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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転移した先でわたしはラスボスのようです

作者: 桜 寧音

続きません。


一発ネタです。


 なんでこんなことになったんだっけ?


「さあ、あなたはこれからどうする?この魔王城から他のプレイヤーがあなたを殺しに来るのをただ待ってる?それとも自分を鍛え上げる?モンスターたちに指示を出す?選択肢は限りなく存在するよ。あなたはその幾多もの選択肢から、どれかを選ぶ権利がある。自由のなかった前の世界とは別だ!さあ、選んで御覧?自由とは得てして、責任が伴う選択をすることと同義さ!」


 そんな悪魔的なことを述べる純白の天使様。本当にコイツ、天使か?こいつの傍にいたのも天使だったか?天使の皮を被った悪魔どもじゃないのかな?


「あなたが何を選ぼうと、我々は何も責めはしない。その選択も、その結果の末路も何もかもを祝福しよう!なんていったって、その過程こそ我々を愉しませてくれればあなたの存在は価値あるものだったんだから!ほら、もう価値が産まれた。前の世界のように消費されるただの社会の歯車(ぶひん)とは異なる、あなたという意味を得た!祝福しよう、和泉アユ。あなたはこの世界で、真の意味で生を得た!」


 それは天使(あなた)たちを喜ばせる、というおもちゃ的な意味での価値で、結果的にやっぱり人間扱いされていないようなんだけど。


「ああ、そうそう。あなたのステータスというか身体能力的なものは魔王という役職(ロール)に当てられたからって増えたわけでもなく、減りもしないし成長もしない。あなたに与えられた加護は不老と魔物の指揮ができるという二つだけ。おめでとう!おばあさんになることなく一生を終えられるなんて女性の最たる望みの一つだろう?それをあなたは、この世界に送られたというだけで得られた!」


 不死じゃないし、身体能力は地球にいた時と一切変わらない。つまりはただ斬られたらそれだけで死んでしまうか弱い女のままということだ。わたし魔王(ラスボス)のはずなのに。史上最弱のラスボスだろうな、わたし。それにわたしはそんなこと望んでなかった気がする。


「あなた以外のプレイヤーは身体能力もあがるし、やりようによっては本当にこの世界を救えるような加護もある!さあ、そんな相手が九人もいて、あなたはどうやって勝ち(生き)残る⁉」


 そうなんだよな……。わたし以外にプレイヤー、つまりこの世界にわたしのように転移させられた地球の人間が確実に九人いる。その九人がわたしを殺しに来るわけだ。天使からの加護という名のチートを持って。

 不老も地球にいた頃だとチートだっただろうな。モデルとかやってたら年齢を重ねても美魔女とかもてはやされたかも。今となっては無理だけど。というかそんなに顔に自信があるわけでもないし、写真とか苦手だ。うん、現実的じゃない。

 で、あとの加護は魔物の指揮というこの世界特有のもの。どういったものかはこの後確認しなきゃなあ。というか天使が魔物の指揮とかいう加護をくれるのはだいぶイメージから外れているような?

 さて、最初の疑問に戻ろう。なんでこんなことになったのか、だ。たしか職場での勤務が終わった直後だったかな。













 わたし、和泉アユは所謂孤児だ。産まれた時には赤ちゃんポストに入れられていて、その後は孤児院に預けられて高校をどうにか卒業。その後は地元の飲食店で働いていた。

 家族がいないとか、高卒とかどうでもよくて。生きていくにはお金が必要だった。中卒で働くこともできたが、わたしが男子ならまだしも女のわたしが中卒で働けるような場所はほとんどなかった。

 だからバイトをしながら学費を貯めて高校は卒業して、ファミレスの正社員になって。ドブラックなシフトを組まれても文句を言えずに、孤児院へお金の返済をしなくてはならず。


 世の中金、カネ、かね。お金がないと何もできない。そしてお世話になって恩義を感じていた場所からも数少ないお金を搾取される始末。他の子たちのために、出身の子たちは皆お金を送ってくれるとかいうが、孤児院を出たからと一生つきまとうのか。

