通夜
通夜の日、喪主はもちろんレナの父親だが、俺も親族の席に座るよう言われた。レナの友人や職場の同僚も多く参列し、一様に悲しい顔をしていた。ただ俺はどこか心に穴が空いたように、置物のように座っていた。
香澄は気丈にも参列者に対して一人一人丁寧に御礼を伝えていた。翔はぽつんと1人立ち尽くしていた。香澄の邪魔になってはいけないと、
「翔、こっちへおいで」と声をかけると、ゆっくりと俺の方にやってきた。
「ねぇ、歩さん、こういう時のマナーってどうしたら良いの?」
少しだけ2人の中で沈黙が流れた。
「泣いたら良いんだよ」
堰を切ったように翔は大泣きした。
レナの遺影に向かって、「レナちゃん、ありがとう」と小声で伝えていた。
その姿がより一層参列者の涙を誘っていた
通夜も終わり、翔を外に連れ出し、2人で夜空を見上げた。
「翔、俺な、最後にレナちゃんと流れ星観たんだよ」
「へぇ、良いな。誘ってくれればよかったのに。僕観た事ないよ」
「じぁ今度見せてあげるよ」
俺はその後、翔に色々な星の名前と由来を伝えた。
「翔、あそこに北極星って星がある。あの星は動かないからよく目印になるんだ。昔の人はね、まず道に迷ったら北極星を探して自分の位置を確かめたんだってさ」
「うん、あの星が一番見つけやすいかも」
「何かに迷う時は北極星を見てごらん。きっと答えを教えてくれるはずだから。俺はいつもそうしてる」
「テストで迷っても北極星を見て、答えは出ないよね?」
「確かにそうだね」
少しだけ2人で笑い合った。
すると、大型のトラックがやってきた。何人か乗っていたが、明らかに出で立ちのおかしい人間がいた。赤いスーツ、金髪ロングの髪型、唇にはおそらく黒い口紅をつけていた。
「歩、心の準備は良いかい?」
その声は純子だった。