牛ということは
ガアアアアアアアアアアアアアアアア!
「牛の鳴き声じゃねえだろ・・・」
耳をつんざく鳴き声は萎縮するには十分すぎる
ノルンさんが気を失った理由はわからないが、昔に何かあったのだろう
体長は4mはあろうかという巨大な牛だけど
赤い瞳がすげぇ不気味だ
角もなんだかドリルのような、曲がりくねったやつですげぇ刺さりやすそうに見えた
「クハハハハ!!お前らなんてぐはぁ!?」
あ。魔族の人が蹴られた
そのまま建物に突っ込んで気絶する
自分で呼んだ魔物に蹴られてたら世話ねぇな
「ふん・・・・一対一ならわしの敵ではないわ」
そう言って爺が構える
「柳一いざ参る!」
柳!?
いやまさか…とも言えないか、水上に柳か
爺さんが体を斜めに倒し駆ける!
槍を突き出したその瞬間
「ぐああああーー!失敗しもうしたぁー!」
あ。蹴られた
吹き飛んでさっきの魔族と同じ場所に突っ込んだ
牛は健在である
自分で何とかしようなんて思えないほど強そうだ
キラッと一瞬起動式が見えた
「ファイアストーム!!」
ギルドの偉い人が帰ってきて魔法を唱えるが
パリンッという音と共に起動式が壊れた
それを見てそのまま逃げる
マジでその筋肉飾りじゃねぇか
まさかアンチマジックじゃないだろうな…
いや、多分ギルドのえらい人の力量不足だな
魔法キューブはそれなりに集中力が必要だし
と言うかさっきの魔族と比べてよっぽどこいつのが強いんじゃないか?
ズン…ズン…と音を立てて向かう先は・・・
ヤバイ!
「おい!アイ逃げろ!」
「いやです!」
姫さんを抱えたまままだいたのか!
ぶんぶんと首を振るな!
「姫さん連れてにげろよアイ!」
「いやです!」
なんでウチのAIはこんなに言う事聞かないんだよ!昔はそんな子じゃなかったのにっ!!
「さあご主人様!牛やっちゃってください!」
「くそおおおお!!」
やるしかない
俺はカードリッジに土を詰めるのも忘れて刀を抜いた
指輪のシールドがちゃんと動くことを期待する!
さっきの牛の蹴りとかよけれる気しないからな!
「グォォォ・・・」
ちっ!こっちに気づきやがったか!
オイ方向転換してんじゃねえ!
横から足をぶった切る作戦がとれねえじゃねーかよ
つっか足が震える!!!
チラリと水上・・いや、姫さんを見れば目が合う
アイツとあまり似てねえなと思うが、あの髪型はそのまんまだな
動けない姫さんが魔法を唱える
「水よ、命の源たる大いなる力を・・・」
アイツが魔法を使う時、唱えていた魔法の呪文だ
「水よ、その色無き色で守り給え」
ちゃぽん…
水魔法によって身体強化と回復力向上
そして魔力により生み出された水の盾が走る俺の左右にふわりと浮かぶ
ああ、この感覚だ・・
昔かけられた魔法を思い出す
あの時もこの魔法だったな
そのせいか不思議とアイツの声が頭にこだまする
「そんなに慌てると上手くいかないよ。明鏡止水・・・だよ、ケンジくん・・・」
そうだな・・・心静かに、焦っちゃだめだ
体に力が巡っているのが分かる
ふわふわと浮いている水がシールドの役割をしてくれる
これは指輪のシールドとは違うが俺の意思で動かせるメリットがある
すこしだけ動かしてみると形状を変化させ錐状にしてみる
面白いな
水上柚奈の真骨頂は攻撃魔法などではない
そのサポート力にあったと、かつて教えられたが・・・
目の前に迫った牛がゆっくりと前足を前に出してくる
蹴る気だろう
それを見た感想は怖い遅いな
俺の反応速度まで上がっているのだろうか?
俺はその反対側の足に方向転換してから、落ち着いて刀を振るう
負荷もなく、するりと刀は前足を切断する
牛が体勢を崩して真上から落ちてくる
水の盾を牛に叩きつけ、落下までの時間を稼いで真後ろに飛ぶ!
よし、ちょうど牛の頭が落ちてくる位置だ
だが牛は倒れない。それどころか
後ろ足の筋肉が盛り上がる
バキン、バキンと音を立てて
「二本足で立ちやがった…」
「グアアアアアアア!」
怒ってるなあ。
「ミノ…タウロス…かッ」
お。爺も無事だったか
しかし二本足で立った牛の頭までは6mはあるだろう
その上でほぼ真上から、残った前足で俺を叩き潰そうとしてきやがる
「打つ手がねえ!」
なんとかその前足を躱すが、近づけない
ズンッと体が重くなる
魔法の効果も切れちまった!
どうするー?
「ご主人様コレをー!」
アイが1つのキューブを投げてきた
虹色のキューブ
これは、まさか
「マトリックスマジックキューブか!」
これは眠る前に「造ろう」として間に合わなかったマジックキューブの1つだ
本来魔法とは魔力を色々なもの、例えば火、水、土、風、光、闇などに魔法陣により変換し現実に不思議な事象を巻き起こす
当然、強い威力を誇る魔法と言うのは魔力も多量に消費する。それはマジックキューブで発動する魔法も同じだ
だがその根源たる魔力と言うのは何なのか?
変換する事で様々な効果を発動するー魔力
もしも、見えない魔力だけで、変換もせず行使できたらどうなる?
魔法を解き明かし、キューブを「創った」俺だから気づいた
魔力とは願望を現実にする
願望もなく、魔力本来の持つ力とは変換されたもの以上に強力なのではなかろうか?と。
魔力そのものの力を行使するキューブ
それがマトリックスマジックキューブだ
だからこいつの発動するのは魔法ではない
純粋なる、魔の力そのものだ
「カタストロフ」
そう言うだけで俺の手のひらに魔力が収束する
現れたのは輝く剣だ
「な、何あれ…」
「ま、魔法か?」
姫さんと爺が呟いた
俺も驚いている。
こんな感じで顕現するんだな
「まるで…光の剣…」
俺はソレをミノタウロスの体の真ん中目掛け、投げた
仕事忙しかったあ…
なんとかギリ今日間に合ったか