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36 寝起きのサンドイッチ

 マルファウトは喉の渇きで目を覚ました。


「っつ、あたま痛ェ……」


 追い打ちをかけるように、二日酔いがあたまの中の鐘を鳴らしている。

 あたまを抑えながらふらふら歩くと、炊事場の水瓶で口を濯いで喉を潤す。

 それでも、彼のあたまの内側で騒ぎ立てるちいさな妖精は消えない。


「……休みだからって、飲みすぎたか」


 冒険を終えてキュストモンクに帰ってきたその脚で、彼は飲みに出かけた。

 保存食の痩せた食事で萎びた体に、酒というオイルをたっぷり入れる。

 帰ってきたからには欠かせない行事だった。


「なんか、食っておかないと」


 なにも食べたくなくても、なにかしら体に入れておかなければいけない。

 マルファウトは炊事場とパントリーを見回してみたけど、がらんとしていた。

 帰ってきたばかりでろくに食材が残っていないのは当たり前だ。

 この際、保存食の残りでもいいと、彼は帰ってきて床に投げたままだった荷物袋を漁る。

 鈍い手つきで探してみれば、乾いた黒パンが四分の一と、見慣れない小壺が出てきた。表面には白い膜が張っている。


「なんだこれ」


 匂いを嗅いでみると、脂と香草のにおいが混じっている。

 二日酔いのあたまにはすこし重たいけれど、食べものの香りがした。


「……ああ。あいつのとこ行って、持ち帰りにあったの買ったんだ」


 マルファウトは、いつものように坂の上の店へ行って、チーズと塩漬け肉を載せたふわふわ焼きを包んでもらい、ふと持ち帰り用の商品を置いてある棚に目をやった。

 以前は焼き菓子や甘いものが充実してたところに、すこしばかり手のかかった保存食が置かれるようになっていた。

 ワールが店を任されてから冒険者用に、と品揃えを変えた部分だった。


「これでいいか」


 ナイフで黒パンを切り分けてから、壺のなかの保存食を掬った。

 ねっとりとした重い手応えの断面には、細かくほぐれた肉の繊維が見える。

 背脂と豚肉と細かく刻んだ香味野菜をじっくり火を通したリエットだ。


「パンも、焼かなくていいか。火を熾すのは面倒だ」


 カサつく黒パンにごってりとリエットを塗りつけて、黒パンで挟む。

 リエットのサンドイッチをがぶりと齧って、マルファウトはあたまを抱える。

 黒パンの酸味と歯ごたえが、重たくなりそうなリエットの脂と塩味を受け止めて、食べやすくしている。

 そうなると口に残るのは、塩味のきいた豚と脂の旨味だけ。


「あー、ダメだ。これは酒だろ……」


 革袋に残っていた安ワインを呷ると、マルファウトは明日の朝を覚悟した。

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