病室
「とにかく歩、自分の中で区切りがついたら、また顔出せよ。次はもう少し居てやれよ。できの悪い子供ほど可愛いみたいだからさ。もし金が必要だったら遠慮なく言えよ。お前の言った金額の3倍は出してやるから」
そう言って幹人は見送ってくれた。やはり幹人はどんな時でも味方をしてくれる。
病室に着くとレナは寝ていたが、香澄と翔が来ていた。
「最近寝てる時間が増えたわね。猫並みだよね」香澄は中々茶目っ気が強い女性だと感じ始めた。
「お母さん、病人なんだから寝ないと治らないでしょ。たくさん寝れてるんだから良い事じゃないか」翔は冷静に香澄に言葉を返した。
「実は2人にお願いがあります。レナをもう一度生まれ育った長野に連れて行けませんかね。どうしても観たい景色があるみたいで」正確に言うと、俺に観せたい景色なのだが。
「それはね、レナの願いであれば叶えてあげたいけど。お医者さんの判断よね」
香澄は妙にいつも冷静だ。彼女は普段どんな仕事をして、どんな旦那がいるのだろうか、不思議とレナとは違った魅力を持つ女性だと感じ始めた。
「もうすぐお正月だからね。長野でも雪深いほうだからね。野沢温泉って知ってる?そこが私たちの生まれなの。今はスキーシーズンだからね。だいぶ賑やかよ。お正月連れて帰っちゃおうかしらね。とにかく先生に相談してみましょう」