後悔
レナの実家に着いた。レナの父親が傘をさして玄関先で待っていた。
「歩くん、ありがとう。2人ともよく来たね。遠かっただろう?」
「いえ、思ったほど遠くなかったです。あっという間に着いた感じで」
家の中では香澄と翔が食事をしていた。
「レナちゃん、歩さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
翔は食事中ということもあり、口元をモゴモゴさせながら挨拶をした。
「ありがとう。今年もよろしくお願いします」翔もレナもニコニコしながら新年の挨拶を始めていた。
雪国の冬は寒い。レナが体調を崩さないか不安だったが、顔色も良く、今のところは問題がなさそうだ。堤から指示を受けた薬と体温を計った。また何か食べたい物はあるかと問うと、今は気持ちでいっぱいだから、要らないとのことだった。
約4時間のドライブだったし、さきほどの墓参りもあったので、
「少し休むか?疲れただろ?」
「うん、ちょっと横になりたい」そうすると父親から
「レナの部屋はそのままだし、ベッド周りも掃除しておいたからそこで寝ると良い」
レナの部屋は綺麗好きなところもあるが、ベッドと机はあるものの、殺風景な部屋だった。
「机の上には物を置かない主義だから」少し笑ったように俺に向かって言った。
「机の中見たら怒る?」
「ダメに決まってるじゃない」
「冗談だよ」
「たっぷり休んで充電するね。翔と遊んであげて」
「うん、そうするよ」
レナの部屋を出ると、父親がいた。
「歩くん、ちょっといいかな?」
通されたのはレナの母親の遺影が置いてある仏壇に通された。
「お線香あげさせていただいても良いですか?」
「もちろん、どうだ綺麗だろ?」
「そうですね。レナに良く似てる」
いや違いますよ、とは言えない雰囲気だったが、美人であるには間違いなかった。
「我々もね、同じ大学だったんだ。レナの母親はそれはもうモテてたよ。こんなブ男の私がその争奪戦に勝ち残ったのは今でも同級生の間では奇跡と称されているんだよ」
「勝因は何だったんですか?」俺が聞いて良い話かどうか悩んだが、笑いながら父親は答えた。
「諦めなかったことかな。付き合うまでに3回フラれたよ。あとはストレートに好きだって伝えたこと。ただそれだけ。私からすると、どこが良くて結婚してくれたか謎でしかないのだが」
「お父さん、一途だったんですね」
「あぁ、もちろん。今でも好きだからね。歩くんと一緒だな」
「奇遇ですね」
2人で目を合わせて笑った。
「でも歩くん、私は夫としても父親としても最低な人間だよ。愛する人を守れなかった。こいつを私は守れなかった。レナの様子に気づいていれば妻を失わずに済んだんだ。レナが引きこもった時、レナを見るんじゃなくて学校を憎んだんだ。学校にばかり気を取られて、レナそのものを見ていなかった。もっとあの時レナのことを考えていればこうはならなかった」
どれだけ長い時間をかけても、彼の後悔は消えることはないのだろう。それはレナの母もレナの事も深く愛しているからだろう。
「俺が死んだ時、レナの事、なんて言い訳しようかな」
「両手付いてごめんってストレートに伝えましょうか。俺も一緒にお付き合いしますから」
「君みたいな息子がいたら、少しはこの家庭も変わったのかな」
俺に対する最大限の褒め言葉だと感じた。
「歩くん、もう一度お願いしたい事がある」
レナの父親は両手を付いてこう言った。
「残された時間は少ないかもしれないが、もう一度幸せにしてやってくれ」
俺は頷くほかなかった。