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18 ナッツ・ナッツ・ナッツ

「もけぇー……」


 しまった、という風にトリギュラは焼いた木の実を砕く前脚を止めた。

 殻を剥いて粗目に砕いておく下ごしらえは慣れたものだけれど、細かくした状態で止めておくのはなかなか難しい。

 よく砕きすぎたナッツはオイルが出て、ねっとりし始めている。


「あー、しょうがないよ。これはこれで使い道があるから大丈夫」

「もけもっもー……」


 肩をかしゃかしゃ叩く白い骨の手触りが優しいからこそ、トリギュラにとっては一層やるせない。

 一つ鳴いたトリギュラは、木の実を更に砕いて練り上げていく。

 ほとんど粒がなくなってとろりとした液体になってくると、厨房にナッツペーストの甘い香りが充満してくる。

 こうなってくると保存食の刻んだナッツのミルクジャム和えには使えないから、焼いた生地に混ぜたり塗ったりして食べるのがいいだろう。


「お疲れさま、トリギュラ」

「もけー、もけもー」

「心配ないってば。まかせてよ」


 カラカラと胸骨を叩くコッツに頭を下げると、トリギュラは次の作業に取り掛かった。今度は砕きすぎないように、慎重に木の実の様子を見ながらやっている。


「えーと、木の実のふわふわ焼きはこの前やったし……」


 まかせろとは言ったものの料理人も、かんたんにレシピが浮かぶわけではない。

 ナッツペーストは美味しいけれどミスの量だから、店に出すほど多くなかった。

 そのため、まかないとして消費されることになる。


「うーん、あえて増やしてみるのも悪くないか。おーい、コロン居るー?」

「ぷにー?」


 呼ばれたコロンがぽてぽてと低く跳ね転がりながらやってきた。

 朝の仕事が終わって休憩中だったからか、すこし暇そうにも見える。


「ちょっと多めにバターを作って欲しいんだ。使いたくてさ」

「ぷにっ!」


 ミルクの容器を渡されると、コロンはすぐに飲み込んでシェイクを始める。

 冷やしながらやっているからか、弾力のある表面はうっすらと霜がかって白い。

 体験から、冷たい状態のほうが早く固まることを知ったようだ。

 頼んでから十分もしない内に、コロンはバターを作り終えてしまった。


「ぷににっ!」

「ありがとう。助かったよ」

「ぷーにー」


 ミルクの甘い香りがするフレッシュバターを取り出すと、コッツはそこにナッツペーストを入れて練り合わせていく。

 ふわっと甘いところにナッツの香ばしさが混ざって、残った粒が中に見える。


「ちょっと固いかな」


 ナッツペーストで緩まったものの、かき混ぜる感触は重たい。

 コッツはハチミツをすこしずつ垂らして様子を見ながら混ぜ終えた。


「こんなものかな。朝の準備はこれでよし、っと。ティレントお願い」

「ちゃのー!」


 焼きたてのふわふわ焼きと、塩漬け肉と干し野菜のシチュー。

 それに、できたてのナッツバター。

 湯気を立てるそれらを、ティレントは枝を使って器用に運んでいく。


「評判がよかったら、トリギュラのおかげかもね」

「もけー?」


 テーブルに着いてがやがや食べ始めるドアの向こうを想像して、コッツはされこうべをカラカラ鳴らした。


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