遺書
レナと2人きりになった。今にも消えそうな命を前にただこぼれ落ちる涙が止まらなかった。10年前別れた日、どうしてレナを探さなかったのか、無理矢理にでも子供を産んでもらったほうがアイツと一緒にいれたんじゃないか、今となっては後悔でしかない。
遺書らしきものを開けてみた。
<歩へ
びっくりしたでしょう。突然呼び出してごめんなさい。そしてこれから面倒なことに巻き込んじゃう事もごめんなさい。
どうしても会いたくてメールを送ってしまったの。きっとお父さんかお姉ちゃんから聞いてると思うけど、私病気で余命が残されてなかったから、どうしても一目歩に会いたかった。昨日まで一目会って、そうすれば天国、いえ悪い事してるから地獄かしら、どっちにしてもあの世に行きたかったの。病気辛くて辛くて、何度連絡しようと思ったか。怖かった、凄く怖かった。死神が大鎌を持って、いつも側に居て、いつでも殺せるのに何もしなかった。あなたに会えば少しでも軽くなるんじゃないかと思った。でもきっとあなたにも私が存在しない生活があって、私が邪魔しちゃいけないんだって。10年前あなたを諦めた時、こころに決めていたから。
でもね、私弱かった。連絡しちゃった。会いたくて、会いたくて。やっぱり歩は来てくれるって返してくれた。
会って何を話そう、この10年間のこと、歩の10年間も聞きたい。色々考えた。
私に残された時間も少なくて、どんどん醜くなっていくのが鏡を見ればすぐわかる。死にたくないけど、こんなに醜い自分を歩に見せちゃいけない。せめて歩の前で死なせてほしい。きっと歩の心に傷を大きくつけてしまうこと、本当にごめんなさい。
ねぇ、歩、ごめんなさいって凄く難しいね。「ありがとう」の気持ちを伝えるのと「ごめんなさい」の気持ちを伝えるの、どっちが難しいと思う?って歩に聞かれた事がある。忘れてるでしょ?
やっぱり「ごめんなさい」のほうが100倍難しいわね。「ありがとう」は気持ちを込めて言えば、相手は笑顔になる。でも「ごめんなさい」は違うわ。歩の言う通り自己満足でしかないの、きっと。「ごめんなさい」は笑顔にできない。「ごめんなさい」って言いたい人の自己満足でしかないの。相手に「ごめんなさい」をどんなに込めて伝えても、許してもらえなかったら意味はないの。しかも伝えた本人だけ謝ったっていう事実だけに満足してしまうの。もしかしたら私もそうなのかもしれない。死ぬ前にあなたに伝えたかったの。ごめんなさい、を。
一応この手紙は遺書だからね。大切に持っててとは言わないわよ。
最後に変なところ見せちゃってごめんなさい。最後のワガママだと思って許してください。そしてやっぱり歩、私のこと忘れないで。少なくともこの世に生きていて良かったと心の底から言えるのはあなたと出会えたことです。ありがとう。>
病気のせいで握力が落ちたのだろう、薄い筆圧で、涙だろうか所々水滴が乾いた後があった。一生忘れないよ、その手紙に同じような涙の水滴をこぼす俺がいた。