バンド
レナとの別れが近いことは翔も分かっているようだった。レナの父親、香澄、俺で代わる代わる付き添っていたが、翔も長い時間レナのベッドの側にいるようになった。レナも多少意識がある時はただ翔の頭を撫でる程度だが、翔の問いかけにも反応はしていた。
転院して3日目。純子に「もう長くないかもしれない」ということを告げるとその日のうちに見舞いに来た。
「来るに決まってるじゃないの、当たり前でしょ」
とりあえず声がでかい。病院だぞと少しばかり注意をした。もともとヒソヒソ話すらできないタイプの女だ。
「レナが何か言いたそうなんだけど」
純子がレナの口元に耳を寄せると、純子にしか聞き取れないような話し方で、何かを伝えた。
純子の目から一気に涙が溢れ出した。
「ねぇ、歩、またバンドがしたいって」
「いや、ダメだろ、お前ジャンル変わっちゃったじゃん」
「何言ってんのよ、いつでもどんな系統でも私はフィットできるわよ。舐めんじゃないわよ」
やはり声がでかい。
学生時代、俺がドラム、レナはベース、純子はギターだった。もう1人、勝というヴォーカルがいたが卒業以来連絡を取っていない。不思議は奴でヴォーカルとしての才能は一級品だったが、どこにも属さず、俺たちのライブのたびヴォーカルを引き受けてくれた。
「勝、呼べるのか?純子」
「多分大丈夫よ、一応私連絡取り合ってるから」
別に何の興味もなかったが、純子はやはり凄いやつだと思った。