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覚醒の時は来たれり

俺と、アイの目の前でファンが踏みつぶされた

まるでスローモーションのように見えた


ズウウウン


パラパラと巻き上げられた小石が落ちる

まるで時が止まったような一瞬の静寂に彼女は


キレたーと言うのか相応しい


「う、ああわあああああああああ!!」


怒りと哀しみ


初めての感情に振り回されるアイ


「ファン!!」


俺は駆け出し、ドラゴンの足を切りつけるが


ギィン!!


硬い!斬れねえぞ!

まるで鉄か何かを斬ろうとして

手が反動でビリビリしている


「ああああああ…」


「アイ?」


「感情理解…完了。喜怒哀楽を全て手に入れました」


冷静になる為につぶやくアイ

喜はご主人様が目覚めた時に


楽は初めての街で


今、マイナスの怒哀二つを感じた


「ゆる、しません。何もかも、何もかもです!」


例えば、ファンが死のうとしていたこと


例えば、今ファンが踏み潰されていたこと


例えば…


例えば。


「武装解除、リミッターブレイク」


アイの小さな体が白く輝く

今回はご主人様の経験値とか、そんな気分ではない

自分が倒すー、そう決めた


まずは、足です


ドゴンッ


それは、昨日見たあの人の武技ー


コレくらいならアイならば簡単に再現可能だ


ドラゴンがぐらりと揺れて、たたらを踏む


ファンの残骸がそこにあった


「水よ、命の源たる大いなる力を我が身に」


かつて見たあの(ひと)の魔法を使う


「水よ、その色無き色で我を守り敵を穿ち給え」


ちゃぽん…

ざああ


力が倍増した

不完全な水上姫奈の魔法ではない


あの昔、彼女が使い医療プラントを守るのに使用していた魔法だ


ああ、そう言えばこの事はご主人様は知りませんね



生み出された水はドラゴンの巨体に、「錐」となって突き刺さる


収納キューブから、剣をひと振り取りだす


その昔、勇者である彼が突き刺し置いていった剣は確かドラゴンに特攻があると言っていた


ドラゴンキラーの剣だ


「うわあああ!」


叫びながらアイはまずはその足を





真っ二つに切り裂く





4つの足が同時に斬られたドラゴンは咆哮をあげるが、水が煩いソレを抑え込む


だめだ、力が足りない、体がもう少しでも大きければ


アイは小学生高学年といった程度の体躯しか持たない


だけれど全ての感情を知った今ならばちがう


自ら掛けた人間の感情を理解するまでかけられたリミッターが存在しない


戦うさなかに身長は伸びて、体は出来上がる


今は健司より、やや年下と言った程度には見られるだろう


その力を持ち、アイはドラゴンを睨みつけた

だけれど、叫ぶ相手は違う


「ファン!あんた勝手に死んでんじゃないですよ!許さないんですから!」


そう言い放ち、ドラゴンの頭目掛けて


「風よ、世界に吹く力よ、ただ今だけは力に代えて」


剣の代わりに槍を取りだす


その光景に爺が驚愕する


「あれはまさか!そんなことがありえるのか!?秘伝であるぞ!」


アイは、知っていた

彼女と共に常にあった彼女の技だから


柳一花(やなぎいちか)


