パパ
レナは続けた。
「だから私子供産むことにしたの。でもね、育てる勇気がなかった。お母さんのことがあったから、またこの子を不幸にしてしまうんじゃないかって。産む時もお姉ちゃんが側にいてくれた。お姉ちゃんはね、そんなに自信がないんだったら私が育てるって言ってくれたの。元々お姉ちゃん、子供が産めない体だったっていうのもあって。私甘えちゃった」
レナの額が俺の首元に力なく当てられた。
レナの心の弱さを俺は知らなかったんだ。なぜあの時支えてあげれなかったんだろう。自分の事だけしか考えていなかったんだ。10年前のあの夜どうしてもう一度ノックしなかったんだろう。今考えても、すべてが仮定の話であって、後悔しか俺には浮かばなかった。
「翔は知ってるの?」
なんで俺はそんな質問をしたんだろう。でもレナは答えてくれた。
「翔は知らないわ。お姉ちゃんと約束したの。少なくとも翔が成人するまで私が母親だとは伝えないと。これは私が一方的にした約束。いつかは分かっちゃうことだろうけど。お陰様で私とお姉ちゃん似てるから、みんな翔はお姉ちゃん似で通るからね」
「じぁ、レナ、大きくなるまで頑張らなきゃ。自分の言葉で、ごめんなさい、お母さんは私って言わなきゃ」
「馬鹿言わないで。なんでこんな話を今してるのか、考えてよ。歩、お願い、翔のことお願い。私が生きた証だから、絶対にあなたを必要とする時が来るはずだから、お願い、見守ってあげて。この前、お姉ちゃんと話したの。今日、歩に翔のこと話すって。歩はきっと翔のこと守ってくれるって」
「当たり前じゃないか。俺たちの子供なんだから」
少し強く声を出してしまった。守るものが一つ増えたからだ。
「そう言ってくれると思った。お姉ちゃんの旦那さんになってくれる?」
突然ドキッとすることを言う。
「それは無理だよ。生涯の伴侶はレナしかいません!」
「一生のお願いでも?」
「ダメだよ!だって好きな人じゃなきゃ結婚しちゃダメなんだから」
「確かにそれはそうね」
少し笑いながらレナは言った。
「レナ、俺も父親だとは名乗らないよ」
「そう、そこはパパに任せるわ」
「はは、パパか」
お互い夜空を見上げながら、すこしニンマリしていた。
星が降る。しぶんぎ座流星群は俺たちを包んでくれていた。