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31 雨

時系列はワールがまだ冒険者時代

 道先の雲が濃いのを見て、ワールは一雨くるな、とため息を吐いた。

 大剣と荷物袋を背負い直すと、雨風が避けられそうな場所を探し出す。

 ほとんど豆粒にしか見えないくらい先に、ちょっとした小屋のようなものを見つけて、彼女の足取りは軽くなる。

 いよいよ、パラパラとした小粒が彼女の顔に当たりだした。

 頭上を見上げるワールの目にも、雲の色が黒々としてきたのがわかる。

 想像より早めに降ってきたのもあって、彼女は下唇を噛んだ。

 ワールはぬかるみ始めた地面でブーツを汚しながら、マントを靡かせる。

 隙間から入り込んでくる雨の冷たさに舌打ちして、それさえも雨音に消えた。

 視界が白く染まるほど、空から落ちる縦糸は数と勢いを増してきていた。

 濁った景色の中から小屋を見つけ出すと、ワールは文字通りに飛び込んだ。

 小屋の中はしばらく使われていないのか埃っぽいけれど、雨は入ってこない。

 服はすでにびしょ濡れで、ずっしりと水気を吸ったマントはぽたぽた雫を落として垂れ下がっている。

 脱げるものを脱いだワールは限界まで絞って、ビリっと破けるような音がしたことに顔をひきつらせた。


「あー……、もう」


 なにもかもうまくいかない気分になって、ワールは服を適当なところに掛けて干すと椅子に腰を下ろす。床に寝転びたくても、ほこりまみれになるだけだ。

 もやもやした気分を変えたくなっても、持っていた荷物にはろくなものがはいっていない。せいぜい、一掴みの干しぶどうが楽しめるくらいだった。

 小屋はただの休憩所で、暖炉の一つもない。あったとしても薪がなかった。

 くちん、と一つくしゃみをして、ワールは冷えた体に肌寒さを覚える。


「……こういう時、あったかいお茶でも飲めたらなー」


 ギイギイと軋む椅子に背中を預けながら、彼女は肺を空にした。

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