別れ
その日は寝付けなかった。レナはどうして俺に。最後に何を伝えたかったんだろう。
別れた日も寒い冬の日だった。
別れる1ヶ月前、レナは妊娠した。日頃気をつけていたつもりだが、よくある魔が差した瞬間だったんだろう。俺は妊娠が分かったその時プロポーズした。それは結果として順序が逆だっただけで、結果として同じなんだとレナに思って欲しかったからだ。そして何よりレナと一緒であればきっと育てていけるだろうと思った。
だがレナはそれを断った。その時レナの真意は分からなかった。いや分かろうとしなかったのかもしれない。
レナはお腹の子供を堕ろそうと言った。今はお互いその時期ではないし、レナ自身の夢を叶えたいという思いがあったのだろうか。
「あなたはあなたの夢を探して。私、どうしてもやりたい事があって、それを叶えるまで子供は持ちたくないし、今は結婚という選択は選べないの。」
「やりたいことって何?ウエディングプランナーだったら、両立できるんじゃないの?」
「それとは違うこと。今は言えない。」
俺は無理に聞こうとしなかった。聞く気にもなれなかった。
レナが中絶手術をする日、俺は立ち会うつもりだったが、レナはそれを断った。自分のわがままだから、俺を立ち会わせたくなかったのだろう。
そしてレナは突然俺と会うことを拒んだ。というよりもそれ以上に俺という存在をレナは消したかったのかもしれない。
10年前の12月アイツから一本のメールが届いた。そのメールもほぼ1ヶ月ぶりに近かった。
「歩、いままでありがとう。幸せでした。あなたは新しい人を見つけて幸せになって。」
そのメールを見てすぐ、登戸のアパートへ俺は走った。