家族③
父親が背後で仁王立ちをしている。こんな姿は何年ぶりだろうか。怒るのも無理はないかとと感じながらも、俺は言葉を返した。
「元々辞めるつもりなんだから、出世どうこうもないさ。世の中に仕事なんて人の数ほどあるんだし、社会の中で見れば歯車の1つでしかない。仕事は人生の中の一部であって、人生イコール仕事ではないだろ。何も仕事しないって言ってるわけじゃないんだから。とにかく今は俺を必要としてくれてる人のところにいさせて欲しい」
「そうか。義理と筋は通せよ」何回聞いただろうか、この父の口癖。いつものように返す。
「うん、わかった」そして心の中で<ヤクザじゃないだから>と思った。
家を出ると、兄の幹人がいた。
「送っていこうか?急いでんだろ」
「うん、助かるよ」
世間で言われるしっかり者の長男を絵に描いたようなのが俺の兄幹人だ。
レナの待つ病院まで車で約1時間くらい。兄も先ほどの父親とのやり取りが気になったらしい。
「オヤジもまだ若いなぁ。もう30半ばになる俺たちに文句ばっかだもんな」いつもながらの幹人の俺へのフォローだ。
「この前さ、結構面白いことオヤジが言ってたよ。幹人、なんで親が子供のする事に何でもかんでも反対するか知ってるか?って。何だと思う?」
「えっ、なんだろうなぁ。うちのオヤジに置き換えると、気に食わないからじゃないからかな」笑いながら幹人は返す。
「覚悟を見てるんだってさ」
俺は少しハニカミながら
「じぁ、まさにさっきはその覚悟とやらを見られていたのかな」
「そうだな、きっと。オヤジがボソッと、その女見てみたいって言ってたから、たぶん近いうちに来ちゃうだろうな」
本当にあのオヤジなら来かねないと俺も思った。