救急車
「あなた、名前は?」救急車隊員から落ち着いた口ぶりで問いかけられた。50歳ぐらいだろうか、いかにもベテランと見て取れる救急隊員だ。首吊りの現場を見て、どうしてこうも冷静なのだろう。
「大滝歩です。」俺自身どこか少し冷静になれたのだろう。AEDが功を奏し、なんとか心拍の回復が見られた。救急車の中は思ったように騒がしい。
「患者さんの名前は?」
「瀬崎レナです。」
「ありがとう。関係は?」答えづらい質問をしてきやがる。
正直に答えるべきか一瞬悩んだが、
「恋人です。」と答えた。正確には<元>なのだが。
「恋人にこんなことさせちゃダメだろ。まぁ私に、そんなこという権利もないのだが。君も君の事情があるのだろう。」俺は何も言えなかった。
「ただ少なくとも君がいなければ、この、、レナさんだっけ、間違いなく死んでた訳だから、あんたは恋人として最低限の仕事はしたんだ。ただハッキリ言うが、首吊りってのは脳に一定時間血液が回ってない。もしかしたらこのまま目覚めないことだってある。私は医者ではないから診断もできないが、覚悟はしておいた方がよい。あと少し気になってるのだが、この子の注射針の痕や、手術痕の多さはなんだ?なんか病気でもしてるのか?」
あまりにも色々な情報を言われ、少し混乱してる。