クリスマス①
クリスマスがやってきた。世間一般的な恋人同士ならば、お洒落なレストランで食事をし、プロポーズして結婚を決めたりするのだろう。
レナは意識を取り戻してから数日。数人の友人、同僚が見舞いに来ている。どの人間もレナと会っている時は楽しそうに談笑しているが、一歩病室を出ると最後の別れを察しているのか深い悲しみを感じているように見えた。
12月25日純子がやってきた。子どもを二人に連れて。このタイミングで騒がしくされることに嫌悪感を覚えた。
「レナ久しぶり!ねぇ元気だった?あー、元気じゃないか。それだったら入院しないもんね。でもまさかまだ歩と付き合ってるなんて知らなかった」まったくもって空気の読めない女だ。ただこの女の凄いところは自分でもその事を自覚していることだ。開き直ってる人間ほど怖いものはない。
「何年ぶりかしらね〜3年ぶり?ほんとに久しぶり。だいぶおばちゃん体型になっちゃったわよ。ほら、子供できるとね、食事の残り物をもったいないから食べちゃうのよ」本当によく喋る。レナもニコニコしながら話を聞いている。15年前と変わらない風景だ。
「レナに私の子供見せたかったの!彩音と奏太!まだ3歳と1歳なの。だからめっちゃ子育て大変。レナも子育て覚悟しといたほうが良いわよ。まぁ歩といるのも子育てみたいなもんか。なかなか大きい赤ちゃんで可愛いもんね。まだまだ成長の余地ありそうだし。」大きなお世話だと口を挟みたかったが辞めた。
2時間くらいだろうか、さすがのレナも疲れたようで、少し眠りに入った。
「じぁレナそろそろ行くね」と寂しそうに純子は伝えた。
「レナ、本当に久しぶりで会えて嬉しかった。子供が生まれたから、会いたいって電話したときやんわり断られたの、覚えてる?あの時レナは育児で大変な私を気遣ってくれたんだと思ってたけど、こんな病気してると思ってもみなかった。レナ、お願い、私にはなんでも言って。私にとってレナは友達以上恋人未満なんだから」純子はそう言い、ベッドに寝ているレナを抱きしめた。軽くレナは頷いているように見えた。
純子と子供達は病室を後にし、俺は病院の玄関まで見送ることにした。
我慢していたのだろう、純子は会話にならないほど泣いている。
「あとどれくらいレナは生きれるの?」
「この前の医者との話だともって2ヶ月ぐらいだと言われたよ」
「そう。歩、辛いわね。大丈夫?」
「俺は大丈夫だよ。まだまだレナには生きてもらわないとな」強がりを言ってみた。
「じぁね、歩。空気読んだくらいのタイミングでまた来るわね」
「おう、そんだね。今年はもう来なくていいぞ」
「承知しましたー」すこし笑ったように純子は答えた。