱もあったご様子ですが、ベルナルディータお嬢様の意識もしっかりされたようでこのじじいも安心ですわい」
おいおい、中身はおっさんだっての。ひょっとしてヤブだな?このじじい。
じじいは薬を処方し、メイドに細々と指示を出し、俺にあと数日は安静にするよう伝えて退室していった。
ふーむ……。俺がどうしたものか考えていると、メイドのスカートの陰からガキがじっとこちらを見てやがる。
まだ小学生低学年位か?洒落たべべ着て、やっぱり金髪でよ。鼻水なんて垂らしませんみたいな整った顔してやがる。
そいつが声をだした。
「お姉ちゃん……怒ってない?」
「あぁ?」
ガキがさっとメイドのスカートの陰に隠れる。
断片的に記憶が思い浮かぶ。
どうもこのガキ……弟を折檻しているときにバランスを崩して倒れたらしい。折檻の理由は、……俺のドレスを汚したからか。
チッ、こんなガキを鞭で引っぱたくとは、嫌な女だな俺は。
弟の名前は……サヴェーリオか。
「おい、サべー……サヴェー……ヴ……言えねえ。おい、サブ」
「ぼくのこと?」
「おう、お前だ、サブ。いいか」
弟は緊張した顔で俺を見つめる。
「ガキが大人に迷惑をかけるのは当たり前のことだ。
お前は俺に謝ったな?」
「う、うん」
「じゃあ許す。俺もよ、もっと前に謝るサブを許さなきゃなんなかった。それを怒り続けたのは俺が悪かった。
サブよぅ、俺を許してくれるか?」
「う、うん!」
俺は拳を伸ばしてサブの前に突き出した。
「それ、お前もだ」
サブは恐る恐る拳を伸ばしたので、こちらからぶつけてやる。
「仲直りだ」
サブはぱあっと顔を輝かせると、ベッドに横たわる俺の体にひしっとしがみついてきた。
「お姉ちゃん!ぐずっ、ふぁ、うぁーーーん!」
メイドもひっそりと涙を拭う。
「てぇてぇ……」
……はっ、なんだこの気持ちは!
ふーむ、どうにもおかしな事になったもんだぜ。
体が弱ってるようで、あの後そのまますぐ寝ちまったが、目が覚めても男の体に戻ったりはしねぇ。夢って訳じゃあ無さそうだ。
何が困るって起きてそのまま小便しようと思って便所にいったら、またなんだか豪華な便所でよ。感心しながらパンツ降ろして一物出そうとしたらよ。おう、叫んじまったよ。
「竿がねえ!」
メイドのヤツも慌てて何か不手際があったのかと駆けてきたが、その不具合はお前には直せなそうだなぁ。
何でもねぇと追い返して、諦めて便座に腰を下ろしたさ。
どうにも俺はベルナルディータなる女になっちまったらしい。そしてこの世界はどうにも地球って訳じゃあなさそうだ。電気はねえし、魔法はあるしよ。メイドのヤツが指先から火を出してランプに火をつけるの見たのは感動したぜ。
なんてったって将来、ヤニ吸う時にライター探す必要は無さそうだからな。
んで、なんとなくその女の知識が流れてくるんだが、俺は11、サブが9歳。親父は伯爵とかいう仕事してんだそうだ。
問題は俺が5歳の時にお袋が流行病で死んだって事だな。2年後に後妻を迎えた。そいつが美人だがクソみてぇな女だ。
サブは後妻の連れ子でよ。だから俺とサブにゃ血が繋がって無いわけだ。
その新しいお袋は親父との間に子供を産んで、内向きの事を掌握するとよ、明らかに俺やサブを冷遇し始めたんだよな。
俺たちが住んでるのは広い屋敷の離れだが、離れにゃ普段、俺とサブとメイドの下ネタしかいねえ。ん?下ネタ?いや、そういう名前なんだよ。ヒドい名前だよなぁ。
「なぁ、下ネタよぅ」
「お嬢様、わたしの名前はシモネッタです。お嬢様、倒れられてから滑舌が悪くないですか?
