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44 夜明け食

 真っ暗な夜空は薄雲がかって、いつもなら明るい星々さえも霞んでいた。

 山中、まわりに降り積もった雪と息ばかりが闇に白い。

 チュチュは翳る月を見上げながら、両手をこすり合わせてそこに息を吹き込んだ。

 振り返れば、石を積み上げたかまどでパチパチと火が燃えている。

 小鍋にきれいな雪を掬って入れると、そのまま火にかけた。

 雪はすぐに溶け出して、その色味を空へ逃していく。

 この時期は当然、農閑期だから早起きして畑を見る必要もない。

 彼女はただ、ひとりで夜を眺めるためにここにいた。


「星が見えると、もっとよかったんだけれど」


 そのうち、ぐらぐらとお湯が沸いてくる。チュチュはそこに持ってきた茶葉とたっぷりのハチミツを落とした。

 火に手を翳しながら三分くらい待って、大きなボウルにそのまま注いだ。

 息を吹きかけて茶葉が沈むのを待ってから、火傷しそうなくらい熱い紅茶を飲む。


「熱ッ……はあ、おいしい」


 もちろん、香りなんかちゃんと淹れたものに比べれば飛んでしまっているし、渋みや苦味も強い。それでも、寒さのなかで甘さと熱さは格別のごちそうだ。

 ふうふうと飲みながら、チュチュは小鍋を雪で濯ぐとふたたび火にかけた。そこへ朝食用に持ってきていた腸詰めとチーズを放り込む。

 おまけに、寒さで氷のように固くなっていた前日に焼いてあったふわふわ焼きを半分に割って、遠火に当てる。

 腸詰めから脂がじんわり染み出してチーズがとろけはじめると、フォークで小鍋をかき回しながら腸詰めにチーズを絡めていった。


「あっ、焦げ……る手前で、よかった」


 こんがりと焼けそうになったふわふわ焼きをひっくり返すと、パツパツに膨れた腸詰めと溶けたチーズを片方のふわふわ焼きにのせて、もう片方で閉じ込めた。

 チュチュは腸詰めとチーズの焼きサンドイッチを両手の指先で熱そうに持ち上げると、ざっくり齧りついた。

 香ばしく焼けたふわふわ焼きの中から、じんわりと腸詰めとチーズの塩味と脂が溢れてくる。口のなかを火傷しそうになりながら飲み下すと、お腹の底に火が灯った。


「ふう……ふう……」


 料理というほどのものでもないけれど、自分でこしらえたものと思えば悪い気はしない。

 冷める前にすっかり食べてしまうとチュチュは一心地ついた

 雪が積もるほど冷たい夜明けに、外で食事する。それになんの意味があるわけでもない。

 コッツにまかせれば、外でも上等なものが食べられるだろう。

 けれど、彼女ひとりでどうしようもないというわけでもなかった。

 もしかしたら、それを確認したかったのかもしれない、と彼女はいまにして思う。


「……はあ、熱が出る前に帰らないと」


 すっかり冷たくなった甘い紅茶の上澄みを飲んでしまうと、チュチュは片付け始める。

 遠くの空に、曇天の白さが滲み出していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 寒いところで、温かい物をたべるのもいいね なぜか同じものを食べても、普段と違った美味しさに感じるから不思議だね。
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