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最期のウエディング
まさか定年退職最期のウエディングが翔の結婚式になるとは夢にも思わなかった。
式の当日、久しぶりに香澄に会った。数年前、レナの父親は他界した際、葬儀で会ったぶりだった。
「歩さん、久しぶりね。お互いジジイ、ババアになったわねって言おう思ったけど、まだまだ若いわね」
「そうでもないです。実は私も今日で仕事引退なんです。何の因果か、まさか翔の結婚式披露宴が最期だなんて、レナのプレゼントでしょうかね」
「きっとそうかもしれないわね。辛いこともたくさんあったでしょう。お疲れ様でした」
「そんなことないですよ。レナのおかげでこの仕事に出会えた。感謝しかないです。香澄さんこそ本当にありがとうございました。私が言える立場ではありませんが、翔があんなに立派に育ったのも一重に香澄さんのおかげです」
「何言ってんのよ、母親なんだから当然でしょ」
香澄は軽く俺の肩を叩いた。
「香澄さん、そろそろ始まりますよ。会場に入っていてください」
翔のために最高の演出をしなければ。今までになく緊張している俺がいた。