母へ
もうすぐレナの家に着く。カーナビとは素晴らしいもので来たことのない場所もあとどれくらいで着くか教えてくれる。
「ちょっと寄りたいところがあるの。もう少し真っ直ぐ行ったところにお寺があるからそこで止めてもらえる?」
「うん、わかった。どこに行くの?」
「お墓参り!お母さんのね」
俺はドキッとした気持ちと、一瞬どう振る舞っていいか戸惑ってしまった。
「歩は隣にいるだけで良いから」
駐車場とも言えないような草の長い路駐スペースに車を停めた。
車椅子にレナを乗せ、寒さをなるべく感じさせないように厚手のブランケットをかけた。
そしてレナの指をさす方に車椅子を進めた。
「歩、ここで大丈夫」
レナは瀬崎家の墓石に向かって合掌をした。
5分ぐらいだろうか、肩を震わせレナは涙を流している。俺はその肩をただ抱きしめてあげることしか出来なかった。
「お母さんの御墓参り、初めて来た。私のせいで死んじゃってどうしてもここに来れなかった。なんであんな事になっちゃったのか、ほんとに後悔してる。今ね、お母さんごめんねって、100回唱えたの。許される事ではないけど。ずっと謝ってた」
「レナのお母さんってどんな人だったの?」
「いつも自分の事より人の事を大切する人だった。誰かの辛さ、苦しさを代わりに引き受けてしまう人だったのかもしれない。自分を犠牲にしても誰かを守れる人だった。だからあの時もきっと私の事を守ってくれたんだと思う。自分勝手な解釈だけどね」
<レナもお母さんに似てるよ>と伝えようと思ったがやめた。軽々しく俺が言える事ではないと思ったからだ。
「あっちの世界で直接謝るしかないわね」レナの不意の言葉に俺はこう答えるしかなかった。
「だいぶ先の話だけどね」
少しだけ雪が降ってる。今夜だけは晴れてほしいと願った。