ごめんなさい。
レナが目覚めてから3日が経った。幸いにも軽い麻痺が左半身に残ったのみで、意識もはっきりしている。少しずつだが、会話もできるようになってきた。ただ癌の進行が止まっているわけではない。肺や胃にも転移しており、こちらに関してはまさに手の施しようがないというのが医師の見解だ。
「歩、本当にごめんなさい。会いたいと思って呼び出しといて、あんな姿見せちゃって。しかもこんな弱った姿見せたくないと思って結局見せることになっちゃった。」レナは落胆というよりは、自分の命が助かったことにどことなく安堵しているように見えた。
「あのさ、10年ぶりに会う元カノの自殺する姿を見るって結構堪えるから、もうするなよ。遺書まで読まされてんだから。」少し意地悪くレナに伝えた。
「ごめんなさい。もうしません。」少しだけ笑みを浮かべ返答した。俺は続けた。
「香澄さんに大体のことは聞いたよ。レナのお母さんのこと。気づいてやらなくてごめん。レナが目覚めたらまず謝らなきゃと思って」
<もういいよ>という意味だろうか、握力を失った右手で今の精一杯の力で俺の手を握ってくれた。
「お互いごめんなさい、はもうやめよう。これからはずっと一緒にいよう。」
<ずっと>という表現が適切なものなのか、あとどれくらい一緒にいれるんだろう。1ヶ月、3ヶ月、半年、1年なのか、それとも明日なのか。長くないレナの命を1日でも長く、そして共に過ごせる時間を1分1秒その瞬間を大切にしようと心に誓った。