手紙
もう一度呼鈴を押そうと思ったとき、ドアに手紙が挟んであったことに気づいた。もちろん俺宛の手紙だった。
「やっぱり歩、来ちゃったね。しかも雨。風邪引いちゃだめだよ。
歩、突然ごめんなさい。私は歩のことが好きです。子供が出来た時すごく悩んだ。歩とだったら凄く幸せな生活が待っているってわかるから。
歩のおかげで今まで嫌いだったことがそうじゃなくなったことがたくさんある。
たとえば<雨>。歩、きっと忘れてるだろうけど、私が雨が嫌いって言った時、あなたは雨の後の夜空は綺麗に星が出るよって。それを考えれば雨も好きになれるよ。って教えてくれた。だから雨の後の夜空はいつも見るようにしてる。あなたを強く思えるから。今日も雨ね。きっと私はあなたを想うのでしょう。
私、歩が1番嫌いなことしちゃった。嘘ついちゃった。別れたかった理由は夢があるとか、やりたいことがあるとか言ってたけど、実は違うの。私にはそんなものないの。あなたと一緒になることが夢よ。でもそんな資格ない。私には幸せになる資格ないの。
実は私、実の母親を殺したの。だからね、私は幸せになっちゃダメ。
歩、最後のお願い。わたしとの思い出全て忘れて。お願いだからね。
さよなら。今まで5年間本当に幸せでした。ありがとうって言葉じゃ足りないくらい感謝してます。そしてごめんなさい。」
その場で俺は立ちすくんでしまった。呆然として、頭の中がからっぽになった。携帯電話の時刻を見た。2時だった。
雨はいつのまにか止み、南東の空に冬の大三角形が綺麗に見えた。その中の1つ、シリウスは太陽を除けば1番光り輝く星らしい。無駄に光ってやがる。初めて星を憎らしいと思った日はなかった。