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03 猪の低温ロースト・サンドウィッチ

「ぷーにー」


 コロンから、ぽいっと湯気の立つ密封出来る大壺が出てきた。


「出来た?」


 コッツが蓋を取って中を覗き込めば、ピンク色に火の入った肉のブロックがある。

 水で手を洗うと、肉の塊を取り出してまな板の上へ置く。


「ぷににっ!」

「どれどれ……ああ、ちょうどいいぐらいに火が入ってるね」


 真ん中にざっくりと包丁を入れれば、中心は赤くなく、中まで一色だ。

 じっくり時間を掛けて火を通したから、しっかり火が通っている。


「ぷーにぃ、ぷににー」

「色が心配? なら表面だけさっと焼こうか」

「ぷに!」


 全体がなんとも言えず薄紅で、見ようによっては半生にも見えた。

 コロンの言うとおり、生焼けが怖い人から見れば、嫌かもしれない。


「よし、猪の低温ローストってところかな。やわらかさは……問題なし」


 表面だけ窯でさっと炙れば、焦げ目がついて美味しそうなローストになる。

 それを薄切りにしても、包丁はほとんど手応えなく切れるほどだ。


「お腹減ったー。なんかいい匂いしてるねー、なにそれー?」


 お腹を抱えたワールがキッチンへ入ってくるなり、すんすん鼻を鳴らす。


「ぷにっ!」

「へえ、おいしそー。ちょっと味見させてよー」


 コロンの説明に、ついに彼女のお腹がぐう、と声を上げた。


「ワールはしょうがないなあ。ちょっとだよ?」

「へへへー、ありがとー」


 コロンは何枚も低温ローストを薄切りに造ると、前日のふわふわ焼きを取り出す。

 窯で焦げ目をつけてから、薄切りのローストを挟みこむ。

 それと指一本分ほどの厚切りのを、いっしょにしてお皿に盛った。


「はい。そのままのと、塩味のふわふわ焼きで挟んだの」

「気が利くねー。そいじゃさっそくー」


 薄切りのローストを噛み締めたワールが、ぱっと目を開いた。


「なにこれ、すっごいやわらかーい!」

「でしょう。間違って低い温度で火を通しちゃったことがあってさあ」


 じっくり火を通すとお肉もやわらかくなるから、それを試作した時のことだ。

 眠気から温度を高めに保つのを失敗したことがあった。

 だというのに、それはいつも以上にジューシーでやわらかかった。

 二匹は、その失敗から温度で肉の状態が変わることを発見したのだった。


「そこから発見したんだー。うん、ハチミツと塩の甘じょっぱさもいいねー」


 火を入れる前に塩とハチミツを肉にすり込んであったから、味が染みている。

 香りのいいハチミツを使ったから、それ自体がハーブのような効果があった。


「味付けはもっとよく出来ないかなーって思ってるんだけどね」

「だったらその度に味見するから呼んでよー」


 サンドウィッチをもぐもぐかじりながら彼女は言う。


「ワールはなに食べてもおいしいしか言わないでしょ」


 ジト目をするように覗き込む黒い眼窩に、ワールは誤魔化すような笑みを浮かべた。


「出すの全部おいしいのが悪いんだよー。んぐっ、おいしかったー!」


 最後のひとかけらを口に放り込むと、彼女は満足そうにお腹をさする。


「それじゃあ、お使い頼まれて。マスターに運んでもらえる?」


 ワールが食べている最中に、もう一つ同じものを作っていたコッツがトレイを出す。


「いいよー。つまみ食いしたら許してねー」


 トレイを受け取って、ワールがキッチンを出ていった。


「ダメだってば! もう!」

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