1秒目は唐突に。
透明な壁から差し込む光が少なくなり、世界が闇に覆われてから時間をおいて、巨大な生き物が透明ではない壁を軽々と折り曲げて、私の世界よりもさらに広大な世界に現れる。
ソレは私とよく似た姿だが、私の身長全てをもってしても、ソレの手のひらのような部位の全長程度の大きさにしかならない。
それほど巨大な生き物だが、ソレは危険ではない。初めて意識をもってソレを見たときは、自分に自我が生まれたことを呪ったほどだが、ソレは驚くほど無害で、この世界に現れると太陽とは違う光を世界に灯し、不思議な形の物体から雨を降らせるのだ。
透明な壁に雨が遮られるここだが、必ず闇が来るとその後この大きな生き物が雨を降らせるから、私は生きていられる。
ソレはいつものように私をじっと見つめながら雨を降らせる。私の世界の地面は湿り気を帯びて、心地よい感触になる。
初めて会った日からずっとこの生き物は私に雨を降らせていた。理由はわからない。初めて会った時から何度かは雨の勢いが強かったり、ぎゃくに弱弱しい雨だったりもしたが、今は心地いい雨を必ず、闇が来るたびに振らせていた。
それの浴びせる穏やかな雨は私がゆっくり8秒数えきるのまで降り注ぐ。
多すぎず、少なすぎないその量の水を浴びると、体につながった空洞の蔓に空気が送られて、音がでる。
その音に反応するのか、その生き物はそれが鳴りやむまでそこに留まり、ぼんやりとしている。
その姿は少しだけ私に似ているように思えた。