やはりお医者様にもう一度見て頂いた方が……」
……違いが判らん。どのみち、ヤブのじじいに見て貰っても治らんだろこれ。俺は首を横に振る。
「サブのヤツはどうした?」
「サヴェーリオ様は本日、お庭で剣の訓練のお時間です」
へぇ。見に行くことになった。
一々、庭に出るってだけなのに下ネタは俺に洒落たべべ着せようとする。下ネタが着せようとすると言うよりは、俺の前の体の持ち主がそうさせていたというべきか。
親父や新しいお袋は、金銭的には俺たちを良く養ってくれてんだろうなぁ。だがまぁ、こちらに関心がねぇ、見ようとしてねぇ。娘が倒れて1週間になるってのに、倒れてる間1度も見に来て無いらしいし、こうして意識を取り戻しても会いに来ねぇ。
ベルナルディータって娘は孤独に、傲慢に育った。それは自分を諫める者がいねぇからだ。親父やお袋に振り向いて欲しかったからだ。
「俺と似てるんだよなぁ」
ま、俺はそれに加えて金も無かったけどな!だからまぁ、ヤクザになるしかねぇような人生だったよ。
今回は金があるけど金玉がねぇなぁ。
この女はこのまま育ってたらどうなんのかね?この世界にヤクザがいるのかはしらねぇが、まぁ、悪役になったんだろうなぁ。
「ままならねぇもんだぜ」
庭ではサブが40絡みの野郎の前で剣を振っていた。
元々兵隊とかの仕事をしていて、引退してこうやって教師みたいなことをしてんのかね。そこそこの歳には見えるが、ガタイは悪くねぇ。
「フェルタロッソ先生です」
下ネタが俺に耳打ちする。
素振りが終わると、フェ……フェル……フルタ先生とやらはサブと対峙し、剣を打ち合い始める。
数合打ち合わせては、サブの剣を弾き、軽く一撃加えてはサブを倒して、意味ありげにこちらに目線を送る。それを何度か繰り返した。
ふむ、あれか?俺がサブのことを嫌ってると思って、アピールしてやがんのか。
なるほど、なるほど……女の腐ったようなヤツだな!
俺は止めようとする下ネタを制して、前に出る。
「サブ、このフルタとかいう野郎はクソだ。解雇するぞ」
フルタが顔を赤くする。
「なっ!突然なにを!わたしはあなた方のお父様に雇われているのですぞ!」
「だからなんだ。誰が雇おうがクソはクソだ」
俺は地面に手をついてこちらを見上げるサブの前にしゃがみ込み、声をかける。
「サブよぅ。俺はお前らの剣術なんて分からねえ。だがな、喧嘩のやり方は知ってるよ。
そっから見て、お前に1つ足らねぇもんがある。それを教えもせず、お前を這いつくばらせてるこの先生はクソだ」
「なんですか!?教えて下さい、お姉ちゃん!」
サブは真剣な顔でこちらを見つめる。
「殺意だ」
「えっ……」
「殺意だ。テメェの向かいにいる野郎を、ぜってーぶち殺してやるって気概が足りねぇ」
フルタが嘲う。
「お嬢様が何を言い出すかと思えば……。サヴェーリオ様、そんな言葉に耳を傾けてはなりませんぞ」
サブの手から模造剣を取る。
「この剣は何のためのものだ?」
「人々を、お姉ちゃんを護るためのものです!」
頬がにやける。
「てぇてぇ……。じゃなくて、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの。ありがとうよ。
……だが違う。それはサブが剣を持つ目的だ。剣の目的はただひとつ、相手を殺す事よ」
サブの模造剣を右手で持ち上げ、角材のように担ぐ。
……ダメだな。昔は長モンをこうして構えてたもんだが、この体じゃヤワすぎるわ。振れる気がしねぇ。
「先生よぅ、あんた、俺を殺してみな。うちのお袋からたんまり報酬貰えるぜ。お袋にとっては俺が死んでくれた方が都合が良いからなぁ。
それに俺が先に斬りかかるんだ。正当防衛っての?ちゃんと認めて貰えるぜ」
俺は刃の面を上に左手で模造刀を握り、右手で柄じりを握って腰だめに構えた。腰を落とし、重心を前に。
鉄砲玉の構えってヤツだな、懐かしいぜ。三下の頃はよぅこの構えしとったもんだ。ちょうど模造刀がドスくらいの長さだしな。しっくりくる。
「はっ!ベルナルディータお嬢様!なんですか、大言壮語してその隙だらけの構えは!頭を打ってくれと言わんばかりじゃないですか!」
「…………」
俺はそれには応えず、呼吸を整え、タイミングを見計らう。
下ネタが緊張のあまり、手にしていたバスケットを取り落とした。ガサリというその音にフルタの意識が乱れた瞬間、
「たま!とったらぁーーーっ!」
全力で叫び突進する。鍛えられていない体がゆっくりと前へと進む。
初動が僅かに遅れたフルタ、だが訓練された動きで剣を跳ね上げ、頭部に向かって振り下ろす。当たればそこで俺は死ぬ。だがさらに一歩を強く踏み込む。前へ!振り下ろすより速く!
