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春の歌
純子は勝と俺に目配せする。その後、レナの棺に置かれたベースに目をやった。
「いくわよー」
よく4人でバンド演奏していたスピッツ<春の歌>だ。レナのギターから10年前とと変わらない、いやそれ以上の音が流れる。
レナの持論はギターとヴォーカルがメロディーを作る、ベースとドラムがリズムを作る。だからどれ一つとして欠けてはダメ。と言いながらも方向性の違いと言って脱退したのは純子なのだが。
勝の声もあの時のままだ。高音が会場に響き渡る。心地よい2人のメロディーがそこにいたレナの家族の涙を誘った。
すると、香澄がレナの棺に立てかけられたベースに手を伸ばした。
ニンマリした純子の笑顔に香澄も笑顔で返した。そして香澄もベースを弾き始めた。
香澄のベース音、弾き方がレナと重なる。レナが乗り移ったかのようにリズムが俺とぴったり合う。不思議な感覚だ。
「いけるねー、お姉ちゃん!」
純子のギターと勝の声、香澄いやレナのベース音と俺のドラムのリズムが最高潮に達した。