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スーパーの店員の水野さん  作者: 開墾路花壇
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6 暗いのは雲と、わたしの気持ち

6 暗いのは雲と、わたしの気持ち


 七月十三日 金曜日


 二子桜美川ふたごおうびがわ学園。昼食の時間―。

 また屋上で独り空しく弁当。わたしの手製の弁当。もっとまわりに自慢できたら。でも。いや。そんなのいや。だって関わるのが怖いから。

 昼休みのみんなが教室で昼食を食べる時間。わたしは、給水塔のはしごを上がりここでいつも過ごしている。わたしの特等席、今のところは。しばらくたたずんでいたら、ドアが開いて人が入ってきた。めずらしい。まだ昼食を食べる時間だ。

 ―わたしは息をひそめ、上空から気配をうかがう。男女である。男子の名前は戸田翔平とだ しょうへい・・・・・・女子の名前は、兵藤栞ひょうどうしおり。彼女の透き通るような目が目の前の戸田くんを一心に見ている。そしてこう言った。

「ごめん。わたし、あなたとは付き合えない」

「えっ、何で?わけを、そのわけを教えてよ」

「・・・・・・あのね。わたし、好きな人がいるんだ」

「えっ。誰?それ。もしかしておれの知ってる人じゃないよね?」

「わたしも誰かはわからないの」

「えっ?」

「昔、小学校の頃ね。友達と一緒に駅ビルの中のロビーに飾られた大きな笹に短冊を吊るしたの、でもね、そのときビルの人が用意してくれてた短冊とボールペン。書こうとしたら、みんな使われててなかったの。そしたら、隣で書こうとしてた男の子がわたしにペンを譲ってくれたの。まだ、自分の願いごとも書いてないのにわたしに先にってペンを貸してくれたの。わたし、感動しちゃって。当時のこと。話してると鮮明によみがえってくるの。・・・・・・笑っちゃうでしょ。もう何年も前のことなのにね」

「いや。別におかしくはないけど・・・・・・でもさ、当時のその男の子。てががりみたいなものがなければどうしようもないんじゃ。それに名前も知らないんじゃさ」

「ううん。手がかりはあるの」

「えっ」

「そのときのボールペン。とても印象的だったから覚えてるの」

「それってどういう?」

「先端に竜のマスコットがついてたからよく覚えてるの。あんな特殊なボールペン、市販されてるの見たことない。それにね・・・・・・」

「うん。何さ?」

「彼が書いてた願いごと。わたし盗み見しちゃったの」

「・・・・・・そこには何て?」

「二子桜美川学園に合格しますようにって」

「なるほど」

「わたしの初恋の人なんだ。あっ、戸田くんだから言うんだよ。断った理由。納得してほしいから」

「わかってるよ。それに・・・・・・」

「え、何?どうかした?」

「いや、なんでもない」

「それじゃ。わたし行くね。気持ちありがとう。大丈夫。戸田くんならきっといい人見つかるよ」

と、言って笑顔で、屋上から去る兵藤さん。ぼうぜんとその場に立ち尽くす戸田くん。

 ―しばらくして。

「お前じゃなきゃ、お前じゃなきゃ意味がないんだよ。栞!」


 そう言ってなぜか戸田くんはにやけていた。スマートフォンを取り出し電話をしだした。

「もしもしモロツキ。おれだけど。……うん。……うんうん。……元気そうだな。……うん、そうなんだよ。……それで、話かわるんだけど、いいかな?……わりいな。……竜のボールペン、どうしても貸してほしい。昼休みの間だけでいい。最近スケッチに、こっていてモロツキのボールペンめずらしいからさ。ぜひかきたいんだ。作品になりそうだから。……えっ、本当に。いいの。……よかった。……助かる。……うん、それじゃ十九日に。……うん、大丈夫。こっちでなんとかするから。……ありがとね。……うん。それじゃ、また。……うん。バイバイ」

 戸田くんは電話を切った。顔が……笑いを押し殺しているように見える。しばらく見ていたら、それから左手を胸の上に出して、「あのときの僕だよ」と言った。そう言って笑い出した。そしてそれはしばらく、続いた。

 どうしよう。余計なこと聞いちゃったよ、わたし。

 わたしは予想外の展開に動揺を隠せないでいた。そしてその動揺はなんともいえずとても不快だった。ふと空を見れば雨雲だった。

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