勿論、そんな速さでこの女の身体が動くはずも無い。
だが剣が振り下ろされる間際、刹那の時が引き伸ばされたような感覚と共に、俺の耳に声なき声が聞こえた。
(やれやれ、随分荒ぶる魂が転生してきたもんだにゃー)
全身を何か見知らぬ力が通り抜ける感覚、そして突風に乗るように俺の身体が加速し、フルタの脇腹に模造剣が叩き込まれる。膵臓の上を直撃、そのまま肋骨まで切り上げるように……!
フルタの剣が遅れて振り下ろされ、刃の根元の部分が俺の頭を打ち鮮血が飛び散るが、意に介さずさらに剣を奥に!
ゴキリと肋骨までへし折った感触がし、そこで剣を捻る。ベキリと剣の方が折れるも、折れた剣でさらにもう一度フルタの脇腹を刺す!
悲鳴と共に泡を吹き、倒れるフルタ。
俺は折れた剣を投げ捨てると、頭から血を垂らしながらサブの元へと歩み、頭を撫でて言った。
「な、相手はこっちを舐めてんだよ。だから負けた。
俺は殺す気でやった。だから勝った」
「うん……うん……!」
サブは何度も頷く。
「サブよう、お前、さっき姉ちゃんのことを護ってくれると言ったな?
じゃあ俺は……、お前が大きくなるまでお前の事を護ってやるからよ……約束だ……」
俺は拳をサブに向け、サブは泣きながら拳を俺の手に打ちつけ……、そこで俺の意識は途切れた。
下ネタが慌てて俺の方へと駆け寄って……。
……………………………………━━
「……寝たみたいね」
わたしはベッドの脇に腰掛け、娘の寝顔を覗き込む。
寝室の扉がそっと開いてそっと閉められ、男がこちらへと近づいてくる。
「何の話をしていたんだい?」
「我が家の姫様は、わたしが子供の頃の話をききたがったのよ」
ふふ、と男が笑い、わたしの身体を持ち上げて、ベッドへと横たえた。
部屋のランプの明かりを消すと、ベッド逆側、わたしと彼とで娘を挟むように身を横たえる。
「お休み、ベルタ」
「お休みなさい、サブ」
…………━━
の部分では、きっと主人公が生理を迎えて絶望する話とか、風呂上がりにタオル引っ掛けてふらふらしてる姉を見て性に芽生えるサブの話とか、学園編でヤンキー的に生徒を掌握してしまう話とか、一学年下の乙女ゲーヒロインにめっちゃビビられる話とか、王子に惚れられる話とか、久しぶりに帰ってきたらサブが逞しくなってきていてキュンとしてしまう話とか、義母を断罪する話とか、サブが母方の実家を継ぐことになってしゅんとしてたら花束持って求婚にきてつい頷いちゃう話とか、サブに甘々にされてたら絆されちゃう話があるに違いありません。
はぁはぁ。……書きませんよ。
御高覧ありがとうございました!
宜しければブクマ・評価頂ければ幸いです!
ついでによろしければ、下部バナーから、わたしの書いてる長編もよろしくお願いします!
婚約破棄とかしますよ!