 孤児院の運営が大変?国や県などの自治体は何をやっているんだ。募金とか募っているのか。その募金とかもきちんと孤児院に回されているのか。

 わたしが送っているお金は本当に子どもたちのために使われているのか。わたしが高校に行くと言っただけで孤児院にはそんなお金がないと言われ、自力でお金を貯めたのに。わたしの他に高校に行った子は数年いなかったのに。


 働いても働いてもお金が貯まらず、家に帰っては疲れを癒すために風呂に入って寝る程度。休みの日もお金を浪費するわけにもいかずにただ家に引きこもって家のことや買い出しにいくだけ。

 そんな日々を繰り返していて、その日の仕事が終わってお店から去る時だった。


「こんなわたしに、生きている価値があるのかな……」


「おや、この世界に未練がない?もしや疲れた?そんなあなたに一つご提案したいことがあります。ちなみに、ゲームなどにご興味は?」


 そう言いながらわたしの前に舞い降りた一体の天使。純白の羽根を背中から生やして、浮かんでいるようにしか見えなかった、ファンタジーの中にしかいない存在。そんなものが舞い降りたなんて錯覚してしまったわたしは末期だと思っていたが。


「お金がなくて、漫画やゲームはあまり知らず……。学校に通ってた時は何となく耳にしたんですが……」


「ふむふむ。お金とは嫌な言葉ですねえ。生きていくのに必須で、かといって貧困層への救済もない。あなたの場合は産まれの時点で今の生き方が決定されてしまった。不憫ですねえ。憐れですねえ。人生、やり直したいと思いませんか?お金なんて気にしなくていいような、そんな生活に興味は?」


 甘い誘惑だった。お金について気にしなくていい生活。そんなものが送れるのであれば送ってみたかった。

 騙されている可能性ももちろんあった。このまま殺されて臓器転売されるんじゃないかとか、薬漬けにされるんじゃないかとも思ったが、今の状態ならそれもなんら変わらないじゃないかと。

 むしろ誰かのための臓器になれるなら、それで救われる人がいるのなら、死んでもいいんじゃないかなとさえ思ってしまった。

 だから、現実にはあり得ない存在へ、手を伸ばす。


「承諾しました。では参りましょうか。いやあ、ギリギリになって見つかって良かった。これで十人揃いました」


 その言葉の次にはいきなりの突風に見舞われ、目を開けたらまるでキャバクラのような場所の前に来ていた。さっきまでいた場所との差に、頭が追いつかなかった。ただの路地にいたはずなのに、いつのまに歓楽街に来たのかと。歓楽街なんて近くにあったっけと。

 そのキャバクラらしきお店の名前は「エンジェルガーデン」。完全に怪しい、絶対に入ることを勧めないような場所だった。


 天使はわたしの手を引いたままそのお店の中に入っていく。お店の中はまさにキャバクラという感じで、布面積の少ない服を着た綺麗なお姉さん方がたくさんいた。そのお姉さん方が中にいるお客さんの接待をしているようだが、その中には女性もいた。そういう趣味の人もいるのだろう。

 お店の中にはわたしの手を引いている天使の他にも数は少ないが同様に天使がいた。ここ、本当に天国だったりしないんだろうかと思ってしまった。

 わたしも席に案内されて、フカフカのソファに座らされる。周りの人の顔を見ようと思ったが、お姉さん方の顔は見えてもお客さんの姿は若干靄のようなものがかかっていてはっきりとは見えなかった。ハゲデブのおっさんや、スーツを着た若そうな人はいるというのはわかったが。


「大変お待たせいたしました!それでは準備が揃いましたので、これからのことを説明させていただきます。皆様は現実に嫌気が差して地球に拘らない十人の勇者がた!これからあなた方にはわたくしどもが管理する世界へ転移していただき、その世界を崩壊させようとしている魔王を討伐してほしいのです!」


