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合成音声に恋をした。

作者: ?

初めは父親がきっかけだった。

自分が小学生の時で、学校から帰り家に着いた時、テレビの画面で何かの音楽の動画が流れていた。

「ただいまー」

「おかえり、学校か」

「うん、疲れたよ」

と、ありきたりな会話を交わしてから、その動画を隣で見ていた。

最初は普通の女の人の声で、小さな女の子が誰かに会いたい為に凄い未来的な機械で向かいに行く、そんな感じの動画だったと思う。

「綺麗な動画だね」

「MVっていうんだ」

「…えむ、ぶい?」

「ミュージックビデオ、音楽の動画だ」

「へー…」

その時はまだちゃんと理解出来てなかったが、とても綺麗だと感じた。

そして、次に流れ出した曲が自分にとって、初恋の曲になった。


初めはゆっくりとしたオルゴールで始まり、昔の映写機のようなカラカラカラ…とテープを巻くような音で廃れた世界かのような空虚感を漂わせていた。

所々でオルゴールの音が外れ、ノイズが入りそれでも止まらないオルゴールのの冷たい音がまたすごい好きだった。

そして機械の女性の声が聞こえた。

かすれるような声で、それでも、大切な人に伝えたい言葉のような、そんな声で


「…モウ…イチ、ド…ダ…ケ…」


…音は一瞬止まり、その後すぐに音が鳴り出した。いきなりのテンポの速さに曲が変わったのかと錯覚を受けるところだったが、耳に残っていたオルゴールの音と今耳から聞こえている音が完全に一致していた。

さらにノイズのような音がずっと音に合わせて聞こえてくるのである。

僕は何故かそれが面白くてずっとその曲を聞き続けた。

その時から僕は、『合成音声』という物に興味を持った。


小学生の頃は、ゲームばかりしていて一番記憶残っているのがWiiだった。

自分が使える初めてのネットがこれだった。

最初はゲームを触ってる時間の方が多かったが、だんだんとネットのサイトや動画を見ることの方が少しづつ多くなっていった。

それから、中学生になり携帯が持てるようになった。

友達とのコミュニケーションの幅が広がり、夜中まで携帯を使っていたためか目も悪くなり、眼鏡を付けるようになった。

初めは縁の部分がすごく違和感があり、慣れるまで時間が掛かったが、一度慣れてしまえば楽なものだった。

そうなったにもかかわらず、動画を見たりゲームをしていたりした。

するとある時、父親が昔使っていたPSPが出てきた。

中にソフトは何も入っていなかったが、SDカードは入っていて中には昔よく聞いていたVOCALOIDの音楽が入っていた。

動画付きのものもあれば画像だけのものもあり、それを最初から最後まで全て聞き終わり、いてもたってもいられず携帯を片手に、気になった曲を調べた。

それは何故か引き寄せられた曲。


『初音ミクの消失』


一番上に出てきた動画がそれだった。

昔、あのテレビの画面で父親の隣で見ていたあの動画だった。

「懐かしいなぁー…」

と独り言をつぶやきながら検索結果を下にスクロールしていくと、同じ名前のようでサムネイルが違う動画が出てきた。

今まで見てきた動画は、イラストに音楽がついているものだったが、好奇心に身を任せ再生してみた。



泣いた



画面が歪んだ。

見直さないと、という使命感にかられるように一から再生し、また涙が零れた。


まさか、あのただただテンポが早いだけの曲じゃなかった。

まさか、あの曲にこれほどまでの思いが詰め込まれているとは考えてなかった。

まさか、あの『ノイズ』のような箇所にちゃんと意味が込められていただなんて思ってなかった。


あの動画での曲は、とても心に響いた。

今までの思い込みを全部覆された。


テンポが早いのは伝えることが多くて長くなってしまうから。

伝えられるのは歌声とセリフ、それでも感謝を伝えたかったから。

あのノイズの部分は自分が壊れる、消えることが分かったから今までのありがとうとさようならを訴えたかったから。


それが、あの曲の意味なんだと、思い知らされた。

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