32 曇り
時代はワールが冒険者をしている頃合い
蓋を開けてみれば、お題目と内容がちがうということもある。
一例として、冒険者ギルドでもらった張り紙と依頼が違う、だとか。
実際、ワールはそういう状況に巻き込まれていた。
ある村の北方の山奥で、野生動物が暴れているから静かにさせてほしい、という依頼があった。
ある意味、それは正しかった。
その野生動物は山賊という種類だったけれど。
「はぁー……」
この頃、すでにトレードマークの大剣を背負って豪腕で振り回していた彼女からすれば、山賊も野生動物も変わらない。ただし野生動物と山賊では、依頼の難易度と報酬が変わってくる。
体よりも気力が疲れた気分で、ワールは懐の革袋から干し果物を取り出してかじる。甘いものは、彼女が落ち込んだ時にちからをくれる。
「……村、お金なさそうだったしなー」
依頼をしてきた村は開拓村で、人はそれなりにいるがお金はない。
ものもないという様子で、まちがいというより故意の匂いが漂っていた。
気持ちは理解できないわけではないけれど、いつか事故につながると思えば報告しないわけにもいかない。
そうしたら開拓村は、ブラックリストに載る日も遠くないだろう。
「あれ、そういうことだったのなー」
村を出る前にワールは、村の女の子から畑でできたものだとちいさな果物をもらった。みずみずしくて、それでいて酸っぱくて、ぜんぜん甘くない。
顎の付け根が痛くなるような味わいは、目が覚めるくらい強烈だった。
そんな果物でも、手渡してきた少女の表情はどこか後ろめたくて、それでいて惜しむぐらい果物に目が吸い込まれていた。
とっておき、だったのかもしれない。
それで許されるわけではないだろう。物事にはルールが存在する。
それが破られてしまえば、すべては立ち行かなくなる。
「銀貨何枚分かなー。高い果物だなー」
それでも情に流されてしまうのは、彼女が人間を嫌いになれないからだろう。
今回で終わりにすることを強く言い含めるために、ワールは山を下る。
山の空は変わりやすいというけれど、ずっと、もやもやと薄暗い