 目立つステージの上に立った天使の一人がそう説明すると、お客さんたちは歓声を上げる。お姉さん方や天使は微笑んでるだけだ。


「え?え?聞いてないんだけど……」


「これが我々の仕事なのさ。現実が嫌な人間なら消えたって構わないだろう?どうせいくらでも使い潰している数多くの生贄だ。そんな生贄の立場から解放するのが我々の役割なのさ」


「魔王の討伐って……戦うの?」


「プレイヤー同士なら協力できるかもね。まあ、あなたには関係ない話だけど」


「どういうこと?」


「とりあえず説明を聞いてごらん?」


 天使に前を向くことを促されて、前を見る。壇上の天使は全員が説明を聞くのを待ってくれ炊いたようで、説明が勝手に進んでいるということはなかった。


「皆さまを送り出す世界は我々天使が管理を任された世界ではありますが、突如として現れた魔王によって世界のバランスが崩れてしまいました!そのバランスを整えるために皆様を抑止力として送り出します!ゲームのように魔物も存在し、魔王に勝つためにはありのままの人間の姿と能力では不便でしょう。ですから我々から精一杯の応援の意も込めて皆様には天使一同からの加護を送ろうと思います!」


「ヒャッホウ!」


「いいねえいいねえ!らしくなってきたじゃねえか!このお店の姉ちゃんたちも極め付けだったが、やっぱり始まりはこうじゃねえと!」


 何がらしいんだか。ゲームの中の登場人物のような活躍ができることを喜んでいるのだろうか。魔法少女になりたいとかそういう願望、小さい時あったっけ……。それと似たようなものだろうか。


「魔王退治ですから、選ぶ加護は慎重にお決めください。こちらからも可能なものとそうでないものがあります。詳しくはあなた方の傍にいる天使にお尋ねください。一応候補はいくつか挙げてありますが、それ以外に希望があれば可能な限り叶えましょう。ただし最初に申しておくと、不死は不可能です。我々には命をどうこうする手段はありませんので、それだけはご容赦を。では加護を二つ、お選びください」


「え?もう選ぶの?」


「そう言うと思ってあなたの分は選んでおいたよ。我々にも時間がない。いきなり連れて来られて意味も分からないだろうからね」


「そんな重要なことを勝手に?」


「気に入らないはずはないよ?なにせ過去の女性も選んだことのある加護だ」


 わたしはゲームなんてものに理解がないし、そんなゲームをモチーフにした世界に飛ばされてもよくわからなくて右往左往するだけだろう。それなら過去に女性が選んだものだということで信用していた。

 それからしばらく待った後に全員加護を選び終わったようだった。その間に配膳された食事と飲み物は陳腐な表現だが、一生かかっても食べることのできない格別の味だった。わたしの舌がバカなのかもしれないが、お店の賄いなんかよりもよっぽど美味しかった。


「はい、お疲れ様でした。皆様の加護を与えた後に転移を始めたいと思います。その前に一つ」


 壇上の天使が指パッチンをすると、お客の胸に番号の書かれたバッジのような物がいつの間にかつけられていた。わたしの番号は十番。十人って言ってたし、最後に来たわたしは最後の番号で当然か。


「皆様は顔も名前も隠した状態ですので、他の方々にもわかりやすいように番号を配布しました。皆様はこれより他の世界で生きていき、新たな人生を送られますので今の容姿と名前は必要ないでしょう。ですので向こうで名前を改めても構いません。向こうの世界では日本人の名前は珍しいですし、高額ではありますが容姿を変えるマジックアイテムもあります。ですので、何かあった際の連絡方法として番号を決めさせてもらいました。例えば、魔王を倒した者の発表などに用いられます」


 容姿とか名前が変わったら誰が転移した人なのかわからないから、その判断のための番号か。三番と八番の人が女性で、五番がハゲデブだというのは覚えた。


「それと、向こうについてからの説明をさせていただきます。あちらの世界は皆さんが思い浮かべるようなファンタジーの世界と思っていただければいいので、今皆さんが着られている服は馴染みません。ですので向こうの世界で用いられている服を三着ほどと、一週間は何もせずに暮らしていける向こうの金銭と、簡単なあちらの常識を冊子にまとめて送ります。会話と文章は全て日本語に変換済みですのでご安心ください」


