06 野営にて
パチパチと音を立てる焚き火を囲んで、ミズクは木の枝を放った。
一面の星空の下、彼女はオーバーサイズのコートを抱き寄せて息を吐く。
空気に紛れていく白いもやが、他に焚き火を囲む四人のものと重なる。
見た目は若くても雰囲気のある四人は、腕利きの冒険者たちだ。
「悪いね。こんなものでよければ飲んでくれ」
「ありがとう、ございます……」
剣士が二人と、弓使いが一人、それに珍しくも魔法使いが居る。
男剣士は、焚き火にかざしていたポットから薬草茶を注いで渡した。
体が温まると言われている葉を煮出したものだ。
不思議な匂いのするそれをミズクは、ちびちび舐めるように飲む。
「お返しというわけじゃ、ないんです、けど……」
「そういうつもりじゃなかったんだけど、ありがとう」
オーバーサイズのコートのポケットを探って、彼女は餞別代わりに持たせてもらったお菓子を取り出した。
「なんかあまぁーい匂いがする。ねえねえ、これってお菓子?」
「そう、です。仕事がない時に、働かせてもらってるところの、です」
「ふーん。二つ名がついててもそんなもんなんだ。一つちょうだい?」
センス持ちの冒険者たちの軽視が拭わつつあると言っても、まだ日が浅い。
労働期間や賃金を考えれば、それだけで食べていくのは厳しいものがあった。
魔法使いの女は、広げられたお菓子から一つを取ってひょいと口に運ぶ。
「なにこれおいしいっ。アンタどこの町の冒険者だっけ?」
「キュストモンク、です」
「最近、すこしずつ聞くようになったな。バニラ、だったっけ」
「あによー、いいじゃないの」
「意地汚い真似するんじゃない。ちゃんと分けるから」
魔法使いの女をしっしっと手で追い払いながら、剣士も一つ、摘んだ。
もぐもぐとやって目を丸くする。彼が食べたのは、煮詰めたミルクジャムを挟んだクッキーサンドだ。
「なるほど、こりゃうまいや。それに、やたらいい匂いがする」
「んん……なんだよ一体。ずいぶんとうるさいじゃないか。もう交代か?」
「ああ、すまない。まだだから寝ててくれ」
二人の騒ぎに、交代で睡眠を取っていた女剣士が体を起こす。
くぁ、とあくびを一つして、非難の目を向けてからふたたび眠りにつこうとした彼女は、目聡く彼の持った袋を見つけた。
「なんだ、それは」
「ミズクがお菓子くれたんだよ。後で分けるから」
「ふーん。……わたしの分はいまもらっておこう。あいつが食べかねない」
「あによー、そんな真似しないっての」
「うるさいぞ、お前たち……」
もう一人の弓使いまで目を覚ましたところで、ミズクはくすくすと笑った。
「ほら、笑われちまったじゃないか」
「あ、いえ。仲が、いいなって……うらやましい、です」
「んー。まあ、そんなもんかな?」
センス持ちの冒険者は基本的に孤独だ。大人数で仕事をすることがない。
だからこういう仲間や友だちという雰囲気が、温かいものに見えた。
彼らは肩をすくめて笑いあいながら、お菓子を数えて分け始める。
「冒険が終わったら、一度お店に来て、ください。サービスします、よ?」
「あはは。それじゃまるで冒険者が副業みたいじゃないか」
「あ……そう、ですね」
すっかり体に染み付いた店員としての精神のおかげで、彼女は顔を赤らめた。