父との対面
朝がきた。目を覚ましてくれと心から願う反面、レナはそれを望んでいるのだろうかという疑問も同時に持った。
レナは少なくとも生きたいと思っているのか。自分で命を終わらせようとしての行為なのだから、その意思は無いはずだ。でも俺に会いたかったんだから、そして俺も話さなきゃいけないことがある。あの時、なぜもっとレナの側にいてやれなかったんだと。そして今でも自分の気持ちに変わりがないことを伝えなきゃいけない。
病室から勤めている支店に向かおうとして時に初老の男性が現れた。
「歩くん、久しぶりだね。レナの件、本当に申し訳なかったね。香澄から色々聞いたよ。だいぶおとなになったもんだ。立派なサラリーマンに見える」
レナの父親だった。一度だけ会ったことがある。レナの大学卒業式で上京した際に一緒に食事して以来だ。
「これから会社だよな。すまんすまん、早く行きなさい。」
はい、失礼します、と簡単な会話をしてその場を後にした。
あの日食事の際、レナが席を立った時、レナの父親に言われたことがある。
「君にレナの全てを預けてよいかね。さっきから君たち2人のやりとりを見ていて、今まで見たことがないレナがいてね。凄く幸せそうだった。あんな顔が出来るんだと、正直驚いてる。東京の大学に通わせるのは本当に不安だったが、あの顔を見て安心したよ。少し気が早いのはわかってるが、あの子を幸せにしてやってくれないか。すまない。こんなこと父親が言うもんではないな。ただ本当にこれからもレナのことを宜しくお願いします。」とテーブルに額が付くのではないかと思うほど頭を下げてくれた。その思いに応えられなかった自分が情けなく、また申し訳ない気持ちでいっぱいだった。