 ケアが充実しすぎてるような。まあ、それくらいしないとただの日本人がいきなり異世界に行っても何もできないってことだろうけど。


「また、皆さんの転移場所についてはランダムで決めさせてもらいます。即死するような危険地帯や、魔王城の真ん前などには送らないのでご安心ください。皆さんが転移してすぐは魔王までたどり着かずに側近にやられてしまうのがオチですから」


「違いないわね」


「さて、説明はこの程度でいいでしょう。ダラダラ説明するより、実際に行ってみれば実感するでしょうから。習うより慣れろ、です。では、転移に移る前に質問などありましたら今の内に。共有しておいた方が良いことなど思い付いたら聞いてみてください」


「じゃあ一つ」


 四番の人が手を上げる。顔が隠れているので声からして割と若い男性なのだなということしかわからない。


「もしこの中の誰かが早期に魔王を倒した場合、残っているプレイヤーはどうなるんだ?魔王討伐の報酬は倒した奴だけの特権だろ?」


「ああ、なるほど。その場合は魔王の居なくなった平和な世界で暮らしていただくことになりますね。平和といえども、魔王を倒したから魔物が絶滅する、ということはありませんし、魔王がいなくなれば人同士が争うかもしれません。基本ファンタジーの世界なので、魔王がいなくなれば平和だとは思いますよ。ただ我々としては引き続き魔物の間引きなどをしていただいて世界のバランスを保っていただければありがたいのですが、そこまでは強制しません。隠居生活をされても良いですし、どこかの国の騎士団などに雇われるというのもいいかもしれません」


「魔王さえ倒せば、好きにしていいと」


「バランスを崩さない限り、ですが」


「わかった。俺からは以上だ」


 その魔王ってわたしたちを十人送らないといけない程強いんだよね。それなら皆で一緒に討伐に向かった方が良いと思うんだけど、何でバラバラに送るんだろうか。魔王討伐の特権のため?でも共闘禁止とか言われてないし。


「他に質問がある方はいらっしゃいませんか?」


 今度は手を上げるものがいない。質問は以上みたいだ。わたしも今の状況がよくわからないから質問しても意味がない。他の人たちはわかってるみたいだし。

 天使たちはにこやかに頷き合って、両手から光を放ち始めた。この光景がもうファンタジーだ。


「では転移を実行いたします。あなた方に一つの世界の命運は任されました。あなたがたの誰かが、魔王を討伐することを祈っております――」


 魔法陣のような物が足元に現れる。それが光ってどこかに飛ばされる浮遊感を味わった。

 そして目を開けた先は――それこそファンタジーの世界にいるような魔物たちが百匹ほど群がっていて、豪華な装飾が施されながらも黒や紫を基色とした暗いイメージが押し寄せる大広間だった。


「ヒィッ……ヒャアアアアアアアアアア⁉」


 絶叫してしまったわたしは悪くないだろう。危険地帯へ送らないと言った傍から、これだったのだから。
















 回想終わり。そしてそこにいた、わたしを連れてきた天使に話をしてもらい、今の状況を少しながら理解した。


「……で、わたしが魔王なの?」


「そうだとも。ほら、魔物たちを見て御覧?皆あなたに傅いているだろう?」


 角が生えた悪魔のような生き物や、首が三つある犬、ライオンなのに尻尾は蛇という普通の生き物ではないものたちがたしかにわたしに頭を垂れている気がする。たぶん、だけど。


「世界を崩壊させようとしている魔王がわたし?魔物に指示を出せるんだろうけど、わたしこの世界に来たばっかりだよ?」


「ああ。世界のバランスは崩れたからね。我々が与えた加護を持った、十人というプレイヤーのせいで。魔王軍と人間側は均衡を保っていたけど、魔王軍に一人と、人間側に九人。加護はそれだけ強大な力だ。無駄にした者も多いけどね。そら、あなたの側が圧倒的に不利じゃないか。バランスなんて欠片もないだろう?」