異世界帰りのもう1人の技だから



「ウィンド・ゲイボルグ」


槍に風の力が込められる


「穿て」


めいっぱいの力を込めて


全身の力を一点に集めて


投擲する


アイはAIだ


その小さな頭脳にはこの何千年かの知識が詰まっている

しかし知っている事と使いこなせると言うのは違う事だ


だから、コレは彼女の超劣化版


ギュン


ボグッ


多少篭った音が鳴るが、その効果は発揮されている


ドラゴンの眉間を貫いた槍はそのまま脳を掻き回し


「ドラゴンを…倒した…」


水上姫奈はその光景を信じられないとばかりに見ていた

アースドラゴンとは下級の竜種でありながら、到底人の適う相手ではないと知っていたから


まだだ、アイは知っている


相手はドラゴンだ


未だ生命活動は現在で、切断された四肢は再生しつつある


瞳から吹き出た血は止まり、再生していることを伺わせる


「アイ!だ、大大丈夫か!?」


「ええ、ですが決定打がありません。ここは一つご主人様のあのカタストロフならー」


そう言いかけてある人物が目に入る


「アイ殿!」


「爺さん!あぶねえぞ!」


俺は思わず叫ぶがー


アイの瞳がキラリと輝く

人物照合完了

魂のパターン合致確認ー


「そうでしたか、あなたでしたか。全く、性別まで変えてるなんて趣味どうなってるんでしょうかね?」


「え?何を言っとるんじゃ?それよりも今のうちに逃げるべきじゃろ!!」


キューブを取り出してから


「退路はありませんよ、あのドラゴンが崩してしまいましたからね。それにあなたがいるなら大丈夫ですよ」


キューブに魔力が注がれ、僅かに輝く


転生解除(アンロック)


その機械魔法を爺さんに向けて放つ


「何じゃあ!?」


「爺!!」


姫さんも慌てて駆け出した


爺さんの体が輝き、それは一瞬で治まると


柳一花(やなぎいちか)見参ー」


はい?あれ?俺は目を擦る

幻覚?

爺さんの小柄な体は輝きの後、スラリと伸びて

髪は綺麗な黒髪

後ろで髪をまとめているのは前と変わらずだし、服装もそのままなのに

まるで別人に…いや、え、一花?



「またピンチみたいじゃないか。ドラゴンか、異世界以来だね」


アイは一花に一本の日本刀を渡す

受け取ると振り向いて


「久しいな健司、アイは無事に人になれた様だな」


「一花さん、今はー」


「おお、分かっているさ。ドラゴンだな…私が相手するからアイは」


「はい!」


なにやら2人にしか伝わらない会話をしてから

アイに笑顔が戻る


「さあ、合間見えようか名も無きドラゴンよ。私の力を受け止めてみよ」


一花が刀を抜いて


一閃


「なんじゃ柔らかいのう…魔法を使うまでもないじゃないか」


ドラゴンが斜めに崩れる


「柳流、流れ星一閃。通じてなにより」


再生しかけていたハズだが、心臓ごと断ち切られてはたまらないだろう

ドラゴンは悲鳴すらあげずに呆気なく倒される


とんでもねぇな…いや、一花なら当たり前か

アイツの戦闘力は星をも斬ると言われていたからな


「それよか、本当に一花なのか?」


「そうだとも健司、久方ぶりだな柳 (ひとつ)の時の記憶はあるからそちらの事情は分かっているよ」


笑う笑顔は彼女そのものだ


「しかし、水上柚奈はまだ見つからんか、どこに居るのやら…」


「は?アイツ生きてんのか!?」


「死ぬわけなかろう?我らは不老不死となりし者だぞ?まあ、途中飽きて別の人生を楽しんだりもするのだがな」


納得した

おそらく彼女は強すぎる自分自身を封印し、デメリットだらけの設定で人生をやり直し続けていたのだろう


「それで爺さんかよ」


「まあ、な。しかし初めから爺だったわけではないぞ?若かりし時よりちゃんと人生を歩んだのだ」


やっぱりか


「てことは…昔から爺さん知ってる姫さんはヤバいんじゃねえか?」


見ると、姫さんは放心状態で


「爺が女に、爺が女なななな…」


壊れてるじゃねえか。まあ、しばらくしたら戻るかな


「まあ、(ひとつ)は死んだわけでは無いのだから大丈夫じゃなかろうか?あやつは私の別人格みたいなもの故」


「かもしれんが、ユニークスキル輪廻転生だったな。あれで完全な別人になってしまうとか理解できんだろ?」


ユニークスキル

輪廻転生

柳一花のみに許された、何度でも別人として人生を送れるスキル

擬似転生と俺は呼んでいる

別人として生きている時は一花の記憶は継承されない

しかし転送解除した場合には、一花として記憶が統合されている


「一花さん!終わりました!ありがとうございます!」


不意にアイが戻ってきた

そういやコイツ何してたんだ?


「私は壊れて良かったのに」


え?誰だこの全裸の女の子…


「ま…いい。改めてこれからよろしくご主人様」


んんん?誰…だ?


むう。詰め込みすぎたかな

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