16 ダンジョン日和
よく晴れた日に、土のむき出しになった道を歩いていた。
細い木の棒を杖にしながら、周囲の気配を探って先へ進む。
「ミズクは大きな国へ出ようとは思わないのか?」
ダンジョンへ冒険者たちを案内する途中、彼らのリーダーがそんなことを言う。
三人組のパーティーで、同い年くらいの少年たちだった。
装備もそれほど立派じゃなくて、お下がりに着られている印象が抜けない。
「ぼくは……うん。いまのところ、そんな気はない、かな」
「どうして。ミズクさんってこのあたりじゃ名前持ちでしょ?」
彼らの先頭に立って、周囲の気配を探りながら言う。
すこし嬉しくて恥ずかしいことにぼくは『舌先』なんて呼ばれている。
大した理由もないし、由来はダンジョンを真っ先に味わうから、らしい。
「すっごい冒険者になって名前を轟かせようとか思わない?」
ぐっ、と伸びをして空を見上げる。雲一つないせいか青過ぎるほど青い。
息を吐いて土っぽい空気を吸い込む度に、自分が冒険者になっていく。
「うん。そういう人って、忙しそう、だし」
身近にいる人を見ればいつも忙しそうに、楽しそうにしているのがわかる。
もうちょっと体を気遣って欲しいし、自分も同じなんだろうなと思う。
自然に浮かんだ笑みが漏れると、後ろに居た少年が顔をしかめる。
「有名にならないで暇をしているのがいいなんて、変わってるなあ」
「ぼくは、臆病だから。危ないの、あんまり好きじゃ、ないし」
「オレたちはどんな危険でも、ガンガン乗り越えていくけどね!」
冒険へのキラキラした憧れを抱いた彼らは、これが初めてのダンジョンらしい。
背中に当たる気迫と強がりがくすぐったかった。
これから向かうダンジョンは、ほとんど掘り尽くされているような枯れた遺跡で、きちんとした探索をすれば危険はあまりない。
「ガンガンはダメ、だよ。チョビ、チョビ。ね?」
「……えー、なんかそれカッコ悪くない?」
「冒険者は、怪我しないで帰るのが、一番カッコいい、んだよ」
振り返って言うと、後ろの子たちは首を傾げてわからないような顔をしていた。
困ったように笑うと、景色に目を移す。近くに水源があるのか、むき出しだった地面にすこしずつ草が生えてきていた。
このあたりには、擦り傷や切り傷に効くような草花が生えていることを思い出す。
「ちょっと寄り道、していこうか。ダンジョン前に、休憩しよう、ね」
「疲れきったとこで着いてもキツいか」
背中に、人を怠け者というような視線が突き刺さった。
彼らのダンジョンアタック後、草花は大いに役立ってくれた。