「なんですか、そのとんちのような話は……」


「鶏が先か卵が先かだよ。我々があなたたちプレイヤーを送り出すと決定した瞬間にバランスは崩壊した。我々が管理する世界だ。どのようにするかは我々に権利がある」


 頭が痛い。ただわたしたちプレイヤーはこの天使たちの手の中で踊らされていただけだ。

 騙されてもいいかなとは思っていたけど、本当に騙されるなんて。


「この世界には魔物を討伐して食い扶持を維持している人間が多数いる。もし魔王が倒されて魔物も倒され始めたらこの世界のバランスは一気に傾いて人間も衰退を始めるよ。この世界の維持のためにはあまり人間を殺さず、魔物の被害も抑えてあなた以外のプレイヤーの全滅。それがあなたの勝利条件だ」


「わたしが勝ったら他の人みたいに特権とやらを使えるの?」


「もちろん。何でも一つ願い事を叶えるという権利だ。あなた以外のプレイヤーは現実からの逃避という大まかな願いは叶ったし、加護という現実世界では手に入れられなかった力も得た。だからこの特権というのはあなた以外にとっては所詮おまけだ。あなたは数合わせだからね。是非頑張ってもらいたい」


 これじゃあ数合わせという名の貧乏くじだ。相手は九人いて、その九人はわたしを簡単に殺せるような力を持っていて、全力で殺しに来る。頼れそうなのは近くに控えている魔物たち。その魔物たちもどれだけ使えるのかわからない。


「ちなみにこの魔物たちはどれくらい強いんですか?」


「個体差はあっても、まあ一匹ならそこまででもないかな。四天王がいるわけでもなし、特殊な魔物は様々な宝箱を守ったり、人間たちと最前線で戦っている将軍クラスが何体か特殊なだけだよ。やりようによっては、プレイヤーにも勝てるだろうね。それの配置とかはあなた次第だ。先手必勝としてこの世界の人間を無視してプレイヤーを攻撃すればいい。最初の内は加護があっても考えと行動が一致しないものだ」


「殺されたくなかったら、先に九人を殺してしまえと……?」


「それも一つの選択肢だよ。あなたがどうしたいか、殺されるのも殺すのも自由だ。ただし自殺だけは止めさせてもらうからね」


 これが自由というものなんだろうか。自由というより二択の強制の気がするけど。

 究極の選択な気がする。というより、殺すか殺されるかしかないというのもひどい話だ。それをわたしだけに押し付けるのも。他のプレイヤーはわたしのことを知らないけど、わたしは知っている。

 心理的にもバランスが悪い気がする。


「……あ、プレイヤー側のわたしってどうなるんですか?もう死んだ扱いになる?」


「それの準備はしてある。あなたにはきちんと価値があるよ。この世界の説明について、これ以上ない広告塔になるんだ」


 天使はニコッと笑う。するとどこからかピンポンパンポーンという音が響いた。このお城から聞こえた様子はなく、頭の中に直接聞こえてきたような。


『NO.10の少女が死亡しました。選んだ加護は「不老」と「成長倍化」です。死因は魔物によるもの。これで残りは九人です』


「……こうやって、報告されるんですね?」


「ああ。これで残り人数と加護が丸わかり。他のプレイヤーは自分の加護が良かったのかを吟味して、あなたは警戒を始める他のプレイヤーから身を守らなければならない。加護は絶対じゃないという情報は貴重だ。そんな中であなたのアドバンテージは「情報」に他ならない。あなたは生きたままに暗躍できる。プレイヤーが選んだ加護は接すればなんとなくわかっていくだろう。あなたには手足となるシモベがいる。加護というインチキが勝つのか、情報を駆使する生身の少女が勝つのか。それを我々に魅せつけてくれ」


