夫婦星
披露宴も中盤に差し掛かり、翔に対してお祝いのメッセージが届いていた。
突然香澄が翔、唯の目の前まで行き、耳元で呟いている。
そうすると、会場のスクリーンに病室が映し出された。
「翔、お嫁さん、ご結婚おめでとう!2人の結婚式出たかったなぁ。あっごめんなさい。レナです。覚えてる?大人になった翔はどんな姿をしてるんだろう、そしてどんな綺麗なお嫁さんと結婚するんだろう、想像するだけでワクワクしちゃうんだけど、そこにいれないのが残念!2人の繋いだ手が一生離れませんように」
そう言って満面の笑みで手を振るレナがいた。
翔は実の母が香澄ではなく、レナであることは20歳の時に香澄から聞いている。その時特に驚きもせずに平然としていたらしく、父親が誰だということも聞かず、ただ「別に俺のお母さんはお母さんだけだよ」と言ったそうだ。もしかしたら翔は察していたのかもしれない。元々レナが母親だったということも。そして俺が恐らく父親であることも。だが、翔はそのことは聞いてはいけないマナーなのだと判断したのだろう。
披露宴も終わり、いつも仕事終わりの日課となっていた外の喫煙所でタバコを吸って夜空を眺めた。
「もう、探したじゃないか!」
翔が駆け寄ってきた。
「なぁ翔、ちょっとだけ歩こうか」
「皆んな待たせちゃってるよー!」
「5分だけで良いからさ」
ホテルの庭に出て、2人で夜空を見た。
季節は春。オレンジ色に輝くアークトゥルスと青白い色のスピカがよく見えた。
「なぁ翔、あの二つの星見えるか?」
「うん、北斗七星と繋げれば春の大曲線だね」
「そうだな。アークトゥルスが男性、スピカが女性で夫婦星って言うんだ」
「へぇ。歩さんって本当に星が好きなんだね。そのせいで俺まで宇宙飛行士目指しちゃったんだけどさ」
2人で笑い合った。
「ねぇ、レナちゃんのどこが好きだったの?」
突然翔が変な事を聞いてきやがる。昔に戻ったように少しだけ馬鹿な話ばかりをした。
翔に後で行くと伝え、一本だけタバコを吸った。
<ねぇ、レナ、死ぬことの答えは見つかってないよ。でもね、生きることの意味は少しだけ見つかったかもしれない。レナを失ってから、誰かのために生きてみようとすることが俺にとって生きることの意味なのかもしれない。今はそう思ってる。たった1ヶ月だったけど、レナと一緒に入れた時間が本当に愛おしい。やっぱりレナ会いたいよ>
俺は夜空に向かってそう呟いた。
目の前には満点の星空が見える。その一つ一つが線になり、円になり、星座をかたどっていた。
<よく、がんばりました>
レナから言われたような気がした。