20 鳥の餌
尺骨を組みながら、スケルトンは空っぽのされこうべに思考を詰め込んでいた。
ワールから頼まれた冒険者用の食料改善案が、ぐるぐると渦巻いている。
「安い干し肉をおいしく食べる方法ねぇ」
冒険者が旅をする時に持っていく非常食は、黒パンと干し肉くらいだろう。
裕福な冒険者なら干し肉も、燻製や香辛料で風味付けした上等品が買える。
けれど駆け出しの冒険者は塩だけで味付けしたものが精一杯だ。
「スープにするにも単調だし臭みが出るかな」
獣臭が鼻につくような品質なら、かさを増やしては食べるのが嫌になる。
だからどうやって食べやすくするかを考えるなら、
「臭みを抑えるものか、臭みが気にならないものか……」
という二つの方法がまず筆頭に上がる。
スケルトンは思い立って、干し肉を一度水で戻してから茹でこぼしてみる。
臭みはなくなったけれど味もなくなった繊維のかたまりは、あまりに寂しい。
ふたたび味を入れるとなると二度手間だし、栄養もなくなってしまう。
「やっぱり、臭みが気にならなくならないようにした方がいいよねぇ」
スケルトンは、干し肉のかたまりを指の骨でコツコツ叩いた。
その夜、スケルトンはまかないがてらに干し肉でいろいろと試していたが、どれもこれも上等の干し肉を使っていれば、という出来栄えになってしまった。
獣臭というのか、独特の匂いは打ち消そうとしても主張してくる。
ぺろりと食べたワールからすれば、いま作られた料理も悪くはない。
けれど、干し肉の癖を消そうとしてコストがかかりすぎているように思えた。
それなら最初から上等の干し肉を買ってしまったほうが逆に安くなる。
「んーとさ、おいしいんだけど、こんないい料理じゃなくていいよー。合わせる食材も、もったいないから野菜くずとかでじゅーぶん」
ワールは多少、食べやすくなればいいなぐらいの気で提案したものだった。
冒険者をしていたこともあるから、贅沢は言っていられないのもわかっている。
思った以上にスケルトンが本気で取り組んでいるのを申し訳なく思った。
「料理人の意地がありますから、やるからにはやりますよ。でも野菜くずはさすがに……あ、そうか。そういう手もアリなんだ」
思いついたように、カツンと顎の骨を鳴らす。
スケルトンはさっそく思い立って厨房へ戻ると、夜の仕込みがてら野菜の皮を剥き始めた。
数日経って、スケルトンはすこし厚めに剥いた野菜の皮をからからに干しあげたものを砕いていた。
かしゃかしゃとおもしろいように砕けるのを手伝って貰いながら、そこに細かくした安いの干し肉をすこしだけ混ぜる。
ざくざくしたチップが雑多に混ざった様子は、鳥の餌のようにも見える。
「たぶん、こんな割合でいいと思うんだけれど」
それを一掴み小さな鍋に入れて水といっしょに煮ていくと、干しているおかげかすぐに味と香りが出てくる。
以前なら干し肉の獣臭が前へ出てくる匂いだったものが、いまは野菜のものと混ざりあって、すこし癖はあるものの、いい香りと言えるものになっていた。
「んー、なんか嗅ぎなれないにおいがするー。新しい料理ー?」
キッチンへ注文を取りに入ってきたワールは、すぐにその鍋に顔を近づける。
野菜くずと干し肉のかけらが煮えている様子は、あまりいい見た目ではない。
「ワールに頼まれていた干し肉の食べ方です。味見する?」
「するするー」
にこにこしながらワールは、小皿に取ってもらったスープを飲む。
野菜と肉にちょっとした爽やかな香りが混ざって、調和している。
彼女には、これで一品として飲めるほど完成しているように思えた。
「んー、香辛料入れたー?」
「いいえ。野菜くずと干し肉と、ちょっとしたものです」
「えー、なんだろー。おいしいんだけど……わかんないやー」
「正解は果物の皮です。紅茶にもリンゴの皮を使うのを真似ました」
「あー、リンゴかー。干し肉とリンゴなんて結びつかないよー」
スケルトンは干し肉の匂いに、同じように香りをぶつけることを思いついた。
野菜でも果物でも、一番香りと味が強いのは皮とその近くだ。
干し肉も癖が出すぎない程度に減らして合わせれば、匂いが旨味に変わる。
そして果物の皮が野菜の土臭さを消して出来上がっていた。
「でもさー、これって干し肉の食べ方じゃなくて、新しい料理だよねー」
「結果としてそうなりました。でも肉よりは野菜のほうが安いですよ」
「なら、これはこれで売ろうかー。新しい冒険食だー」
見た目は鳥の餌みたいだけれど、火と水が使えればすぐにスープになる。
いざとなれば、そのままバリバリと食べることもできるこれは、駆け出し冒険者に愛される商品になった。