 たしかにこれはアドバンテージかもしれない。向こうは今のところ九人という個の戦力。こちらは世界中にいる魔物全てが一団となって動ける。

 殺されるために甘言に乗ったわけじゃない。他のプレイヤーたちはこういう状況になりたくて望んでやってきた人たちだ。わたしとは前提条件が違いすぎる。相手は今の状況を、死ぬかもしれない状況を愉しんでいるのだ。

 それはこのろくでもない天使(あくま)たちと変わらないじゃないか。


「わたしが失いたくない命のために、この子たちの命を使えって言うんですね?こんなの二択じゃない。命の天秤の(・・・・・)均衡が取れていない(・・・・・・・・・)


「おめでとう。あなたは最初の命題を突破した。考えて考えて、そして決断してくれ。最初に言ったかな?祝福しよう、和泉アユ。あなたはこの世界で、真の意味で生を得た!生きるということは選択をし、思考し、切り捨て、掴み上げ、そして死ぬことだ!地球では生死なんて考えても曖昧だっただろう?なにせあなたは愛を知らない。他者の存在理由を知らない。自分という定義が足りていない!ここであなたはもう一度原初に孵った。生命を知った。人と為った。であれば、その旅立ちを我々は心より祝福しよう」


 本当に慈愛の満ちた笑顔とはこういうことをいうのだろう。まともな宗教画なんて見たことなかったが、天使の浮かべる笑顔というのはこういうものなのだろうとまざまざと見せつけられた。

 嫌みったらしく拍手なんてして。だからこそ、歯向かってやる。


「特権であなたたちの存在をなかったことにするのは?」


「不可能だ。我々は我々をどうにかできない。我々の役目は世界の管理と人間の行き着く先を見届けること。我々がいなくなる時は、人間が我々と同じ立場に並んだ時だよ」


「……さっきの偽装。わたしは死んだことになってるけど、これ以上あなたたちが嘘をつかないという保証は」


「証はないが、誓ってしないとも。あなたは初めから不利なんだ。これ以上あなたを不利にしたら取り返しがつかない。我々はこのゲームの行き着く先を愉しみながら、人間の行き着く先を見守っている」


 なるほど。ようにこいつらのことは信用できないということだ。特権も信用ならない。こいつらの叶えられる願い事はたかが知れているってことだ。


「わかった。わたしはわたしのやりたいようにやる」


「ああ。我々はどちらの味方もこれ以上はしないが……ボクはキミに勝ってほしいと思っている。キミがこの世界にバランスをもたらしてくれることを祈っている」


「……あなた、名前は?」


「名前かい?……ではクンティス、とでも。誰もボクをそう呼ばないけどね」


「そう。じゃあね、クンティス。わたし、あなたのことを一生忘れない」


「その一生が、一秒でも長く続くように。それこそが我々の願いだ」


 クンティスは光の粒子になって消える。さっさと消えろ、天使の皮を被ったゲテモノめ。わたしは死にたくないし、魔物たちの被害も最小限にしないと。わたしの生きたいという願望に付き合わせるんだから。


「まずはドッペルゲンガーと分体のようなものを産み出せる魔物を見繕わないと……。人間と魔物の戦争を長引かせて、プレイヤーだけを倒す。とにかく情報だ……。少しでも情報を集めて、プレイヤーの先を行く」


 楽しんでるだけの相手に、負けるものか。わたしは生きていたい。理由もなく殺されたくもない。天使共の掌の上というのは癪に障るが、魔物と人間のバランスを保ったまま生き残ってやる。

 クンティスの言葉を信じるなら、この世界のバランスが均一にならない限りわたしの勝利にはならないんだから。




日付を確認してくださいね。



続きませんよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者さん引き出し多いなぁ! エイプリルフールでこんなネタ使っちゃうとか。 他の作品もあるようなのでじっくり読みたいと思う。 現代社会にぶっ刺さりまくる言葉をこの作品でも陰陽師でもブッ込ん…
[一言] なんというか、天使の言葉が重い…。 考えさせられるお話ですね。 エイプリル・フールネタですか?
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