5秒目は楽しみを。
夜が来ると足音という前触れとともに巨人が世界にあられる。既に星の灯りすらない夜。星ほど高くない所にある太陽とも星ともつかない光が夜道をてらしてはいるが、透明な壁越しにみえるその光はあまり好きになれなかった。
巨人はそれよりもまばゆくこの世界をてらすのを皮切りに私は水を要求する。何度も繰り返したこのやり取りで、もしかしたらこのようなことをしなくとも、この巨人は水を注いでくれるのかもしれない。
しかし、私にとっては数少ない、自分以外の存在との交流の時間なのだ。いつものように指を折ってかぞえる。
いつもよりも手早い。5つ目の指がおり終わったところで雨が降り始めた。ぬるめの水をかんじながら、指を開き再び折りはじめる。
雨はいつも通り、この小さな世界にまんべんなく降り注ぎ、地面の色を濃く変える。指をゆっくり折り、すこしのぬかるみに足をゆだねながら、彼を観察する。
その瞳は何を考えているかわからなかった。ただ、ぼーっとここをながめるようでもあるし、私だけをじっと見ているようでもある。指がおり終わると同時、蔦の音を響きわたる。
しかし彼は動く気配はない。彼が私をじっと見ているというのに不思議と私は初めて会った時の様な恐怖はなかった。
きっと彼もなにか欠落があるのが、何となく理解できた。そしてそれを仮初でも埋められるのが私なのだと根拠もなく、そう思った。